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心中未遂

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 という意識もあったりする。
 足が攣る時、もう一つ感じるのは、
――誰にも知られたくない――
 という思いだった。
 足が攣ったのを人に知られて心配されるのを嫌だと思っている自分がいる。それは心配されることで、余計に自分が痛い思いをしているという自覚を持たせ、自己暗示を確固なものにしてしまうからであった。
 意識してしまうと、どうにもならないということが分かっているのも、足が攣った時に感じることだ。
――通り過ぎるのを待つしかない――
「固まってしまった足を揉みほぐせば痛くなくなるよ」
 と言われるが、痛い思いをしているのに、そんな余裕などあるはずもない。
 かといって、人に揉みほぐしてもらうと、さらに痛い思いをしなければいけない。
 だから、人に知られたくないという思いが無意識に働くのだ。
 それは、苛められっこが、自分の親や先生に苛めに遭っていることを知られたくないと言う思いに似ているかも知れない。
「親や先生に迷惑を掛けたくない」
 知られてしまうと、
「どうして言わなかったの?」
 と聞かれるであろう。聞かれてしまうと、迷惑を掛けたくないという話を、まずほとんどの人がするだろうが、それだけが本心ではない。本当の理由はそこにはないのだ。本当は、
「知られて大げさにされてしまっては、自分の中にだけあるまわりには知られたくない傷が開いてしまうからさ」
 と言いたいのだが、口が裂けてもそんなことを言えるはずもない。
 傷口を広げることは誰もがしたくないことである。それを広げてしまうにはそれなりに理由があるが、少なくとも自分から広げるような愚を犯したくないと思うのは、誰もが感じる感覚ではないだろうか。
――それにしても、何という夢を見てしまったのかしら?
 それは、夢の内容の突飛なことに感じた思いではない。以前にも同じようなことを感じたことがあると思っていたことだった。
――欠落した記憶の中に潜んでいることなのかしら?
 確かに突飛な発想である。
 まるでテレビドラマのサスペンスによく見られるワンシーンのようではないか。それほどテレビを見るわけでもなく、見ていたとしても、映像と音声が殺風景な部屋を明るくするためだけにつけているテレビの中から見えてきたり聞こえてきたりするものだ。集中して見ていたことは、それほどなかったような気がする。
 ただ、少なくとも見えていた風景が、異様ではあるが、見覚えは確かにあった。それが映像としてテレビから入ってきたものなのか、直接目で見たものなのか、そこまでは分からない。欠落した記憶という意識の強さが思い出そうとする意識を邪魔しているのではないかとさえ思うほどだった。
――朝もやに煙る神社の境内――
 このシチュエーションは、自分が記憶している中には確かになかったが、一度感じてしまうと、なかったことが不思議なくらい、意識の中から消えないものとして残ることが分かっていた。
 弥生は、その日の夜、また違った夢を見た。
 この夢が昨日の夢の続きであることを、持ちるん知る由もなかった。それよりも何よりも、
――夢の続きを見ることなんて、不可能なんだ――
 という意識が強く頭の中にあったからである。
 夢というのは潜在意識が見せるものだという大前提が弥生の中にあった。弥生はそれを自分だけではなく、誰もが感じていることなのだろうとも思っている。
 そのことが頭の中にあるから、本当の真実を見誤っているのではないかと思うのだが、夢の続きを見ることができないという理由は、別にあるというのだろうか? もし、夢の続きを見ることができたとすれば、それが果たして真実と本当に言えるのかどうかを考えてみると、疑念ばかりの残るのだった。
 夢の続きを弥生は一度だけ見たことがあったのを思い出した。確かあの時も、今と同じように、記憶が欠落したという思いがあったのではなかっただろうか?
――ということは、記憶が欠落したことがあるのは、今に始まったことではないということなの?
 まったく意識もしていなかったことを、夢という潜在意識が司ると思っている世界から過去のことを思い出させ、今と同じ境遇であることを知らしめられるというのも、皮肉なことである。
 さらに弥生が思い出したこととして、その時の夢も夜、布団の中で寝ていて思い出したものではないということだった。
 あれは学校の授業中、夢を見ていたのだが。その時先生から無理やりに起こされて、あの時も、
――中途半端で起こされて、気が収まらないわ――
 と、露骨に先生を睨みつけたことがあった。
「何だ、その目は」
 と、言われて、さらに睨みつけてやったことを覚えている。普段なら先生に逆らうことのない弥生がいきなり見せた反抗心に、さぞや先生もビックリしたことだろう。
――いい気味だわ――
 弥生は今までにない優越感と、清々しさを感じていた。自分の気持ちを表に出すことの快感をその時初めて知ったのだった。
 それは気持ちを正直に表に出すという、当たり前のことのはずだったのに、どうしてできなかったのかとその時には思った。今では逆に、自分の気持ちを表に出すことが多くなり、まわりが控えめな人ばかりであることに気付いた時、違和感を感じたほどだった。
 元々の夢がどのようなものだったかというと、夢の種類から言えば、
――怖い夢――
 というイメージであった。
 ただ、最初から怖い夢だったわけではない。夢を見ていて途中から恐怖感が溢れてきたのだ。
 見ている夢は恐怖という言葉とは似つかわしくない普段の生活の夢だったのだが、何に恐怖を感じたかというと、夢の主人公である自分が、何かに怯え始めたことに気が付いたからだ。
 何に怯えているかというのを見ていると、ソワソワしている様子に、その視線の先が一定していないことが分かった。
――まだ、自分でも何に怯えているのか分からないのだろうか? それとも分かっているけど、まだ現れていないからオドオドしているのかしら?
 と、夢を見ていて思っていた。
 だが、実際には、その両方であった。怯えているものが分かっていなかったし、怖いと思うものがまだ現れていないことを知っていたのだ。
――正体が分からないのに、恐怖が近づいてくることへの恐怖がこれほど気持ち悪いものだったなんて――
 夢を見ている自分には、主人公の自分の気持ちが手に取るように分かってくるようだった。
 見ている夢が、少しずつ変わってきている。最初はどこが違っているのか分からなかったが、
――寂しさの元に夢が成り立っていることなんだわ――
 と思うようになると、まわりにいた人がどんどん減ってくるのを感じた。
――最後には一人になってしまうんだわ――
 と思うと、一人取り残された自分のイメージが最初に浮かんできた。そして浮かんできた自分が、夢とは別の世界に存在しているかのような錯覚に陥ったのだ。
 果たして、最後の一人になると、もう疑いようのない孤独感と寂しさが襲ってきた。
「助けて」
作品名:心中未遂 作家名:森本晃次