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「生まれ変わり」と「生き直し」

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 友達の家は旧家とも言える家で、屋敷の奥には蔵があり、薄暗い蔵の中で遊んでいた時のことだった。
 昔の造りなので、木の階段は、かなり急になっていて、子供では危ない造りになっていた。
 友達は慣れているのか、あまり注意することもなく駆け上がっている。
 数人で遊びに行った時のことだったが、友達の一人が慣れないはずの階段を、スイスイと駆け上がって見せたのには驚かされた。
「俺は、時々遊びに来ているからな」
 と言っていたが、それを見ていた別の友達がマネをして、自分も一気に駆け上がろうとしたのだ。
 見るからに慣れていないのが丸分かりなのに、それでも危険を顧みることなく、平然と駆け上がっていく。すると、案の定、足を滑らせて、そのまま階段の下に叩き落された。
 苦しみからか、声も出せないほど痛がっている。膝からは血が噴き出していて、よく見ると、真っ赤になった中心部に、白いものが見えた。
 子供だったので、それが何なのかすぐには分からなかったが、後で聞いてみると、傷が深すぎて、骨が見えていたようなのだ。
 その時は感じなかったが、後になって、
「骨が見えていた」
 と聞かされた時、背筋がゾッとするのを感じたその時、蔵の中の光景が頭の中にフラッシュバックしてきて、急な階段と、友達が落ちたコンクリートになった床の硬さと冷たさを、いまさらのように感じさせられたのだ。
 血の匂いを感じたのは、その時だった。
 友達がケガをした時も感じたはずなのだが、それが血の匂いだという意識はなかった。異様な雰囲気の中で、まるで薬品の匂いを感じているかのような感覚は、子供なのに初めてではないような気がしていた。
 今から思えば、母親の胎内にいた時か、それとも生まれた時に感じた血の匂いが、意識の中に潜在していたのかも知れないとも思える。しかし、それを後になって感じることなど稀であり、子供の頃だからこそ、その稀な経験ができるのかも知れないとも思えた。
 今までに感じたと思える血の匂い。その時々で同じ血の匂いなのに、若干違って感じられたと思うのは、その時の環境の違いによるものなのか、それとも、自分が成長していくうちに変わってくるものなのかのどちらかのように思えた。しかし、そのどちらであっても、感じる血の匂いは同じもののはずである。しばらくは、そう信じて疑わなかった。
 赤ん坊の時に感じた血の匂いという意味では、小学生に頃に友達のケガで感じた時の匂いよりも、中学時代に感じた匂いの方が、余計に近かったような気がする。子供の頃の血の匂いも気持ち悪いものだったが、中学時代に感じた血の匂いは、さらに違う匂いが混じり合ったかのようで、今思い出すと、嘔吐してしまいそうであった。子供の頃に感じた血の匂いは、ケガをした傷口を目の当たりにしてのものだったが、中学時代に感じた血の匂いは、その出所が見えるものではなかったという点で、大きく違っている。
 薬品の臭いという意味では、中学の時に嗅いだ血の臭いの方がひどかったように思う。あれは中学二年生の頃だっただろうか。自分でも思春期を感じ始めていた時だった。
 思春期のバロメーターとは、今から思えばニキビだったように思う。自分にというよりも、まわりの友達の顔にこれ見よがしに浮かんでいるニキビを見ると、汚らしいというイメージとともに、淫靡な雰囲気を感じ、どうしてそんなものを感じるのか、分からない自分にも同じようなニキビがあるなど、思ってもみなかった。
 鏡を見る限りでは、そこまで目立つわけではない。確かに少し顔が浮腫むような感覚はあったが、ニキビがまるで発疹のようになっているまわりの友達ほどではないことに、安心感があった。
 学生服の前を開けた状態で、男同士たむろしているのを見ると、ゾッとすることがあった。
「なるべく声を掛けられないように」
 と、いつも隅の方を歩き、目立たないようにしていた。
 本当であれば、一番目立つのかも知れないとも思ったが、幸いなことに、連中は修平のことなど眼中にないようだ。それでも、端の方を目立たないように歩く自分が情けなくもあり、どうしようもなく、やるせなさを感じるのだった。
 ただ、修平も自分の顔にニキビがあることに気が付くと、次第に思春期に巻き込まれていく自分を感じた。それまでに感じたこともない女性への憧れを感じるようになると、まわりから目立たないようにしている自分とは別に、目立ちたいと思っている自分がいるのも感じた。
 女性相手だったら目立ちたいと思っているだけではなかった。男性の中にいても、目立つ存在でありたいと思う。それでも、今まで修平が避けてきた連中の中で目立ちたいと思っているのではない。自分よりも目立たない数少ない存在の連中に対して目立ちたいと思っているのだ。
 そこにあるのは優越感に違いなかった。自分が優位に立っていることをまわりに示すことで、自分を納得させ、自分を納得させることが、自分に自信を持たせることになるのではないかと思うのだった。
 そんな時、気になる存在が現れた。現れたと言っても、今までいなくて、急に目の前に現れたわけではない。以前から同じクラスにいて、小学生の頃から、ずっと同じクラスだった男の子だった。
 話をしたことはない。修平は彼に限らず、他の誰ともあまり話をしなかったので、
「今に始まったことではない」
 と思っていた。
 彼の名前は、下野隆という。同じクラスが続いていたのに、話をしたこともなかったのは、彼はいつも一人孤独だったからだ。修平とそういう意味では似たところがあるが、決して接点があるわけではない。むしろ、
「交わることのない平行線」
 を描いていたのだ。
 隆と話をするきっかけになったのは、中学二年の時の体育祭の練習の時だった。
「二人一組になって、お互いに声を掛け合いながら、進んでください」
 二人三脚の練習だった。二人組は先生が勝手に決めたのだが、修平の相手が隆だった。修平は、
「他の誰よりも隆の方がよかった」
 と、後になって振り返った時、素直に口から出せるほど、その時はホッとしていたのだった。
 二人三脚の練習では、お互いに声を掛け合うが、会話があったわけではない。それでも前からペアだったかのように、息は合っていた。そのことは隆にも分かったようで、
「お前と組めるのは、俺にとってもありがたい」
 と言ってくれたのだ。
 それまでお互い孤独だった生き方に、少し色が付いたことで、
「こんな生き方もあるんだな。案外楽しいじゃないか」
 と、お互いに思える仲になっていた。
 修平にとって、ある意味初めてできた友達だった。隆も同じことを思ってくれていたようだ。お互いに孤独だった頃の気持ちを打ち明けていたが、どこまでが真実なのか分からない。
 実際、修平もすべてを隆に話しているわけではない。だが、話ができる相手がいるというだけで嬉しかった。
「きっと、隆も同じ気持ちなのかも知れないな」
 と思うと、修平にとって、さらに安心感が増していった。
 隆といることで、どんどん自分が大人になってきていることに気が付いた。
 大人になるということは、思春期を避けては通れないということでもある。つまりは、顔にニキビをいっぱいに作った。