小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「生まれ変わり」と「生き直し」

INDEX|20ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

「おっしゃる通りですね」
「僕は、今までにそんな経験はないのでよく分かりません」
「別れることになる男女というのは、意識しているしていないということを度返しすると、誰もが私と同じ感覚になるんだって思っています。きっと、夢を見たと思っているんでしょうね。夢であれば、目が覚めるにしたがって忘れていくものですからね」
「なるほど、そうかも知れませんね」
「私は、それからいろいろな方とお付き合いをしました。これでも、結構男性から声を掛けられるんですよ。でも、やっぱりすぐに別れてしまう。別れというのも、マンネリ化するものなんでしょうかね?」
「マンネリ化というよりも、連鎖反応なのかも知れませんね」
「というと?」
「マンネリ化というのは、同じことを繰り返しているうちに、意識や感覚がマヒしてしまって、ショックなことだったり、嬉しいことだったりする喜怒哀楽の感情が欠落してしまうことなんだって思うんですよ。つまりは、その人の意志が影響している」
 そこまで言って、修平は水を口に含むと、同じようにさつきも彼のマネをするかのように、水がまだ満タンに入っているグラスを口に近づけた。
 さつきは、会話が盛り上がってきも、少々のことでは咽喉が乾かない。コップに水が残っていたのは咽喉が乾いていなかったからというわけではない。この日の修平との会話では珍しく、自分の咽喉がカラカラに乾いていることすら忘れてしまうほど、彼との会話に集中していたようだ。
「はい」
 咽喉を潤すと、相槌を打った。
「でも連鎖反応というのは、理由はよく分からないが、普段頻繁には起こらないようなことが続いてしまうことがある。たとえば事故なんかがそうですよね。何か不思議な力が働いているのではないかと言われることもありますが、実際には、当事者の意志が働いているわけではない。そういう意味では、マンネリ化とは正反対の感覚ではないかと思うんです」
 さつきは、あっけにとられて修平の顔を見つめている。呆れているわけではない。かといって感心しているわけでもない。何か自分の中で葛藤があり、その葛藤と向き合おうとしているのかも知れない。
「なるほど、分かったような分からないような」
 その言葉に偽りはないだろう。曖昧な気持ちを表現するのに、これほど最適な言葉はないかも知れない。
 しかし、考えてみると、修平の言いたいことは、さつきが別れることになるのは、さつきの意志が働いていないということを暗に仄めかしているように思える。
 確かに、自分でもよく分かっていない部分はあるが、男性との別れなど、そうそうすべてを分かる人など、そうはいないだろう。そう思えば、修平の言っていることは、さつきの中で、おおよそ承認できるものではなかった。
 認めたくないという思いは顔に出るものなのかも知れない。さつきの顔を見て、修平はニヤリと笑った。いわゆる
「どや顔」
 というものなのかも知れないが、その顔を見ると、少し苛立ちを感じた。
 しかし、考えてみれば、久しぶりに再会した男性としては、最近の自分が男性との交際や別れを繰り返しているということを面白くないと思っているのは当たり前のことではないだろうか。それを分かっていながら意地悪しているかのように、これ見よがしに語るというのは、今までのさつきにはないことだった。
 それを分かっていたかのようなどや顔は、さすがにさつきにも想定外だったこともあって、少し癪に触っている。
「最初に張り合ったのは自分なのに、ちょっと虫が良すぎるかしら?」
 やりすぎたという気持ちもあっただろう。だが、一度振り上げた鉈のやり場に困ってしまったさつきは、会話をこのまま続けるしかなかった。できることとすれば、なるべく会話の的を自分から外してしまうことくらいだろうか。
「修平さんはどうなの? 誰かいい人見つかった?」
 修平のどや顔に少し陰りが見えた。
「いえ、お付き合いしている人はいませんね。一人を謳歌していますよ」
 その言葉に、修平としては、偽りはなかった。しかし、その言葉をさつきはどれほど信じただろうか?
「修平さんは、結婚なんて考えますか?」
「どういうことですか?」
「異性が気になり始める時というのは、男女の差はあるでしょうが、思春期という意味では、そこまで変わりありませんよね。でも、結婚したい時期というのは、一生のうちに本当にあるらしく、こちらは、男女の差というよりも、個人単位の差の方が大きいような気がするんです」
「そうかも知れませんね。でも、本当ん結婚したいと思う時期というのは、すべての人間に備わっているものなんでしょうか? 中には、結婚したくないと思って、ずっと独身を通している人もいますよ」
「でも、そんな人は、結婚よりも仕事という思いで、仕事を優先した。つまり、結婚を犠牲にしたという考えも成り立ちませんか?」
「そうですね。でも、仕事を優先したと思っている人は、結婚したいという時期があることを頭から信じていたので、結婚を犠牲にしたと思っているだけで、本当に犠牲になんかしていないのかも知れませんよ」
「それは私も思いますが、私個人の考えとして、すべての人に結婚願望はあってほしいと思っているんですよ。もし、それがないのだとすれば、生まれた時から、その人の運命は決まっていたのではないかと思えてしまうんですよ」
 さつきの考えは、修平が思っているよりも、大きく膨らんでいるようだ。まさか、さつきが人間の出生の瞬間にまで考えが及んでいるなどと、思いもしなかった。
「さつきさんは、人の一生は生まれた時に、すでにある程度決まっていると思っているんですか?」
「そうね。ある程度までは決まっていると思っています。もちろん、その後の環境にもよってくるとは思うんですけど、その人の性格は生まれた時に形成されていると考える方です。人の性格を持って生まれたものと、育った環境だっていいますけど、聞いていると、半々に感じませんか? 私は極端に言えば、持って生まれたものがすべてだと言ってもいいくらいだと思っているんですよ」
「それは極端ですね」
「確かに極端ではありますが、その人の持って生まれた性格が、自分のまわりを動かすという風に考えると、環境が人の性格を変えるのではなく、人の性格に環境が合ってくると考えても無理はないと思うんです」
 どうやらさつきという女性の考え方は、
「人間中心」
 ということのようだ。
 環境すら人の性格が左右するという考え方が、それを証明しているのであろう。
 しかし、そこまで考えてくると、
「さつきという女性は、俺の考え方に共鳴してくれるかも知れないな」
 と思えてきた。
 修平は、自分の考え方が時々暴走を始めることがあり、そのことをまわりに知られたくないという思いから、なるべく自分の考えを封印してしまうところがあった。それは、人に気を遣っているわけではなく、あくまでも自分のためだった。