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心中未遂

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「俺は、たくさんの女を自分のものにしていたい。そして、一人の新しいオンナを手に入れるために、今まで付き合っている女から、新しい女のために使う金を貪るのだ」
「なに、元々その女と付き合い始めた時だって、他の女からお前のために金を貪りとったんだ。お前だっていい思いをしたんだ。今度は違う女に移っただけさ」
「別れようなんて、ケチなことは言わないさ。お前は何も知らないでいいんだ。知らないのが幸せなのさ。俺を含めてな」
 三枝信二は女から貪りつくして生きてきた男だ。夢の中だということで、抑えが利かない妄想を抱いてはいるだろうが、まったく意識のないところからここまで酷い発想が生まれるわけもない。三枝信二に対して、心の奥底にこんなイメージを抱いていたに違いないのだ。
 こんな男を心の裏側に抱いていたというのは、本当だろうか?
 三枝が理沙に話してくれた内容と、夢の内容はあきらかに矛盾している。
 三枝は理沙との付き合いをかなり長い間のことだと言った。もちろん、途中まで友達としてのつき合いもあったと言っていたが、三枝信二が帰った後、考えてみれば理沙は彼の言葉を思い起して思い出したこともあった。
――確かに私は途中まで友達だと思っていた人と、お付き合いをしたことがあることに違いないようだわ――
 次第に思い出してきたが、それが本当に三枝なのか分からない。
 三枝信二の表情を見て、一部だけしか見たことがあるという感覚がない。三枝信二という男についても、考えれば考えるほど、霧の中に隠れてしまうそうに思うのだ。
 理沙は、今までに付き合った男性の半分は、そんな感じだったように思えてならない。その人の一部だけしか覚えていないというのは、それだけ気になっていたのがその人の一部だけだということで、今までに一人として、その人全体を見たことがなかったのかも知れない。
 本当に好きになった人なんて、今までにはいなかったのだと考えると、どこかで一度自分の気持ちをリセットする必要があるのではないかと思うのだ。
 今までに何度かリセットしたことがあるような気がする。失恋もある意味では頭の中の「リセット」に違いないだろう。「リプレイ」ではなく「リセット」。同じことを繰り返しているようでは、先に進むことなどありえない。
 今まで付き合った男性の中で、一番忘れられなかった男性は誰だったのだろう?
 初めて付き合った男性だったのだろうか?
 その人のことを思い出してみると、よみがえってくるものがあった。
 理沙は、今まで男性と付き合って、「リプレイ」ばかりを考えていたのかも知れない。「リプレイ」とは、付き合っていた人とうまくいかなくなって、再度やり直したいという気持ちになるのだが、それは根本的なところでどこが悪いのかという見方ではなく、まず最初に戻ってやり直したいと考えることだった。
 最初にさえ戻ることができれば、やり直せると思うのは、自分たちが悪いわけではなく、ぎこちなくなったどこかに分岐点があり、分岐点に気付かずに来てしまったからだと思うのだ。
 もう一度最初からやり直すことさえできれば、二度と同じ過ちを犯さないという思いがあるからで、過ちがあると、最初からみとめてしまっているのが、「リプレイ」である。
「リセット」の場合は、最初に戻るのは同じでも、そこからすぐに前に進むわけではなく、そこがいけなかったのかを考えることである。
 時間が止まることはないので、リセットを考えるのであれば、リセットする前に、どこが悪かったのかを知っておく必要がある。そして、事前対策を考えて、先に進む道を模索する。よほど計画的であり、無理のないやり方だ。
 ただ、リセットはリプレイと違って、リスクを伴うような気がする。再度うまくやり直すには、不必要なものは、容赦なく排除する必要がある。戸惑っている時間はない。そのために、記憶しておくべきことなのかを見誤ってしまい、記憶が欠落したことがあるのだと考えたことがあった。記憶喪失であれば、そう一筋縄ではいかないが、記憶の欠落であるならば、無意識に自分の中をリセットしてしまったことによるものだと信じて疑わなかった。
 弥生が理沙を見て、理沙が弥生を見て、お互いに、
――自分の足りないところを補ってくれる特徴を持っている人だわ――
 と感じていた。
 理沙がリセットをどこかで掛けたのだろうが、それがいつだったのか分からない。しかも、リセットを掛けることで記憶が欠落することは何となく分かっていたが、記憶の喪失とは別のものだと思っていたので、自分がリセットを掛けたから、記憶がないという意識はない。
 弥生の場合は、自分がリセットを掛けたという意識自体がないので、記憶の欠落の真意を分かるはずがない。
 お互いに記憶がないことと、リセットの関わりに関しては否定的だ。弥生に関しては意識すらないので、記憶の欠落の真意が分かるまでには、相当時間が掛かるかも知れない。
 だが、時間は掛かるだろうが、弥生の場合は、記憶の欠落の意識が宿るのは一瞬かも知れない。欠落した記憶が自分の中でどのように再燃してくるのか、あるいは、このまま思い出すことはないのか、自分の意識と本当に同じラインに立っているのか、想像の域を超えることはできない。
 リプレイは堂々巡りを繰り返すことになる可能性はかなり高いが、リセットして堂々巡りを繰り返すことは少ないだろう。
 リセットすることで、一度戻った場所から再度繰り返すのであるから、堂々巡りを繰り返さないようにするためには、一番いいのは、下手な意識は捨てることであり、変な記憶が残っていると、堂々巡りを繰り返してはいけないと思うあまり、自意識過剰になってしまい、知らず知らずに再度同じ道を歩いてしまっていることがあるからである。
――何かをリセットしようと思ったのかしら? そしてその時に記憶の欠落を一体どれだけ意識したのだというのだろう?
 理沙は夢の続きを見ることができないのは、このリセットに繋がる記憶を一本にしてしたいたくないという考えの元だった。自分が見たいと思っている夢の記憶を一度遡るために、わざと夢を忘れないというのであれば、
――この夢は、本当に自分だけのものなのだろうか?
 というおかしな考えが頭を過ぎることがあった。
 夢の中では時間の感覚もなく、本当に時系列で動いているのかどうかも、信じられないことがあるくらいだ。
 三枝信二の夢を見た時、
――この男はとんでもない男だ――
 という印象を受けるのだが、少なくとも意識の中に漠然としている三枝信二は、自分が慕うに値するほど、曲がったことのできない性格だったのである。
 夢とは自分を納得させてくれないものだと思っているが、その逆もあり得るのかも知れない。
――覚えている記憶のパーツを無意識に繋ぎ合わせたことで、記憶が一貫しているのだと思っているだけで、本当は夢はすべてが断片的にしか覚えていないものだ――
 という考え方が存在するのだとすれば、
――納得させてくれないものは、勝手に作り上げた幻想を見ているからだ――
作品名:心中未遂 作家名:森本晃次