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「透明人間」と「一日完結型人間」

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「そうなんです。歴史というのは、矛盾だらけの学問なんです。だから、永遠に研究され続ける。新しいことが見つかっても、そこからもすでに歴史は動いているんです。未来は現在になり、そして一瞬にして過去になる。現在が一番短くて、本当の一瞬なんですよ。歴史というのは、その現在の積み重ねであり、しかも、人それぞれに違っている。平面は無限に繋がり、時間も無限に繋がっていく。次元というのはそういうものが一つ一つ重なったものなのではないかと思うと、実に面白いです」
「ここまで来ると、歴史も科学の一種のように思えます。そういう意味で考えると、学問というのは、すべてがどこかで繋がっているんじゃないかって思えてきますよね」
 亜衣は、これまでこのような話を誰かとしたことはなかった。
 元々、人と関わりたくないと思っているわけなので、話をすることが億劫だとまで思っていた。しかし、実際にはこのような話をし始めると、止まらなくなる自分の性格を分かっていなかっただけなのだと感じていた。
「僕の世界の人たちは、本当は正直者ではないんです。それはあなたがこの世界の人間だから正直者に見えるだけで、ただ余計なことを考えないようになっているだけなんです。もちろん歴史認識の強さはこちらの時代の人と比べ物にはなりませんが、歴史を勉強すればするほど、頭の中は淡白になってしまっているんです」
「それはどういうことですか?」
「頭の回転や機転が利くという意味では、僕たちの世界の人間の方が優れていますが、こちらの人間のように、感情的にはなりません。それがいいことなのか悪いことなのか僕には分からないんですが、亜衣さんなら少しは分かってくれるのではないかと思っています」
「私に分かりますでしょうか?」
「僕はそう思います」
 ここで少し会話が止まってしまった。
 しかし、数秒もしないうちに彼はまた話し始めたが、亜衣にとってその数秒は、永遠に続く沈黙に思えただけに、彼が声を発した瞬間、心臓が止まりそうになるほど、ビックリしてしまった。
「僕たちの世界は、ついこの間まで、まわりの人を見る目の最優先順位として、自分との優越がありました。それはいつも仲良くしているように見えている友達が相手でも、自分が優れている部分、自分の方が劣っている部分、それぞれを見つけ出そうとしているんです。分かっているはずの部分も、数日会わなかっただけで、もう一度確認してみようとすら思うほど、優越を確かめようとします」
「それは、自分に自信がないからですか?」
「そうかも知れません。何度も何度も確認する感覚は、きっと自分に自信がないからでしょう。しかも、相手も同じことを考えているというのが分かっているだけに、相手よりも少しでも自分が優れているということを確認することが一番自分に満足を与えられることになるんです」
「それって自己満足ですよね?」
「ええ、その通りです。あなた方の世界では、自己満足を悪いことだとして決め付けているようですが、果たしてそうでしょうか? 私たちの世界の人たちは、自己満足を決して悪いことだとは思っていません。『自分で満足もできないことを、どうして相手に満足させることができるのか?』というのが僕たちの世界の考え方です。こちらの世界の人は、そうは思わないんでしょうか?」
「そんなことはないと思います。でも自己満足という言葉を聞くと、聞いただけでその人はきっと顔をしかめて嫌な気分になるんじゃないでしょうか? 事故を殺してでも相手に満足させるのを美徳のように感じているからですね」
「ただ、それも、この世界のすべての人というわけではないですよね。人種や民族性が違えば、考え方も違ってくる。それをすぐに気が付かないのは、それだけこちらの世界の人間が、閉鎖的な考え方を持っているということなんでしょうね」
「それは言えているかも知れません。だからこそ、過去には戦争があったり、民族主義の時代があったりしたんでしょうね」
「あなたは、どうなんですか? 他の民族をどのように見ていますか?」
 改まって聞かれると、それまで自分の中で燻っていた思いが溢れてくるような気がした。その思いがある意味差別的であるのは分かっていたが、本当は口に出さないだけで、誰もが感じている思いではないかと感じていた。
「私たち、日本人はどうしても島国の感情があるからなのか、他の民族とはあまり協調性がないかも知れません。いえ、他の人はどうでもいいんです。私個人の意見で言えば、他の民族を認めたくないほどに感じることがよくあります」
「それは、マナーや考え方の面からですね?」
「ええ、そうです。民族に差別があってはいけないと学校で習いましたが、その教育も今から思えば、何かとってつけたような気がします。その証拠に世界で今までに起こった戦争の多くは、民族間の戦争ではないですか。お互いに相容れない思いがあるから、戦争をしてでも自分たちの主義主張を求めようとする。そこに宗教が絡んでくるから、余計にややこしくなるんじゃないかって私は感じています」
「なるほど、そうですね。僕たちの世界もそうでした。民族間の紛争で、先進国の人たちは、相手を下等民族として見下していたのに対し、下等民族の方も、自分たちが下等民族だという意識を持っているので、結果として衝突は免れないんですよね。歴史が進んで、先進国がそれぞれに下等民族の独立を認めるようになると、それまで植民地化されていた地域の人は紛争が絶えない国になってしまった。中には先進国の仲間入りした国もあるんですが、そんな国は急進的に発展して行ったので、国民の感情がついてこなかったんでしょうね。考え方はまだまだ下等民族なのに、先進国に土足で上がりこむような態度を取ってくるようになる。先進国は自分たちが優れていると思っているから、そんな連中を、『民族性の違い』と言って、大目に見ているんでしょうが、その実は、『この劣等民族民め』と心の底で感じているんでしょう。ついには下等民族は先進国から追い出されるようになり、結局自国に引き篭もる。過去には植民地化されて栄えていた後進国も、先進国の援助が得られずに、次第に滅んでくる。もちろん、それまでの国民感情があるので、そんな後進国を支援しようなどという国は現われるわけはない。言葉では、『後進国を援助』と謳っていても、誰も本気で活動しようなんて思わない。そのうちに後進国同士で戦争を重ね、最後には滅んでしまう。そうなると、待っていたかのように、その残された土地を先進国は無血で占領することができるわけです。これって、悪いことなんだって思いますか?」
 亜衣は少し考えていた。
 自分たちの世界の未来を聞いているようで、実はスッキリした気分で聞いていた。亜衣は、実際に日本に来ている外国の連中を快く思っていなかった。
 観光でやってきている連中が、自分たちの地盤を荒らし続けている現象を、自治体は自分たちの利益になるからなのか分からないが、外国人観光客の多いことをいいことに、自分たちの地域を「国際都市」と言って宣伝している。
 しかし実際には、マナーなど欠片もない連中が多く、実際に住んでいる日本人が肩身の狭い思いをしているのも事実だった。亜衣はそんな連中を、