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短編集17(過去作品)

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 と思えるようなことでも次から次へと言葉になって出てくる。
「お前もそう思っていたのか」
「ああ、そうだよ。こんなことを考えているなんて今まで恥ずかしくて言えなかったからね」
 さすがに酒の上での話は、気持ち同様、舌も滑らかにしてくれる。少々難しい話でも気持ちよく話すことができ、お互いに本音や今まで感じてきたことを隠すことなく話すことができる。
 そんな会話があってからだろうか、人の生死について考えるようになった。
「前世」という言葉があるが、信じる信じないはその人の勝手だと思う。私は信じていなかったが、友達と話していて、
――信じていいかな――
 と思うようになった。ただ、自分の前世が本当に人間だったかなども分からない。もし人間だったとして、記憶がまったくないのはどこかで記憶をリセットしているからだろう。それが生まれてすぐの赤ん坊の時代だったり、幼児期だったりすると考えれば、成長というものが前世の記憶を消すのに、大切な役割を果たしているという考えも成り立つのではないだろうか。
 出会いというのもそうかも知れない。
――あの場所にいなかったら、決して出会うこともなかった――
 出会いにはいつもそんな思いが付きまとう。偶然の産物が出会いというものなら、大袈裟に言えば、自分がこの世に存在することも偶然の産物である。親同士が偶然出会って愛し合う、それによって私が初めて生まれることになるからである。
 私が出会いに神秘的なものを感じるようになってから、出会いに対して慎重になっていた。それはいい意味でなのか、悪い意味でなのか分からないが、そんな中、知り合った女に石塚まどかがいた。
 それまでに付き合ってきた女性とは、もちろん肉体関係はあった。心も身体も相手を感じていたいと思っていたことが却って重荷になったのだろう。付き合い始めにいい付き合いができていた女性たちとは身体を重ねてから、相手が覚めていくことが多かった。
「重荷になるの」
 この一言がいつも決定的となり、終焉を迎えるのだ。きっと相手は私の中に紳士を見ていたのかも知れない。いや、軽い付き合いだけを考えていたのかも知れない。
 また、身体の関係から入った女性もいた。相手があくまでその気になってではないと、自分から誘うことなどない私にとって、それは実に神秘的なことだった。私の中のもう一人の自分を発見したのは、そんな時だった。
 なるべく相手の重荷にならないようにと考えていた私は、そう考えるあまり自己主張を抑えてきた感じがしている。相手に合わせることがうまく付き合う秘訣だと思ってきたのだ。
 しかしそれが相手に不満であったことは言うまでもない。肝心な時に自己主張をしないのでは頼りがいのある男ではないのは当たり前であろう。軽い付き合いで、相談されて答えるだけの都合のいい男になっていたのではないかと考えたこともあったが、それも仕方のないことだ。
――女性が分からない――
 そう感じ始めていた頃だ。
 私はもう出会いを求めることをしなかった。慎重というよりも完全に怖がっていたのである。自分から求めることは決してしないであろうと思い始めた頃、私の前に現われたまどかは実に新鮮だった。
――謙虚な気持ちが彼女との出会いを私に与えてくれたんだ――
 と感じるようになっていた。
 出会ったのは仕事が一段落して、同僚と呑みに行った時のことだった。
 私はあまり飲める方ではないので、誘われても断ることが多かった。しかし、その日は打ち上げという気持ちが大きかったので、断るつもりもなかった。最初からウキウキしていた気がするので、ひょっとして出会いの予感のようなものがあったのかも知れないと感じたが、それも後になって考えてのことである。だが、楽しい酒ならそれだけでよかったという気持ちに間違いはない。
 四人で行ったのだが、そのうちの一人がよく行くというスナックに連れて行ってくれた。
 静かなところを入っていくので、まさかスナックがあるなど想像もつかなかった。きっと常連だけでやっている店なのだろう。
 それがスナック「コスモス」である。
 街灯も暗く、民家も途切れがちなところだ。歩いていけばその先には住宅地が広がっている場所でもあった。
「おいおい、こんなところに店があるなんて知らなかったぞ」
 皆口を揃えて話した。
 店の入り口も分かりにくい。少し入り組んでいて、お世辞にも垢抜けた店とはいいがたい。どちらかというとレトロ調で、木目調の造りの外壁には蔦が絡まっていて、古きよき時代を思わせる。
 中に入ると、ウエスタン調を思わせるような長いカウンターがあり、カウンターの奥にはマスターと女の子が二人ほどいるのが見えた。
「ほう、中に入るとなかなか渋いじゃないか。結構いい店知ってるんだな」
「まあね。ここは学生時代からの馴染みだから、皆今日はゆっくり呑んでいこうぜ」
 主催の友達に言われるままにカウンターへと腰を下ろした。
「マスター、キープしてあったやつね」
「はい、かしこまりました。それにしても久しぶりだね」
「仕事が忙しかったからね。今日連れてきた連中も、同じプロジェクトの仲間なんだ」
 そう言って、紹介してくれた。
 マスターは髭が似合うナイスミドルな男性だ。痩せ型で少し小柄なのも親近感が湧いていい。こんな店の常連になりたいと常々思っていたことから、今度一人でも来てみたいと思った。
 他の客がいるにはいるが、皆静かに呑んでいる。この店は雰囲気同様、静かに呑む店らしい。また、一人で来る客も珍しいみたいで、カウンター席はほとんど空いていたのに、テーブル席は満席に近かった。しかもほとんどがカップルで、少し羨ましくもある。
――くそっ、カップルか、いいな――
 思わず店内を見渡して心の中で呟いた。アベックを見てから再度自分の連れである野郎どもを見ると、呟きたくなるのも仕方のないことかも知れない。しかも薄暗い店内の演出が、怪しい雰囲気を醸し出しているようであった。
 私を見つめる視線に気付いたのはそれからすぐのことだった。連れの他の連中はそれぞれ話に盛り上がっているようだったが、私は店内を見渡していたこともあって話の輪に入るのが遅れてしまった。仕方なく出された水割りをチビリチビリとやっていたが、感じてしまった視線の方向を手繰ってみると、どうやらカウンターの中からのようだ。
 静かに黙々と働いている店員は、客になるべく目立たないようにしていた。客から話しかけられるまでは決して自分たちから話し掛けることはしない。私の知っているスナックとは少し勝手が違う。きっと一人だけの客なら話し掛けることもあるのだろうが、この店の雰囲気であれば、それも希であろう。
 二人いる女の子のうちの一人がどうやら私に対する視線の主のようだ。確かに二人とも黙々と仕事をしているが、もう一人の女の子は顔も上げようとしない。完全に気配を消しているような気がしてならない。
――よくこんな愛想もくそもない女の子のいるスナックに呑みに来る気になったな――
 と連れてきた同僚に思ったほどで、ついつい他に何か魅力があるのではないかと魅力を探そうとしている自分に気付く。
作品名:短編集17(過去作品) 作家名:森本晃次