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心中未遂

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 と、声にならない声を発したようだが、誰にも届かない。しかも、ここは声が通らない世界のようだ。自分がこの世界に入り込んだわけではなく、まわりにいた人たちが次第に消えていって、自分だけが取り残されてしまったのだ。
 助けを呼んでも誰もくるわけではない。
――これが、さっきの不安の正体なのかしら?
 と思ったが、どうも違うようだ。これ以上の恐怖が待ち構えているのだろうが、それがすぐにやってくるものなのか、それとも、しばらくこのままなのか想像もつかない。ただ佇んでいるだけの世界ほど、気持ち悪いものはないのだ。
 だが、恐怖は思ったよりもすぐにやってきた。
 助けてという声が届いたのだ。
 誰もいなくなったその場所に、誰かの気配を感じる。まだ姿は見えないが、確かに誰かが存在しているのだ。
 それが自分であるということに気付くと、弥生は恐怖の声を上げた。さっきまで声が通らない場所だと思っていたが違うのだ。自分が声を出せないだけだったのだ。精一杯の恐怖の声を上げ、まるで断末魔のような声に、目の前の自分はびくともしない。
 だが、夢を見ている自分には分かっていた。
――これはさっき、別世界に存在している「もう一人の自分」なんだわ――
 とすぐに分かった。
 夢の中の自分がそんなことを分かるはずもない。ただ恐怖が襲い掛かったまま、どうしていいか分からずに、金縛りに遭ったかのようだった。
 その後、夢はすぐに覚めた。
――もう一人の自分を見た瞬間に目が覚めてしまったんだわ――
 と、その時は思ったはずなのだが、今思い返してみると、もう一人の自分を確認して少しだけ、まだ夢の世界にいた気がする。
 この気持ちが実は、目が覚めても夢を覚えていた秘密なのかも知れないと思う。夢というのはそのほとんどが、目が覚めるにしたがって忘れていくものだからである。
――夢を覚えているというのなら、覚えているだけの何か理由があるに違いないんだわ――
 と弥生は感じていた。
――夢は続きを見ることなんてできないんだ――
 という思いがあり、続きを見ることができるとすれば、前提として夢を覚えておく必要がある。
――待てよ――
 弥生はもう一つ別の発想が浮かんだ。
 夢を覚えているから、夢の続きを見たことがないと思っているからで、夢を覚えていないと、次に見た夢が前の夢の続きだったかどうかなど分からないではないか、特に覚えている夢などほとんどないはずなので、続きが見れる見れないは分かるはずもない。
 だが、これも夢の続きを見ることができるかどうかという発想であれば、確かにそうである。弥生は見たことがあるかどうかを自問自答を繰り返しているのだから、自覚していることでなければ、この発想の意味はないというものだ。
――夢の続きを見たい――
 という発想が前提にあっての話から波及した発想なので、それも当然の考えであろう。
 弥生は、その夢の続きを見たのは、その日の夜、布団の中でであった。目が覚めた時、昼間に見た夢の曜日を覚えていたことと、翌日目を覚まして曜日を確認し、次の曜日であったことで、すぐに理解した。理解するのに考えがあったというよりも、本能的に意識して確認したと言った方がいいかも知れない。
 続きの夢であることは、夢に突入した時に分かったようだ。なぜなら、思わずもう一人の自分がそこにいないかを確認しようとして、昼間見たその場所に自分がいないことを確認し、ホッとしたからであった。
 ホッとした瞬間、まわりには誰もいなかったはずなのに、目の前に人が急に現れた。それは現実の世界さながらの賑やかさで、却って、
――本当に夢なの?
 という思いを感じさせるほどだった。
 しかも、続きだと思っている夢は、今度は一度目の夢の最初に向かって遡っているように感じたのだ。
――遡ってしまっては、昼間見た夢と今の夢で相殺されて、夢自体が皆無にならないかしら?
 と感じたが、逆である。
 意識して残っている分、皆無になることなどなく、倍の意識、つまり夢の継続として頭の中に残っているのだ。遡ったという気持ちは今思い出したことで分かったこと、意識しなければ、見たモノは、
――夢の続き――
 に他ならないのだ。
 弥生は、さっきの神社の夢で、恐怖を感じたわけでも、ましてや、もう一人の自分の存在を感じたわけでもない。ただ気になる二人の男性。それぞれに見覚えがあるのだ。そして、何よりも二人が会話していることに違和感、いや嫌悪感さえ感じてしまっていたのだった。
 以前に見た夢は弥生の中で、
――一度進んで、再度元に戻った――
 という発想を植え付けた。
 これは、時々気になっている
――堂々巡り――
 という発想とは違うものであった。
 堂々巡りは、輪になった部分を、どこが終点であるかも分からず、ただグルグル回っているものである。しかし、以前に見た夢の続きは、到達した道を、再度同じルートで遡るのだ。ちょっと考えただけでもまったく違うものであることは一目瞭然である。
 しかし、弥生は、夢の続きが、堂々巡りに近いものだとして理解しようとする意識が自分にあることを感じていた。
 夢は、現実とは違う。異次元の世界であるが、それが時間を超越しているという発想はあるが、その中で、見えている世界として、点なのか、線なのか、立体なのか、そのどれなのかが分からない。堂々巡りを立体のイメージでとらえている弥生には、続きを見てしまった夢が遡ってくるものは線でしかないと思っている。線はあくまでも直線、それが堂々巡りという現実との違いだと思うのだった。
――夢は時間を調整しようとする潜在意識なのかも知れない――
 弥生は、今そんなことを考えている。
 今までは潜在意識という考えはあったが、ただ潜在意識というだけで、普段から常に意識してるわけではなく、特別な時だけ意識するものが潜在意識の定義のように思っていたが、その潜在意識に種類があるという発想を考えたことは、今までになかったのだと感じていた。
 弥生は、今日の昼間見た神社の夢の続きを見たいと思っている。今までに見た続きは、過去に遡ることだった。
――そこから先を見ることはできないということなのだろうか?
 特に今日は自分の姿を見たわけではない。同じ夢を見れる要素はないような気がした。
 だが、弥生には予感めいたものがあった。
――自分が現れなくても見れるかも知れない――
 その根拠は、昼間の夢を忘れていないことだった。
 普段だったら、目が覚めた瞬間に忘れているのに、夢を覚えているというのは、何かあるからに違いない。
 それでなくとも、病院に入院したのは、記憶の欠落があったからだ。覚えていないことが多いと思っている夢で、しかもインパクトのある夢、
――もう一度見ることになる予感がする――
 という意識の元の記憶など、偶然がいくつも重なった中に、真実が隠されているかのようだった。
 弥生は、その日夢を見るだろうという予感の元に眠りに就こうとしていたが、なかなか寝付けるおのではない。特に、目的があっての睡眠など、今まで考えたこともない。
――自分にとっての安息の地――
 それが睡眠だったのだ。
――あの時、どうして死ねなかったのかしら?
作品名:心中未遂 作家名:森本晃次