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短編集18(過去作品)

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 きっと最初の頃は想像力に欠けていたに違いない。読み込んでいくにつれて億劫になるのは、読んでいて情景が浮かんでこないからだろう。浮かんでこなければストーリーもただの文の羅列にしか過ぎず、展開を楽しむ余裕などない。
――ライトな小説がいいな――
 少しコミカルなストーリー展開の小説を読むようになった。最初読んでいた恋愛ものはどうしてもドロドロしたところが見えてしまって、ついていけなかった。しかしコミックタッチの小説は考えるより先にストーリーが流れていく。何よりも自分の考えていることに共感できるところがあるのが嬉しかった。
 高校時代にあまり女性と付き合ったことのなかった私は、男子校だったからだと思っていた。大学に入り、まわりに女性がいるのが嬉しくて、毎日ウキウキして大学に通ったものだ。動機は不純だったが、授業の出席率もよく、成績もそれなりに卒業できたのは、怪我の功名だったのかも知れない。
 しかし、自分が考えていたような深い仲になった女性はいなかった。表面上の付き合いが多かったのもあったが、深い仲になろうとすると相手が引いてしまう。
――だが、本当にそうだったんだろうか――
 ふと、学生時代のことを思い出すと、心に何かわだかまるものを感じるのだ。
「あなたって真剣になると怖いのよ」
 ほとんどの女性が黙って私の前から姿を消したが、そう言ってくれた女性もいた。さすがに意味が分からずショックだったが、何も言われないよりマシだった。
 最初は女性の方がいつも積極的だったような気がする。お互いの気持ちを確かめ合うように口づけまではうまくいく。しかしなぜかそこからがいけない。それまで自分が会いたい時には向こうも同じ気持ちなのか、
「会えない?」
 と連絡をくれていた女性たちが、急に連絡をくれなくなる。
「今度会おうよ」
 と私が電話しても、相手は答えないのだ。最初は忙しいのだろうと思っているが、それでもなかなか連絡をくれない彼女たちに業を煮やした私は、授業が終わる前の教室で待っていたりした。今までの私からは信じられないことで、完全に浮き足立っている。
「あなたのそんなとこが嫌なの」
 少し強めに言われると、引き下がるしかない。もうその女性と連絡を取ることもなくなってしまうのだ。
 それを失恋というのだろうか?
 私は失恋だと思っている。
 理由も言わずに、何と理不尽な……。
 そう感じるのは私だけだろうか?
 そんなことが何度も続いた。さすがに私も落ち込んでしまう。自分が悪いと思って反省しようと考えるのだが、どこが悪いか分からぬまま、また新しい恋を探している自分に気付く。
――きっと気持ちに余裕がないんだ――
 大学卒業の時期になって、そのことに気付いた。普段からせっかちな性格であることもその時に気付いたような気がする。
 しかし、以前に聞いた理由の一つである、
「あなたって真剣になると怖いのよ」
 という言葉が当て嵌まるとは思えなかった。
――どこかが違う――
 と感じながら、今まで来たのだ。それでも、いまだに新しい恋を捜し求めることだけはやめていない。大学時代のように積極的にはならないが、きっと気持ちに余裕ができてきたのもあるかも知れない。無意識にでも自分のことが分かってきたのが影響しているような気がする。
 案内板を一通り見た私は、お濠に架かった橋を渡り、いよいよ城の中に入っていく。想像以上に橋が長く感じられたのは、最初にお濠の表から見た光景が、狭く感じられたせいではなかろうか。
 橋を渡る前に、もう一度城を見上げた。濠の向こうの石垣の上には先ほど私を抜いていったレンタサイクルの一行がこちらを向いて眺めている。やはり学生の集団であろう。男性三名に女性が二名。私に気付いていないかのように、街を眺めているようだ。
 顔は夕日をバックにしているためか、ハッキリと確認することができないが、きっと楽しそうなのだろう。女の子の笑い声が聞こえてくる。
――上から見ると、私など小さく見えるのだろうな――
 そう感じてしまう。
 そういえばあれはどこだっただろう。私が大学の時に、やはりレンタサイクルで観光したのを思い出した。あれも天守閣はないが、城跡が公園として整備され、綺麗なところだったような気がする。現地で友達になった連中と混じって、連れてきてもらった記憶がある。
――ずっと前から友達だったようだ――
 学生時代というのは不思議なもので、旅先で出会った友達に、いつもそう感じるのである。しかしそう感じるのは旅の間だけで、別れてしまうとすでに過去の人という気分になってしまう。それだけに別れる時は一抹の寂しさがあり、旅行に出た時に一番寂しく感じる時である。すぐに忘れてしまうための、通らなければならない関所のようなものだ。
――なぜすぐに忘れなければならないのだろう――
 すぐに忘れなくても自然と忘れればいいのではないかと考えるが、やはり旅というものが普段の生活と違う自分を見せてくれ、それが自分の一番見せたい部分なのだろう。いつもずっと一緒にいる人の前では決して見せることのない自分を、
――旅の恥は掻き捨て――
 とばかりに大きな気持ちになれるのかも知れない。
 今の私は気分的には学生時代に戻りつつある。萩に来たのは修学旅行以来だが、大学時代にはよく旅行をしたものだ。それだけに萩に似たような土地もいくつかあっただろう。大学時代に旅行先を選ぶ時、萩の思い出を思い出しながら選んだような気がしてくる。
 今回の旅行の目的地を選ぶ時、その気持ちがなかったわけではない。きっと心の奥にあったに違いない。
 彼らを見ながら橋を渡る。渡りきるとそこには枯れ木が植わっていて、少し湿気を感じる。そのためか、さっきまで夕日を浴びて気持ちよかった身体にサッと冷気が忍び込み、少し寒気を感じてきた。
――ゆっくり見て廻るというのも、きついかな――
 そう感じながら石段をゆっくりと登っていく。先ほどのお濠を見下ろすところまでくると暖かさを感じることが分かっているからだ。一段一段を踏みしめながら登っていくと、次第に息が上がっていき、自分がもう学生時代ではないと痛感させられる。
 しかし先ほど学生たちが見下ろしていたところまでやってくると、気持ちは一変した。
――まるで昨日も見たような気がする――
 背中には夕日を感じ、暑いくらいに感じられる。じんわりと背中に汗を掻いているのが分かり、一気に中学時代の自分に戻っていく気さえしていた。
――思ったより高いんだ――
 下から見上げた感覚より、上から見る方が数段高く感じるのは分かっていた。当然、自分の身長分高さが違うわけだし、角度が違うのは当たり前だ。それでもかなり高く感じる。――いや、高く感じるというよりも、遠くに感じるのだ――
 そう思ったのは、下にいる連中が豆粒のように見えたからだ。
――下にいる連中――
 それはまさしく先ほどの連中だ。私がここに登ってくる間に、彼らは別の道を通り下りていったのだろう。先ほど私が見上げていたようにこちらを見上げているのだ。
作品名:短編集18(過去作品) 作家名:森本晃次