リードオフ・ガール3
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「みんな集まってくれ、背番号を渡すぞ」
5月も半ば、県大会を目前にした練習の前に光弘が皆を集めた。
背番号を貰える、それはすなわちベンチ入り出来る事を意味する、レギュラークラスはともかく当確線上にいる5年生には緊張の一瞬だ。
「1番 五十嵐良輝」
先発は雅美だが、エースナンバーは6年生の良輝に渡された。
「2番、大谷明男、3番、荒木幸彦、4番、水谷新一、5番、城田達也、6番、宮田和也、7番、泰山慎司、8番、川中由紀、9番、栗田英樹」
レギュラーには守備位置に準じた背番号が渡されて行く、ここまでは誰もが予想したとおりだ。
「10番、浅野淑子」
どよめきが拡がった、6年生とは言え転校生、しかも実力的には到底レギュラーには及ばない淑子にレギュラーに準じる10番が与えられたのだ。
だが、チームの誰もが淑子のアドバイスを受け、悩みの種を摘み取ってもらった覚えがある、そして、続く監督の言葉で納得した。
「淑子にはサードコーチャーを任せる、判断力、観察力で貢献して欲しい」
淑子がチョコチョコと走り出てきて少し神妙な顔で背番号10を受け取った。
「背番号頂いていいんですか? スコアラーとかでも……」
「いや、お前の存在はみんなの力を100%以上に引き出してくれるからな、一緒に戦うメンバーだよ、胸を張って受け取れ」
淑子はぺこりと頭を下げて背番号を受け取った、そして輪の中に戻ると仲の良い由紀ときゃっきゃと喜びあっている。
「続けるぞ、11番、石川雅美、12番、小坂勝」
三番手ピッチャーとして勝もベンチ入りが認められた、フォーム改造の成果が認められたのだ、左のスリークォーターと言う点も大きい、ワンポイントリリーフとしての出番もありそうだ。
「13番、八田幸雄、14番、若杉勉」
幸雄はキャッチャーの控、そして代打の切り札として、勉は代走、守備固めとしてそれぞれ順当なところだ。
「15番、ロビンソン譲治」
譲治が飛び上がって喜び、走り出て来た。
年功序列と言うわけではないが、光弘は学年をかなり気に掛ける、サンダースで長く頑張って来た子を優先するのだ、それなのに、まだ背番号を貰っていない5年生もいる中で4年生の譲治を選ぶのは異例、ざわめきが拡がったが、光弘はそれを収める一言を発した。
「とりあえず5月末の県大会はこのメンバーで行く、だが、選ばれたからと言って安心するなよ、全国大会では入れ替えもあるかもしれないからな、今回選んでやれなかった者には申し訳ないと思ってる、だがまだ挽回のチャンスはあるからな、選ばれた者も選ばれなかった者も気を抜くなよ!」
譲治のベンチ入りは、ダイナマイトであると同時に起爆剤でもあるのだ。
作品名:リードオフ・ガール3 作家名:ST