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「透明人間」と「一日完結型人間」

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「いや普通であれば、こんな状態を自分に納得させるために僕を知りたいと感じるんでしょうけど、あなたは純粋に僕を知りたいと思ってくれている。それが僕には分かるので、素晴らしいと思ったんですよ」
 彼の話していることはくすぐったいほどのお世辞にしか聞こえないはずなのに、自分を納得させるだけの説得力を感じる。亜衣にとって彼が現れたことで何かが変わるのではないかと思わせるほどの力が彼の言葉にはあったのだ。
「このシーソーなんだけど、普通見ていれば、物理学に反しているので、信じられないと思うのは当然のこと。でも、このシーソーの先には見えていないだけで、確かに何かが存在しているということを亜衣さんは分かっているんじゃないですか?」
「ええ、どう考えても、納得のいく回答を得られないと考えると、それならば一番しっくりくる考えを導き出そうと思うのは当たり前のことだと思うんですよ。この場合は、もう一人誰かがこの場にいると考えた方がしっくりくると思っただけなんですが、おかしいですか?」
「いえ、そんなことはないですよ。では、あなたはそこに誰かが存在しているとお考えなんですね?」
「ええ、透明人間のような人が存在しているんじゃないかって思ったんです」
「その通りです。ただ、今ここでその人が誰なのかを公表してもまったく意味がないので、まずは亜衣さんの考えが間違っていないことをお話するにとどめましょう」
「ところで、あなたは一体誰なんですか? 私に関係があると仰ってましたが、あなたが私の前に現れたのは何かの意味があるんでしょう?」
「ええ、あなたは最初僕のことを超能力者だと思われたんでしょう? シーソーを見れば最初に感じることは僕に超能力があるという発想であってしかるべきですからね。でも、その後あなたは再度冷静になって考えた。そして透明人間という発想に行き着いたわけですね。でも、もうそれ以上の発想は、このシーソーからは浮かんでこない。それでは話を逸らすしかないと考えたあなたは、まず一番の疑問に感じていることを僕にぶつけてみることにした。それが僕の正体だということですね」
「その通りです。あなたは何でもお見通しなんですね?」
「でも、それはあなたにも言えることだと思います。失礼ですが今、あなたには信頼できる人がいない状況だと僕は思っています。人から信頼されていると思っていたことも、実は少し違っていると思うようになっているでしょう? 誰かに相談されたことも、前だったら自分を信頼して相談してくれることをこの上なく喜んでいたはずです。でも今は人から相談されるのも、体よく人に利用されているだけではないかと思っているはずですよね。それでも相談されると相談には乗ってしまう。相手が自分を選んでくれたということは、それだけ自分に自信を持っていいと感じているからであり、それが自分を納得させられることだと思うことで、いまさらながら自分の生きがいは、人から相談されたことに対して的確な回答をすることで得られる相手の信頼だと思っていることでしょう。でも、しょせんは自己満足。自己満足に生きることで、次第に人と話すことが億劫になってくる。自分の本心をそのうちに誰かに看破されてしまうのではないかと思うからではないでしょうか」
「ええ」
「でも、あなたは今僕に対して、最初に感じた不信感を何とか払拭することができたことに喜びを感じている。人を信じるということを思い出したような気がしているからなんでしょうが、それは相手が僕だからだという理由であれば、本当に人を信じるということを思い出したとはいえないのではないでしょうか? だから、あなたは今の一番の関心はこの僕が誰なのか、そして自分にどのような関わりがあるのかということを知りたいと思っていることなんでしょうね」
「……」
 亜衣は、目の前の男性に不信感はすでになくなっていた。しかし、それは彼が最初に、
「あなたに関わりがある」
 と言ったからで、関わりのない男性だと思うと、最初からこの男の存在を夢として解釈し、まずは他人事として相手を見ることに徹し、それができるようになると、その男の存在を打ち消そうとするのではないだろうか。夢として処分してしまえば、なかったことにできるのではないかと感じたのだ。
 ただ、夢として記憶してしまうと、いずれは思い出すこともあるだろう。その時に中途半端なままで終わってしまっていると、彼への思いは募るばかり。
――彼の正体をハッキリさせておかなかったことで、いつまでも気になってしまい、彼の存在が頭の中から消えることはないだろう――
 と感じるに違いない。
 それだけシーソーのシーンはセンセーショナルで、忘れたくても忘れられない事実として頭の中に残るに違いなかった。
――それにしても、どうして彼はこんなセンセーショナルな出会いの場面を演出したんだろう?
 亜衣は考えた。
 普通に現われればいいものを、なぜインパクトの強い現われ方をしたというのだろう?
 考えられることとして一つには、
「何か、判断を誤らせる必要があったのではないか?」
 と考えた。
 普段から冷静な人は、自分の理解を超える現象が起きた時、何とか自分の中の理屈に合わせようとする。それが合わない時は初めて超常現象として認識するように考えるのであろうが、彼の話を冷静に聞いていることで、少しずつ自分の理屈に合ってくるのを感じさせられる。
 それは相手の巧みな誘導なのではないだろうか。
 亜衣はそこまでは考えていたが、彼と話をしている中で、その理屈のすべてに、考えられることが二つ存在していることに気付いていた。
 シーソーのシーンでも、彼が超常現象を作り出したという発想と、もう一つは透明人間がそこに存在しているという考え方だ。
 亜衣の発想は、あくまでもスムーズな解釈ができることが前提で、そこから考えれば透明人間の発想の方が、しっくりと来る。
 亜衣がそのことを感じているのを、相手に看破された。それどころか、その先の発想まで見抜かれてしまっているのを感じると、亜衣は次第に彼の術中に嵌ってしまっているようだった。
 そのことも亜衣には分かっている気がした。それでも、亜衣は冷静に考えた。
――私にどうな関わりがあるというのか、それが彼の出現の本当の理由のはずであろうーー
 と、考えているのではないかと思ったのだ。
 モノの価値というのは、それを見ている人の判断から始まる。判断によって、そのものが自分にいかに関わっているのか、今後どのように関わろうとしているのか、それを見極めようとする。
 つまりは、モノの価値という言葉は、その人それぞれの考え方であって、一律に決めてしまわなければいけないのは、やはりその人それぞれなのだ、
――人の数だけ、モノの価値は存在する――
 と言っても過言ではないだろう。
 今日は、友達と話をして、久しぶりに遅くなったことで、深夜普段は出歩かない自分がここにいるのだ。