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「透明人間」と「一日完結型人間」

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 彼は亜衣に対して何も言葉にしたわけではなかった。普段は数人の輪の中にいる一人でしかない亜衣だったが、彼はそんな亜衣を見る目が、他の人に対してのものとは違っていることを感じていた。
 その思いは最初の頃から感じていた。
――どうしてそんな目をするんだろう?
 と感じた。
 大学に入ってからの亜衣は、しばらくの間、まわりの流れに任せるところがあった。自分から関わることを嫌っていることもあって、まずは冷静な目でまわりを見ることが大切だと感じたのだ。
 入学して少しすると、クラスの中でいくつかの団体に分かれるようになっていた。誰もがそのどこかに所属するような感じで、
――これが大学生活なんだわ――
 と、亜衣も感じていたが、自分から進んでどこかに所属する気持ちにはなれなかった。
 そんな時、いつも隣の席に座ってくる女の子といつも間にか仲良くなっていた。
 彼女は積極的な性格で、消極的な亜衣とは、まるで凸凹コンビのようであった。
「もっと、自己アピールすればいいのに」
 と彼女は言ったが、亜衣もその言葉に嫌な気はしなかった。
「そうかしら?」
 と苦笑いをしていたが、それを彼女はまんざらでもないと解釈していたのだろう。
 亜衣は、それでよかった。勝手に解釈してくれた方が、亜衣にとって楽だったからである。自分で考える必要もないし、彼女に対して悪い気持ちはまったくなかったことから、彼女に合わせることは、自分としても好都合だと思っていた。
 そんな彼女に進められるまま入ったグループでは、彼女はいつも中心にいた。
 グループの中心にいるのだから、亜衣のような漠然とした女性とは、あまり関わることはないだろうと思っていたが、何かと亜衣のことを気にかけてくれた。亜衣もそれはそれで嬉しかったし、彼女も亜衣に嬉しく思われると自分をもっと高い位置に持っていけるという思いがあったのだろう。
――彼女にとって、私は透明人間であっても構わないのに――
 と感じていた。
 亜衣が、自分を透明人間と感じたのは、その時が初めてだった。
 それまでは、人と関わりたくないという感情は、
――路傍の石――
 だったのだ。
 そばにいても、誰にも気にされることがない。存在を薄くさせるだけで、それだけでいいのだ。
 しかし、実際にやってみると、これほど難しいことはない。
 確かに存在を薄くすることができるが、それでは誰にも気にされることがないわけではない。却って目立ってしまうことがあるくらいで、自分の意図していることとは反対の効果が生まれることが往々にしてあったのだ。
 高校生の頃くらいまでは、そんな状態が続いた。
 高校生の頃には、
――まわりの皆は何を考えているのか分からない――
 という思いがあった。
 それは、亜衣だけに限ったことではなく、誰もがまわりに対して抱いている感情だった。まわりを意識するあまり、自分からまわりに関わらないようにしようとしている空気が、痛いほど分かったのだ。
――受験というものを控えていることで、こんなにも空気が悪くなるものなのかしらね――
 と感じた。
 学校では、差しさわりのない会話をしていても、実際には何を考えているのか分からないという感情が渦巻いている世界は、息苦しさしかなかった。
 ただ、それは高校二年生の途中から急に感じるようになったことで、亜衣はそれ以前から人と関わりたくないという思いを抱いていたので、
――私はあなたたちのような俄かじゃないのよ。一緒にしないで――
 と勝手に思い込んでいた。
 ピンと張り詰めた空気は一触即発のように見えて、なかなか破裂しない。それぞれの気持ちが空気に均衡を与えているのではないかと感じたほどだ。
 亜衣にとってピンと張り詰めた空気は、結構嫌ではなかった。まわりも自分と同じような気持ちでいるくせに、
――私はあなたたちとは違うのよ――
 という思いを、露骨に表に出しているように感じた。
 亜衣にとって、これほど扱いやすいものはない。一触即発ではあったが、均衡が保たれていることは分かっていた。亜衣は自分の気持ちを表に出さないようにしながら、心の中では、
――あなたたちの考えていることなんか、お見通しよ――
 と感じ、上から目線になっている自分を感じていた。
 受験が近づくにつれて、その思いはどんどん強くなる。そして、
――私は、こんな人たちに負けるわけはないんだわ――
 という受験前になって、他の誰にもない自信を、得ることができたのだ。
 大学受験も無難にこなし、大学生になった。
 その時の亜衣は、高校時代の自分が何事もなかったかのように感じた。
 なぜなら、まわりの人たちは、大学に入学すると、それまでの自分たちを棚に上げて、急にまわりに気を遣い始めた。
 高校時代が張り詰めた空気の中で、まわりを意識しながら、自らを息苦しい空気の中に身を置いた。それなのに、大学に入学してしまうと、まわりとはそれまで何もなかったかのように、人に気を遣い始めるのだ。
 そこにぎこちなさはない。誰もが高校時代の自分を忘れたいとでも思っているのだろうか。
 亜衣は、高校時代の自分に何もなかったのだと思っていたが、自分を忘れたいとは思わない。それが、最初から人と関わりたくないと思っていた亜衣の本心だった。
――私にとって、大学入試は忘れられない過去だけど、記憶の奥に封印してしまえばいいんだ――
 と意識的に封印したのだった。
 そんな亜衣と同じような気持ちではないかと思える人が、グループの中にいた。それgが亜衣が気になって男性であり、彼も人と関わりたくないという思いを強く持っているようで、その証拠に、まわりの人に気を遣おうという素振りを示していなかった。
 しかし、そんな彼はなぜか、まわりの女性にモテていた。
 名前を、門脇と言ったが、
「門脇さんには彼女いるのかしら?」
 と誰かが言い始めると、
「いないわよ」
 と、即座に返事をする人がいた。
 どうやら、二人が彼を狙っているのは分かったが、その時の女性の間での雰囲気は、最悪な感じがした。
 高校時代の息苦しさではない。ただ、その場にいると吐き気を催しそうな気持ち悪さだった。
 それは、亜衣自身がその場にいることで、自分が嫌いになりそうになったり、自分を許せないと思えるような空気を感じたりした。その空気はまわりに対してではなく、自分に対して気持ち悪さを感じさせるものだった。
――まるで欝状態への入り口のようだわ――
 と感じた。
 彼はそんな空気の中でも、普段と変わりはなかった。ただ、亜衣に無性に近づいてくるところがあり、亜衣と二人きりになると、安心したような表情になっていた。亜衣は、
――私の表情が彼の癒しになっているのだとすれば、こんなに嬉しいことはないわ――
 と感じた。
 亜衣は、それを自分の錯覚だとは思えなかった。一瞬、
――彼を好きになったんじゃないかしら?
 と感じたが、好きになるには、まだ彼に関わるのが怖い自分を感じていた。ただ、彼のことが気になるだけだった。