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「生まれ変わり」と「生き直し」

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「もちろん、恨んだわ。私のいうことを聞かずに、勝手に離婚したとしか私には思えなかったからね。でも、それでも離婚しなければいけない何かがあったんだって思うと、子供の私にはいくら説明しても理解できるはずはないので、敢えて何も言わなかったのかも知れないわ。今ではおぼろげながらに分かっているつもりだけど、完全に分かることはないと思う。もしあるとすれば、私が母と同じ立場に陥った時、分かるかも知れないという程度で、確率から考えても、かなり低いんじゃないかなって思うのよ」
「親は娘から憎まれていることを分かっていたんだろうね」
「分かっていたと思うわ。でも、やってみなければ分からないということもあるんでしょうね。離婚だって、最初からしたいと思って結婚したわけではないはずあんだし、何かやむに已まれぬ理由があったと思うの。だからと言って、離婚がいいとは言えないんだけどね」
 さつきは淡々と話しているが、心中はどうなのだろう? いろいろと思うところもあるのだろうが、今は、自分の気持ちを思い返すように、昔のことを思い出しながら話しているに違いない。
 修平も、両親があまり仲が良くなくて、大学に入学するとともに、家を出た。たまに家に帰ることもあるが、別に家に帰ったからと言って、何かが変わるということもないし、自分が家に帰ることを、両親が心底喜んでくれているとも思えない。
 二人は、最初博物館で絵を見るところからデートが始まった。絵を見ている時のさつきの横顔は、どこか寂しそうだった。
 元々、最初にデートに誘ったのはさつきの方で、その理由が、
「見たい絵があるんだけど、一緒に行きませんか?」
 というものだった。
 博物館など、高校時代に学校から行ったのが最後になるだろうか。友達の中にも博物館に造詣の深い者もいなかったし、一人で出かけようなどと思うこともなかった。
 しかし、さつきは博物館には何度か来たことがあったようだ。
「学生時代の友達と、旅行に出かけた時など、コースに博物館が入っていたりしたので、何度か行ったことがありますよ」
 学生時代の友達というのは、裕子も含まれているだろう。
――そういえば、裕子と付き合っている時、博物館に行ったことがあるなんて、聞いたことがなかったな――
 少なくとも、裕子は博物館が好きではなかったのだろう。
――それにしても、裕子は俺と付き合っているという感覚があったのだろうか?
 裕子とは、普通に腕を組んでデートしたりしていた。もちろん、修平は付き合っていたと思っている。裕子も同じ気持ちなのだろうと思っていたが、考えてみれば、お互いに付き合っているという言葉を口にしたことはなかった。
 そもそも、付き合っているということを、わざわざ口に出す必要があったのだろうか?
 どちらかというと、恥ずかしく感じるだけではないだろうか。
 さつきの両親も、修平の両親も、お互いに付き合いから始まって、恋人になり、そして、結婚したはずである。交際期間に盛り上がりすぎて、結婚してから、
「こんなはずではなかった」
 と言って、結婚当初から挫折してしまう夫婦も少なくない。
 そのまま離婚してしまうこともあるだろう。まだ子供もいない状態で離婚できればいいのだろうが、子供が生まれてしまうと、離婚するのに、足枷になってしまう。
――そんな時、親はどう思うんだろう? 「子供さえいなければ」なんてこと、思ってしまうのだろうか?
 そんな風に思われると、子供は溜まったものではない。自分の意志で生まれてきたわけではないのに、勝手に生んでおいて、
「子供さえいなければ」
 なんて言いぐさはないだろう。
 そんなことを考えていると、裕子と付き合っていた時、どんな話をしたのかが、思い出せなかった。ただ、一つ言えることは、少なくとも修平の方では、遠慮しながら話をしていたような気がしていたのだ。
 裕子の方は、元々口下手で、口数は少なく、余計なことは話さないタチだった。修平は、相手があまり話す人でない時は、
「自分の方から話をしないといけない」
 と感じる方なので、いつも話題は修平の方からだった。
 そうなると必然的に会話の主導権は修平の方にあり、黙って聞いているだけの相手に、本当に自分の気持ちや言いたいことが伝わっているのかが、不安になってくる。
 相手が会話上手な人であれば、こちらから敢えて話題を出すこともなく、相手に会話を合わせればいい。相手に自分の言いたいことや気持ちは伝わっていると思っている。しかし、自分主導で話をするのは、最初嫌いではなかった。話題さえあればいくらでも話を繋いで行けると思っていたくらいだったのだが、それは自分の独りよがりで、相手の考えを無視して、一人突っ走ってしまっていることに気づくと、自分がどう思われているのかを考えてしまい、会話が途中でできなくなってしまうこともあった。
 裕子に対しても、そんな時があった。別れることになった遠因の一つなのかも知れない。しかし、中学、高校時代は、無口な女の子が好きだったはずだ。
 それは見た目、おとなしそうに見える女性に大人の魅力を感じていたのではないだろうか。よく喋る女性は、どこか軽く見えてしまい、
――結構、遊んでいるのかも知れない――
 と思うと、自分が遊ばれてしまうと思えてくるのだ。
 遊んでいる女性が、実は男性のことをよく分かっている女性だということに、ひょっとすると気付いていたのかも知れない。
――分かっていて、敢えて避けていた――
 自分の男としての技量を見極められることが怖かったのではないか。
 修平は、それだけ自分に自信がなかった。元々、会話が上手だと思うようになったのも、中学時代に、好きだった女の子と一緒にいて、自分から何も話すことができず、無言のまま、時間だけが過ぎていった経験があったからだ。相手が話をしなければ、自分から話すしかないと思うようになっただけでも自分の中での進歩だと思っていた。そして話ができるようになると、有頂天になり、会話が得意だと思うようになった。そういう意味ではこの自信は、もろ刃の剣のようなものであり、少しこすると剥がれてしまう「メッキ」のようなものだと言えるのではないだろうか。
 修平は一度手にした、
「自分でもできると思う自信」
 に対して一歩下がって見てしまった。そのせいで、せっかく進んだはずの自分への自信が数歩下がってしまった。さつきと再会できたことは、今後、自分への自信に対して、どういう影響を与えるのかということに関しても、期待と不安が入り混じっている修平だった。
 さつきとの再会を果たした修平は、今まで考えてもいなかった、
「さつきとの交際」
 を、考えてみることにした。
 再会するまでは、男女間での親友関係を考えていただけに、再会によって、
「今まで見たこともなかったさつきの一面を垣間見たのではないか」
 と思うようになった。
 さつきとは、もう一度再会できるような気がしていた。ただ、再会してからのことはまったく考えていなかった。道端で出会って、声を掛け合って終わりというような程度にしか考えていなかったのだ。
 それよりも、再会してみたいと思っていたのは、さおりだった。