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「生まれ変わり」と「生き直し」

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 修平はずっと意識していたのに、すぐには思い出せなかったが、裕子は気づいた瞬間に、以前どこかで出会ったことがあると直感したようだ。修平が、以前どこかで裕子と出会ったことがあると感じたのは、そんな裕子から発せられたオーラで感じたのかも知れない。そうなると、もはや裕子から溢れているオーラは「負のオーラ」ではない。修平にとって、裕子と二人きりになるというシチュエーションは、最初から用意されていたことのように思えてならなかった。
「あなたも、そう思われますか? 実は私もそうなんです」
 というと、裕子はニッコリと笑って、修平の表情を、すべて受け入れてくれるように思えた。修平は続けた。
「実は、昨日、喫茶店で皆さんをお見掛けしたんですよ」
 その時、裕子と目を合わせたこと、「負のオーラ」を感じたこと、そして、裕子が自分に気づかなかったことなど、まったく話す気はなかったが、見かけたことだけは最初に言っておかないと、フェアではないような気がしたのだ。
――一体、何に対してフェアではないというのだろう?
 思わず、自分に問いただしてみたが、その答えは出てくるわけはない。フェアというのは、相手との立場関係の元に考えるもので、裕子と自分の間に、どんな立場関係が存在しているのか分からなかった。だが、二人が同時に以前どこかで会ったことがあると思ったのは偶然ではないだろう。そうなると、それぞれに立場関係が存在していたことは紛れもない事実に思えたのだ。
「そうですか。大学の友達同士でやってきたんですが、五人のうち、三人は、萩の街を訪れるのは初めてではなかったんです。私も何度か来たことはあったんですけどね」
 と、話してくれた。
「そういえば、昨日一人の女の子が救急車で運ばれたようだったけど、どうなったんだい?」
 気になっていたことを、訊ねてみた。裕子は少し間を置いたが、
「ええ、大丈夫だと、少し遅くなってからだったけど、連絡がありました。でも、数日間は入院が必要だということで、私たちも、元々萩に数日滞在する予定だったので、入院している彼女とは別行動になるわね。でも、誰か二人は彼女の病院でついていることになるので、人数的には半々での行動になるかも知れないわ」
 ということは、裕子とは昨日一緒にいたさつきという女性がペアになるのではないかと勝手に思っていた。
「さおりさんは、妊娠されていたんですか?」
 その質問には、間髪入れずに裕子は答えた。
「ええ、妊娠していたようです」
 その言葉には、重さが感じられ、誰かに質問されても、毅然とした態度で答えなければいけないという覚悟のようなものが感じられた。
 修平は、妊娠という言葉を聞くと、なぜか小学生の頃、近くに住んでいたお姉さんを思い出す。
「俺にとっての初恋」
 その思いは今でも変わらない。それだけに、お姉さんに対して抱いた淡い恋心と、気持ち悪く感じた血の臭いとのギャップに悩んだことを、いまさらのように思い出す。
「今のように知識を持っていれば、お姉さんに対しての思いも変わっていたかな?」
 それは、好きだったという思いに対してではない。ギャップの負の方の感情である。気持ち悪さから、お姉さんに対して淫靡な印象を抱いていたことを、その時は分からなかった。
 いや、分かっていて、自分で認めたくなかったのかも知れない。認めることが怖いという当たり前の感覚を、素直に自分で認めることができるのは、中学時代までだったような気がする。
 認めることが怖いということは、それだけ自分が純情であるということを感じている証拠で、純情でなくなることが、大人になる一歩だという思いは、偏見であろうか?
 あの時、修平の前からいなくなったお姉さん。修平に何かを訴えたかったような気がした。何かを訴えたとしても、まだ子供の修平に何ができるというわけではない。お姉さん自体も、まだ子供なのだ
 だが、今から思えば、ある時からお姉さんの態度が明らかに変わった気がする。それは大げさなようだが、
「他の誰にも分からないことでも、俺になら分かったことだったんだ」
 という思いから、
「明らかに違った」
 という感覚になったのだと思う。
 しかし、明らかに違っていたにも関わらず、何もできなかったのは、その正体が何であるか分からなかったからだ。まだまだ子供だったくせに、お姉さんを前にすると、ついつい背伸びしたくなる思いは、よほどお姉さんに、大人っぽさを感じたからなのかも知れない。
 お姉さんがいなくなってから、学校の集会で、
「これからは、登下校に集団で行動するようにしてください」
 という話があった。
 それまでは、友達同士で登下校をしていたが、その時からは、学校で決められた集団に従って、登下校することになった。学校で決められた集団は、他の学年の生徒も混じっている。六年生から一年生まで、地区で決まった中に含まれていれば、集団に加えられる。四年生だった修平は、六人の集団の中に入っていて、上級生は六年生が一人、後は同じ四年生がもう一人、後は三年生と二年生で構成された。最初こそ違和感があったが、慣れてくると、集団での登下校は気になるものでもなくなった。まるで最初から集団で登下校をしていたかのような感覚に陥ったくらいだ。
 前の年まで、お姉さんと一緒に登校していたはずなのに、その思いは遠い過去のように小さくなっていて、それが去年のことだという意識を持とうものなら、違う次元の出来事だったかのような印象を受けるのは、夢を見ている感覚に似ていたからなのかも知れなかった。
 集団登下校をしなければいけなくなった理由を知ったのは、それから少ししてのことだった。
 集団登下校が始まってから少しして、今度は通学時間になると、交差点や人通りの少ない場所などに、警官や父兄が旗を持って生徒を誘導する姿が見られた。いくら子供と言えども、その仰々しさに、
「何かおかしい」
 という思いを抱かないわけはないだろう。
 そして、そのうちに噂として、
「数か月前から、変質者が横行している」
 という話を聞かされた。
 特に小学生などの生徒をターゲットに悪戯をする輩だという。家に帰って母親に噂のことを聞いてみた。
「変質者が出るって聞いたんだけど、どんな人なんだい?」
 すると母親は、
「詳しいことは分からないけど、一人で歩いている子供をどこかに連れ込んで、悪戯しているらしいのよ。犯人は男らしいんだけど、小学生が男の子であっても、安心はできないという話なの」
 子供心に、
「怖いものなんだ」
 という思いはあったが、実際に悪戯というだけで、どんなことをされるのかまでは分からない。したがって、想像の域を出ることはできず、どうしても話を聞いたとしても、それは他人事でしかないのだった。
 どちらにしても、集団で登下校をしているし、警察官や父兄が見回ってくれているので安心なのだが、考えてみれば、それもいつまで継続してくれるか分からない。それだけに、警戒態勢が解かれてからの動向が恐ろしくもあった。ちょうど、学校の国語の時間に、
「天災は忘れた頃にやってくる」
 ということわざを習ったばかりだ。
 しかも、その時に先生から、