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「生まれ変わり」と「生き直し」

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 そこまで考えてくると、さつきと裕子の間にあった大きな隙間には、さおりが入り込むのかも知れない。
 しかし、入り込むと言っても、身動きのできる余地のない、カツカツの状態にである。さおりの顔を思い浮かべようとするが、浮かんでくるものではなかった。きっと最初の時に見た救急車で運ばれた時に見たあの顔が、強烈な印象として、頭の中に残っているからであろう。
 さつきや裕子と交流があった時、さおりはまだ精神的に闇を抱えているようだった。二人は一様にさおりの心配をし、まるで、自分のことのように恐れていたようだ。
「一体、何に怯えていたのだろう?」
 さおりの話をする時、二人とも、少し顔を上にあげて、遠くを見るような目で、黄昏ているような様子だった。
「夕日をバックにすると似合いそうだ」
 という思いを抱かせていたにも関わらず、急に何かを思い出したかのようにビクッとなり、怯えからか震えだすのだった。
 二人のうちのどちらかの様子を垣間見たことで、さおりの話が出た時、その時の印象の強さからか、二人が同じリアクションを示しているように思えてくる。
 さおりのことは、二人から聞いて、それぞれ微妙に違っていながらも、総合的に判断し、自分の中で勝手なストーリーをこしらえていたような気がする。
 さおりに関しては、可哀そうな女の子だとは思ったが、どうにも魅力を感じなかった。付き合っている人が最初からいたということを、最初から知っていたことが、一番のネックだったような気がする。
 修平は、誰かを好きになっても、その時に付き合っている人がいたり、誰も付き合っている人がいなかったとしても、他に彼女のことを好きだという人がいたりすると、冷めてしまうタイプだった。
「修平が好きなタイプというのは、誰ともバッティングすることないので、安心だ」
 と、高校の頃から言われていた。
 それだけ、付き合っている人や、他の人と争うような相手を好きになることはないという証拠で、
「諦めるくらいなら、誰とも競合しないような相手を選ぶ方が無難だ」
 と思うようになったのだ。
 裕子を好きになったのも、その理由が大きかった。
 見た目も大人しそうで、どこか話しかけにくいタイプの裕子に、彼氏がいるわけはないという思いもあり、
「さつきと裕子を並べたら、さつきの方がモテるに違いない」
 と分かっていたからこそ、裕子と付き合うことにしたのだ。
 それでも、さつきとは話が合った。
「恋人同士ではないことで、できる話もあるのだろう」
 という思いが解放感に繋がり、さつきとの雰囲気をオープンにしたに違いない。
 だが、二人の関係を裕子に知られるわけにはいかないという思いは、ある意味ドキドキしたものを与えてくれ、スリル溢れる関係を、修平は楽しんでいた。
「ひょっとすると、さつきも楽しんでいたのかも知れない」
 そんな不可思議な思いがあったからこそ、さつきと裕子の間に大きな隙間があることを感じ、別れに際しても、それほどトラブルもなく別れることができたのではないかと思えてきた。
 そんな二人が共通の話題を持っていて、それぞれに言い分が微妙に違っているというのも不思議なものだ。それも、修平を含めた三人の関係で考えると、どこかに辻褄が合うキーワードが潜んでいるに違いない。
 修平は結局その後の就活はうまくいかず、最初に内定をもらった金融機関関係の会社に就職した。目の前にたくさんのお金があっても、それは他人の金だという意識が強かったのと、細かいことが苦手な修平に務まるかどうか自信がなかったが、やってみれば、結構合っていたのかも知れない。今ではだいぶ慣れてきて、会社でもそれなりに評価されているようだ。
「俺がやりたかった仕事って何だったんだろう?」
 詳細なビジョンがあったわけではない。出版関係や、マスコミに興味はあったが、今から思えば、仕事にするとどうだったんだろうと疑問しか浮かんで来ない。趣味や興味のあることを仕事にしてしまうと、それが嵌った時は楽しいのかも知れないが、気持ちに余裕がなくなると、逃げ場がなくなってしまう。
 逃げ場という表現が適切でなければ、癒しの場とでもいうべきだろうか。自分にとっての「隠れ家」は、文字通り人に知られてはいけないばかりか、自分の中にある余裕がなくなった時に現れるもう一人の自分にも知られてはいけないものに違いないのだ。
 そんな時にさつきと再会した。
 さつきも、もちろん以前のさつきではないのだろうが、修平自身も、昔の自分ではないと思っている。仕事が嫌だと思っていない分、自分は成長したのだと思っていたからだった。
「さつきさんは、どなたかお付き合いされている方、おられるんですか?」
 さつきのように人当たりのいい女性を、男性は放っておかないような気がした。修平としても、最初に出会った時、裕子と一緒でなければ、どんな気持ちになったのかと思い返すこともあった。しかし、どうしても、思い出す時、最初に出てくるのは裕子のことだった。
 今、裕子の後ろにいるさつきしか見ていなかったことに気づくと、改めてさつきを凝視してみたくなったのも事実である。修平には、さつきが大きく見えた。それは裕子の後ろに立っていながら、さつきの姿がハッキリと見えたからだ。
 しかし、今目の前にいるさつきには、あまり大きさは感じない。むしろ、小柄で華奢なその身体は、頼りなさすら感じさせるほどだった。
「守ってあげたいなんておこがましいと思っていたが、今のさつきには、そんな言葉がピッタリだ」
 と思っている。
 さつきとは、再会してから、数回会っている。さつきに誰か付き合っている人がいるかどうか確認するには、ちょうどいい機会くらいにはなっていた。
「卒業するまでは、どなたともお付き合いすることはなかったんですが、就職してから、会社の人とお付き合いするようになったんです」
「今も、その人と?」
「いえ、すぐにお別れしました。合わなかったのかも知れませんね」
「さつきさんをふるなんて、羨ましい色男だ」
 皮肉を込めて言ったつもりだったが、
「いえ、ふったのは、私の方なんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、でも最初にどこか噛み合わないと感じたのは、彼の方だったと思います。急によそよそしさが感じられ、会話が続かなくなったんです。それまで続いていた会話の時間にポッカリと大きな穴が開いてしまって、気が付けば、両側から黙って二人とも、その穴を見つめていたんでしょうね」
「その時に、お互いに考えていたことは違っていた?」
「ええ、違っていたと思います。私も彼も、お互いに目を合わせることも、相手を意識することさえありませんでした。少しでも相手を意識するならば、目を合わせないまでも、相手を意識くらいはするでしょうからね。目の前にいながら、眼中にないというのは寂しいものです。しかも、二人で同じように眼中になかったんですから、きっと、目の前にある穴を幻だと思いながらも、穴を必死で肯定しようとしていたんでしょうね。それだけ、相手を否定したかったのかも知れません」
「考えていたことは違っていながら、結果として表から見ると、同じにしか見えないというのも、悲しいことなんでしょうか?」