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短編集17(過去作品)

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――女を買うことだ――
 と思い込んでいたが、決してそうではなかった。確かに快楽を得るためなのだが、それは心身ともに得られる快楽でなければいけなかった。そういう意味では何も申し分のない相手だったに違いない。私にとって夢の入り口は、まいなのだ。
 そう、夢とはこうして作られ、私はその中に嵌まっていったのかも知れない……。

 それから数日は、仕事の忙しさとお金のなさで顔を出せなかったが、私の中では必ずまいを指名しようと心に決めていた。店の場所も分かっているし、何よりも一回でも、
――行ったことがある――
 という事実だけは大きく、思いとどまらせるものは何もなかった。ただ、終わった後の倦怠感と罪悪感さえ乗り切りさえすれば、後は私の待ち望む時間なのだ。そう、二人きりで気持ちを確認できる、
――まるで恋人のような――
 そんな素敵な時間が待っているのだ。
 問題はその時間が長いか短いかである。この間は時間配分が分からず、終わってみれば短かったような気がした。しかし話している時は長かったように感じるので、それはそれでよかったに違いない。
 その日は朝から彼女に会えるのを楽しみにしていた。午前中はいつもに比べて、とても時間が長かったようだった。時計が気になり、気がつけば五分おきくらいに時計を気にしていた。今までそれほど時間を気にしたことなどない。時間を気にする余裕もなく、仕事をしていたからだ。
 私は自分の仕事が好きである。事務所でこつこつとする仕事なのだが、文章を考えて作ったり、企画を立てたりと、クリエイティブな仕事である。元々ものを作ることが好きな私にはもってこいの仕事で、ポジティブになれるところもありがたかった。
 土木関係の仕事なのだが、学生時代に勉強したことが生かせて、仕事には何の不満もない。しかし慣れてくると、ふと周りのことを気にし始めるのも仕方がないことで、気がつけば私のまわりに誰もいなかったのだ。男性の友達はいるのだが、女性の友達はいない。それが寂しさとなって襲ってくるのも無理のないことだ。
 仕事以外に趣味を持とうとした時期が何度かあった。スポーツジムに通ってみたり、釣りに出かけてみたりとしたのだが、それが寂しさを紛らわすことにはならない。満足感の得られることには違いないのだが、自らの心の隙間に気付いた時に、埋められるものではない。
 その頃の私はまだ会社に入って二年目で、一番仕事が楽しい時期だったかも知れない。
――気がつけば過ぎていた一年目――
 新入社員の時にはそう感じていた。二年目ともなればすっかり自分のペースで仕事ができるようになり、自分を見つめなおすことができるようになる。それが皮肉にもまだ女性を知らない自分を考えざる終えなくなる結果になるとは思ってもみなかった。
――女性を早く知りたい――
 そう思うのは肉体的なことだけではなかった。もちろん初めての相手は好きな人であってほしいし、そうあるべきだと思う。大ざっぱな考え方をすることの多い私だが、こと女性に関しては古風な考え方を持っているようだ。得てして今までの人生で悩むことはあっても、それほど大きな失敗をしたことがないのは、きっと大ざっぱな性格が功を奏しているからなのだろう。
 これは親の影響があるのかも知れない。
 厳格な父に対し、それに従う母、完全な亭主関白なのだが、なぜかうまく行っている。父の考え方が横暴ではないかと何度も感じたことがあるが、それに黙って従っている母の姿を見ているとじれったく思うこともあった。
――本当に自分の考え方を持っているのだろうか?
 その思いが私にはある。
――女性を縛り付けてはいけない。優しさを持った男にならなければ――
 と考えるようになったのだ。そこには昔の人と考え方の違う自分がいるのだが、根本的には古風な考え方をしている。
――優しさは強さを伴わなくてはいけない――
 ナンパな連中を見ているだけで腹が立ってくる。確かに快楽を求め合うだけの仲もありなのかも知れない。しかし私だけはそんな思いをしたくないし、そんな思いをする相手を選びたくない。会話によって通じる気持ちがなければいけないという思いが強いのだ。
――まいという女性はどういうタイプの女性なのだろう?
 私は常々女性に対して感じていることがある。それは、自分が女性にたいして抱いているイメージをタイプ別に感じていることであって、あくまでも付き合った上で感じたことではない。そういう意味でもいろいろな女性と付き合ってみたいと思うのかも知れない。
 まず、美しい女性に対してである。
 美しい女性とは、皆が「美しい」と感じるであろう女性たちのことで、私から見れば少しツンツンして見えるタイプの女性である。プライドが高く、皆が自分のことを好きだという前提で物事を考えている。チヤホヤされて調子に乗るタイプの女性。それだけに一人でいることに優越感を感じ、自分に自信があるのだろうが、そのために本当の愛に飢えているかも知れない。そんな仕草がまた男の気を引くのだろう。美人は何をやっていても美人なのだ。
 かわいい女性というのもいる。仕草が子供っぽくてかわいい女性もいれば、考え方が幼い人もいるだろう。かわいいというのが、子供っぽいとは言えないのだろうが、私にとっての「かわいい」は子供っぽさに見ることができる。
 またかわいい女性にはその奥にある母性本能を感じる。少し「おねえさん」っぽい女性も可愛らしさを感じる時がある。きっとそれは何も知らない自分に対し、私と同じ目線に立って見つめようとする気持ちの表れからだろう。大人が子供と話す時に、膝を曲げて子供の視線で語りかけようとする仕草に似ている。
 きっとまいは母性本能を感じる女性なのだろう。
 話をしたといっても、店で少しだけだったのでハッキリとしたことは分からないが、少なくとも、私より視線を上にして話そうとはしなかった。風俗の女性は自分にプライドを持っているだろうから、そんな優しさなどないと思っていた。偏見だったのか、それともまいだけは違う女性なのか、どうなのだろう。ただ、
――何度でも会ってみたい――
 と思ったのは間違いない。
 しかし相手に会うにはそれなりのお金と時間が必要である。あまり深入りをしてもいけない。そんな思いが交錯し、気がつけば、足は店の方に向いていた。
 確かにその日は、朝から店に行ってみようと考えていた。少し怖いのもあった。田代と一緒ではなく、一人で行こうと決めていたからというのもあるが、何よりも、終わった後に一人になった時の虚しさが頭を擡げるからである。
――だったら行かねばいいんだ――
 ともう一人の私が語りかける。しかし、その声を感じれば感じるほど、私の足は頑なに店へと向うのだった。
 胸の鼓動が激しくなる。蒸し暑さを感じてしまうと、喉の渇きを抑えられなくなり、途中で缶ジュースを飲みながら歩いている。しかし、それが却ってまずいのか、喉の渇きがさらに押し寄せる。いつもなら分かっているのだろうが、かなり平常心を失っているに違いない。
作品名:短編集17(過去作品) 作家名:森本晃次