小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

リードオフ・ガール3

INDEX|8ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

 ホームに投げる時はつま先がやや内に入り、牽制の時はやや上に向く、そのクセを淑子はわかりやすい表現で英樹に伝えていた。
「スパイクの金具がチラッとでも見えたら牽制、見えなかったらホームよ」と。
 つま先の角度はかなり微妙な違いなのだが、金具が見える、見えない、と言ったはっきりした基準があれば理解しやすい、英樹も二球の牽制と一球の投球でその違いをはっきり確認することが出来たのだ。
 
 達也のカウントは0-2、バッテリーは次の一球をストレートで外して来た、四球目のカーブへの布石、達也はそう考えながらバットを構え、ピッチャーがモーションに入る。
 しかし淑子は動かなかった、それを視界の片隅に捉えた達也はストレートに狙いを絞った。
 カーン。
 空振りを狙って内角高めに来たストレートだったが、達也のバットはそれを捉えた。
 犠牲フライには充分な飛距離、由紀はホームを駆け抜け、英樹もタッチアップして三塁を陥れた。
 サンダース1点先制、しかもワンナウトランナー三塁。
 続く幸彦もカーブを叩いてセンターに犠牲フライを打ち上げて英樹をホームに迎え入れ、続くバッターは5番の慎司。
 
 しかし、相手の監督もボンクラではない、何故かカーブを狙い打たれていることには気付いていた。
 向かい風なのでカーブを多投しているにせよ、まるで球種が読まれているかのようにタイミングを合わせられている、単にヤマを張っているにしては2ストライクからでもカーブを狙って来るのはちょっと解せない。
(どうしてなんだ? 俺が見落としていたクセでもあるのか……)
 監督は目を凝らすが、クセなど見当たらない、もしかしたら少し力んでテークバックが大きくなるかして握りがバッターから見えているのか……?
 次の瞬間、慎司のバットが快音を響かせて打球はレフトへの鋭いライナー、監督は思わず立ち上がった。 幸いにして打球はレフト正面へ飛び、レフトは数歩動いただけでグラブにボールを収めたが、少しでもコースがずれていれば長打になるような当たり、監督は胸をなでおろした。

 d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ!  (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!

 4回の裏、雅美に代わって勝がマウンドに上った。
 勝にとってはこれが公式戦初登板、しかも県大会決勝と言う大舞台だ。
 だが、光弘からは「2イニング、2点までOK」と言われ、味方はその通りに2点を取ってくれた、ウォーミングアップの時間もたっぷりあった。
 先頭打者は5番・レフト、大物打ちの中心打者だが左打ちだ、サウスポーからのスリークォーターの自分に分がある、よしんばホームランを打たれても1点だ、勝は強気で攻めていくことが出来た。
 そして2ストライクからの3球目、外角に外したボールだが、体が早く開いてしまい、泳ぐようなスイングで空振り三振、最高の滑り出しに勝は勢い付いた。
 右投げのナックルボーラーであまりスピードはない雅美から、左のスリークォーターでクロスファイアーにズバリと投げ込んで来る勝へのスイッチ、目先はガラリと変わる、6番、7番は膝元に食い込んでくるボールにバットを合せるのがやっと、緩い内野ゴロ2本であっさりと攻撃を終えた。

 5回の表、6番の和也はカーブを狙い打ってレフト前ヒット、スパイクの金具を確認してあっさりと2盗を決め、7番の新一は逆にカーブを捨ててストレートに狙いを絞って一塁線に転がしてワンアウト3塁。
 そして8番の明男はカーブをギリギリまでひきつけて叩きセンター前のヒット。
 サンダースのリードは3-0と広がった。

「タイム願います」
 相手の監督がたまらずタイムをかけてキャッチャーを呼んだ。
「どうも球種が見抜かれているみたいだが、テイクバックが大きくなって握りが見えているとか言う事はないか?」
「いえ……普段と同じだと思います」
「そうか……ブロックサインのキーは?」
「イニング毎に変えてますし、イニングの途中でもマウンドに行けばその都度変えていますが……」
「そうだよな……いや、気のせいならいいんだ」
 そう言ってキャッチャーを守備位置に戻したが、どうも解せない、何かあるはずだ……。
 迎えるバッターは9番の勝、初球のストレートを平然と見逃し、2球目のカーブを強振して来た。
(あっ!)
 監督は思わず声を上げそうになった、カーブを狙われる理由がわかったのだ。
 ピッチャーにクセなどなかったが、カーブを要求した時、キャッチャーが外角から内角へと尻を動かしたのだ。
 道理でピッチャーにいくら注目してもわからなかったわけだ、キャッチャーを呼び寄せた直後で、キャッターに視線が行っていて初めて気付いたのだ。
「タイム願います」
 監督は再びキャッチャーを呼び寄せてそのクセを伝えた。
「え?……」
 キャッチャーは目を丸くし、そして悔しそうに唇を噛んだ。
「仕方がない、お前だってあのカーブを確実に受けようとして自然に身に付いていたクセだからな、だが、次からは尻は動かすな」
 キャッチャーは力強く頷いて守備位置に戻って行った。
 果たして、次のカーブに勝はタイミングが合わずに泳ぐように空振りし、少し困惑したような顔で一塁コーチャーズボックスに視線を送った、すると、コーチャーは指で小さく×印を作った。
 これではっきりした。
 キャッチャーの癖から球種を見破っていたのはあの小柄な女の子だ。
 そもそも、ベンチ入りメンバーが15人と制限されている中でいかにも非力な女の子が背番号をつけている時点で優れたコーチャーなんだろうとは思っていた、何しろどう見ても選手には見えなかったから……。
 しかし、ここまでとは……牽制のモーションが盗まれているのもあの子の仕業に違いない……、しかし、とにかくカーブを狙い打たれる原因はわかった、キャッチャーに注意するだけで良いのだからピッチャーへの影響はない……ほくそ笑んでも良いくらいだったが、監督はむしろ怖れを抱いた。
 今年は県大会どころか全国大会でも優勝を狙えるチームが出来上がった、そう思っていた、決勝の相手・サンダースはバランスの良い好チームだとは思うが、個々の選手を見れば長所もあれば欠点も抱えている、自分のチームに勝るようなチームではない、そう考えていた。
 しかし……サードコーチャーのひ弱そうな女の子、クセ者と言う言葉は当らない、野球と言うゲーム上では観察力は重要な要素だ、あの子は自分が3年間見てきていて気付かなかったキャッチャーのクセを僅かの間に見つけ出した……相手軍隊がこちらの想像を超える高性能レーダーを装備しているようなものだ、まさかサンダースにあんな秘密兵器があったとは……。
 
 ともあれ、9番はカーブで三振、警戒する1番の女の子も非力さを突いてストレートで押し、ファーストゴロに仕留めた、これからだ……。

d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ!  (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!
作品名:リードオフ・ガール3 作家名:ST