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「生まれ変わり」と「生き直し」

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「血ではない」
 と分かっていながら、まるで血糊を思わせる汚さに、自分がいるその場所からこのまま逃れられなくなってしまいそうで恐ろしくもなった。
 しかし、ここまでくれば、臭いの元凶を見つけないわけにはいかなかった。衝動は時として、気持ち悪さを凌駕するものらしい。好奇心という言葉だけで言い表せるものでもないだろう。
 修平は、そこが男女兼用であることに最初は気づいていたはずなのに、臭いの元凶を探している時、男子トイレのイメージしかなかった。そのために、本当であればすぐに見つけられるはずの元凶を見逃してしまっていた。
「おかしいな」
 見当違いのところを探しているのだろうか。同じところばかりをグルグル探しているだけに思えてならなかった。
「本当は見えているはずなのに、見えていない状況になっているのかも知れない」
 と、そんな思いに駆られるのだった。
 タイルにしみついた汚れに意識を取られていたが、臭いの元凶が汚物入れにあることに気が付くと、思い切ってそこを開けてみた。そこにはテープにくるまれた女性の生理用品が捨ててあった。臭いの元凶はそれだったのだ。
 普通なら、それほど気にするものではないのだろうが、その臭いを感じた時、
「最初から俺の身体にしみついていたような気がする」
 と思えた。
 自分の身体にしみついた臭いというのは、なかなか本人には分からないものだ。餃子などのニンニク料理を食べた時も、まわりはニンニクの臭いが気になっているのに、本人が気づかないのは、身体に臭いがしみついてしまっているからだろう。その臭いは歯を磨いた程度では拭い去ることはできない。なぜなら口からだけではなく、身体全体から発散されている臭いだからだ。
「風呂にでも入って汗を掻かなければ、臭いは消えることはない」
 と思っていた。
 修平の身体にいつ女性の生理の臭いがしみついたというのだろう? 大学で知り合いの女の子の中で、生理になっていることに気づく相手は一人もいない。臭いを感じないからだ。気だるそうな様子から、生理中なのではないかと思うことはあっても、確信があるわけではない。相手に聞くわけにもいかず、
「たぶん、生理中なのかも知れないな」
 と感じる程度だった。
 では、一体いつ、修平は女性の生理の臭いを感じたのだろう。臭いを感じた時の印象が強烈だったからこそ、生理中の臭いには敏感であった。修平は自分の記憶を遡ってみたが、どこまで遡ることができるのか、考えていた。
 思春期の中学時代から、小学生の高学年の頃までは、結構簡単に遡ることができた。まるで昨日のことのように思えることも少なくなく、中学時代が小学生の高学年からの延長であることを実感していた。
 しかし、どこからだろうか。結界のようなものを感じ、簡単に記憶を遡っているように思えたのに、普段は遥か昔のように思えていた頃のことをいつの間にか思い出していた。感じていた結界を飛び越えたのだろうか。
 あれは、小学三年生の頃のことだったか、学校への通学に、近所のお姉さんと一緒だった。修平は早めに家を出て、お姉さんの家に立ち寄る。お姉さんは、まだ朝食を食べていて、結構のんびりとしていた。
 お姉さんは、当時六年生だった。女の子の発育は男子に比べて早いのは小学生の頃、お姉さんは、クラスでも背が高い方で、子供の目から見ても、十分に魅力的だった。
 女性として見ているわけではないが、どこかドキドキするものがあった。ひょっとすると、これが修平の初恋だったのかも知れない。
 もちろん、この時のお姉さんはすでに初潮を迎えていたのだろう。小学三年生の修平にそんなことが分かるはずもなかった。たまにトイレを借りることがあったが、その時、甘い芳香剤の香りが印象的だった。ただ、そんな中でもおしっこの臭いとは違う鼻を衝くような気持ち悪い臭いを感じた。それが血の臭いであることは、二年前の友達の屋敷での蔵で感じた血の臭いが生々しく意識の中に残っていることを証明していた。
 お姉さんの家は、お母さんとお姉さんの二人暮らしだった。お父さんは、単身赴任で遠くに行っていて、たまにしか帰ってこないらしい。そういう意味でも、毎朝の修平との通学は、お姉さんにとっても新鮮なものだったに違いない。
 ただ、お姉さんよりもお母さんの方が、かなり気を遣ってくれているようで、修平への意識は強かった。
「お姉ちゃんだけだと寂しいからね」
 と言っていたが、どうやら、男の子もほしかったようなのだ。
 そのことを教えてくれたのはお姉さんで、母親はそんなことを一言も言うはずもないのに、子供心にも健気に察知したに違いない。
「うちって結構、あけっぴろげでしょう? それはきっと女だけの家族なんだと思うわ。男性がいれば、少しは違ってるのかも知れない。女性ばかりだと、あまり気にしないことも多いからね」
「そうなのかな?」
「きっとそうよ。今でもお母さんは、男の子がほしかったって思っているに違いないの。だから時々私も無性に寂しくなるの。そんな時、修平君がいてくれると思うと、心強いわ」
 と言ってくれた。
 修平の家は、女性はお母さん一人だった。修平も一人っ子なので、父親との三人暮らしでは、母親だけが女性というのも当たり前だ。
 修平の家では、家族三人の時は、母親を女性として意識していない。父親がどう思っているのか分からないが、少なくとも母親が修平に対しての態度は、「母親」であり、「女」ではなかった。
 ただ、修平の家のような家族関係は、友達の家でも同じような感じだった。一人っ子の友達の家に遊びに行くと、お母さんを女性として見ることはできない。年が離れすぎているという意識なのか、それとも友達の母親という意識なのか、ただ、自分の家族に感じるのと同じ思いなので、修平には違和感はなかった。
 しかし、友達にお姉さんがいる家では、お姉さんに対して女性を感じる。かなり年上であればなおさらのことだが、一つ年上というだけでも、
「お姉さん」
 という意識があり、自分たちよりも、かなり大人に近い存在として、眩しく感じられるものだった。
 お姉さんという存在を大人になっても憧れだったように感じるのは、この時の意識が強かったからだった。
 その頃から、お姉さんというのは、大人の女性という印象に変わっていった。しかも、一緒に通学していたお姉さんは六年生で、中学生といえば、もう大人だという印象だったその頃の修平には、本当に眩しく見えたものだ。
 自分にとってのアイドルだったお姉さん。しかし、お姉さんの家のトイレで、気持ち悪い血の臭いを感じた。小学三年生の修平に、女性の生理など分かるはずもなく、お姉さんに対しての憧れとかけ離れた臭いのギャップに思いを馳せていた。
 それでも憧れのお姉さんの臭いだと思うと、嫌な臭いでも、どこか親近感を感じてきた。以前は、気持ち悪いだけで、しかも、ケガをしたところをもろに見てしまった経験もあるのにであった。
「お姉さんだけは特別だ」
 そんな思いが頭をよぎった。
「僕はお姉さんが好きなんだ」