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短編集16(過去作品)

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 性格があまりにも似すぎていると、却って反発しあうものかも知れない。何しろ相手の考えていることが行動パターンを見ていれば分かるのだから、相手のいいところも見える反面、嫌な部分、見たくない部分も否応なしに見えてくるというものである。
 本を読むことで私は余裕を確認でき、余裕を確認すると、自分と見詰め合うことができるのだ。そういう意味で読書はただの趣味というだけではなく、「生活の一部」と化していた。
 ゆっくりとカウンターで、コーヒーの香りを楽しみながら、そう感じ始めた頃を思い出していた。
――あの頃は若かったな――
 精神的に成長したことは自覚している。しかしそれだけに何か忘れてはいけないことを忘れてきたという思いは拭えず、本を読みながら無意識に昔を思い出したりしていた。
――そういえば初恋の人ってどんな子だったかな?
 昼下がりに喫茶店でコーヒーを飲みながら、ゆっくりと本を開いて読んでいる。そんな光景が浮かんできた。しかしそれは私の記憶にある彼女ではなく、もっと大人になった彼女だった。
――もう結婚しているのかな? それともOLをしているのかな?
 髪型も学生時代のような三つ編みではなく、ストレートな髪が肩まで掛かったような、そんな髪型であった。
――結婚はしていないだろう――
 私の想像した彼女の薬指に指輪はない。あくまで願望に違いないが、想像の中に出てくる彼女なら、もし出会うことができたら、再度付き合ってみたいと思える。
――落ち着きのある人が好きだ――
 漠然と思ってきたことである。それでも学生時代には賑やかで派手好きな人と付き合ったこともあり、それなりに楽しかった。別れる時も意外とさりげなく別れられたのは今でも不思議だ。
 私から女性をふったことはない。ふられたことはもちろんあるが、どちらかというと自然消滅が多かったかも知れない。理由は決まっていたのかな? 少なくとも私に情熱がなくなっていたのは否めない。
 それでも一番印象に深い女性はやはり最初に付き合った女性である。最初だったというだけでなく、一番私に影響を与えてくれた人であり、今から思えば性格が一致していたのかも知れない。私の中にあった今の性格を引き出してくれたのは彼女であり、私は今でもこの性格に違和感を感じてはいない。
 彼女の姿を思い浮かべながら本を読んでいると、落ち着いた気分になれる。恋愛小説だったり、他の小説でも恋愛シーンが出てきたりすると、喫茶店で本を読んでいる彼女の姿が浮かんできて、自分たち二人が主人公になったような気持ちで読める。これほどリアルな感覚はないだろう。
 特に今日読んでいる本もそうだった。恋愛小説であり、しかもその中の回想シーンで、青春時代の二人が出てくるのだ。完全に私と彼女を主人公に仕立てて読んでいる自分を感じていた。
 私が落ち着いた気持ちにならなければと思うようになったのは、いつからだっただろう?
 あれは確か小学校の頃のことだった。私はまだその事の重大さを本当に理解していない時だったから、低学年くらいの頃のことだったような気がする。あの頃はまだファミコンなどもなく友達と表で遊ぶのが「子供の仕事」のようなものだった。私も学校から帰ってきて、いつも近所の公園で友達と野球をしたりして遊んでいた。その頃は楽しかったのだけれど、なぜか冷めた目で見ている自分がいたのか、毎日の繰り返しに疑問を持っていたのかも知れない。そのことはだいぶ経ってから気付いたことだが、別に集団の輪の真ん中にいたいと思っていたわけでもなく、もし真ん中にいたとしても、それで毎日の繰り返しの疑問が解けるような気がしなかった。やはり冷めた目で見ていたのかも知れない。
 そんな友達の中でも家が比較的近くで、公園で遊ばない時には、彼の家で遊んでいた。彼の家にはおばあちゃんがいて、両親はいつもいなかった。何となく変だと思いながら、その疑問を聞いてみる気にはなれなかった。どうやら共稼ぎをしているので、その時間家にいないのは当たり前のようだった。
 そのためか、おばあちゃんにいつも可愛がられていた。何をするのでもおばあちゃんがそばにいたのだが、さすがまだ小さい友達にはおばあちゃんの優しさや、本当の心遣いが分からないのは無理のないことで、時々わがままを言って困らせていた。自分も幼かったので、何となく不快感を感じながらも、それがどこから来るのか分からなかったが、理解していない私に感じるくらいの不快感なので、大人が見ればかなりのわがままだったに違いない。
 そんなおばあちゃんといつも一緒だった友達だったが、ある日からおばあちゃんがあまり表に出てこなくなった。どうやら体調が悪いらしく、起きて少しくらいのことをするくらいはできたのだが、さすがに孫の相手をするまでは回復していないらしく、あまり出てくることがなくなったのだ。友達は今まで縛られていたという思いがあるのか、最初は何となく寂しそうだったが、途中からイキイキし始めたのだ。
 私には分かっていた。結構今までに、してみたいけどおばあちゃんの目があってできないことがあったのだろう。何かというと危険な遊びを自分からするようになっていた。要するに目立ちたがりだったのだろうか、それまでの抑圧された気持ちが一気に噴き出してきそうで怖くなる時があった。
 それでも、公園で遊んでいる時はよかった。みんなの中の一人ということで、危険なことは何もなく、たまに中心になっている人と意見が衝突して、途中で帰ってしまうことがあったくらいだ。しかしそれでも今までの彼から信じられない私は、彼に対する見方が少しずつ変わってきたのではないかと感じていた。
 そんな時、
「おい、どうしたんだい。お前らしくもない」
 と軽い気持ちで話しかけると、
「どうもしないが、何か面白くなくてな」
 そう言って普段見せたことのないような寂しそうな顔になることがあった。
 私は心の中で、
――やっぱりおばあちゃんがいないのが影響しているのかな?
 と感じていた。あれほど伸び伸びと遊べると思っていたのに、心の底では寂しさがあるのだ。自分の意見を通してみたいと思う気持ちはそこから来ているのかも知れない。
 それから数日してからであった。
 あわただしい音が聞こえてきて、子供心に何か喧騒とした雰囲気であることは分かっていた。救急車や消防車の音があたりに鳴り響き、遊んでいた公園の前を急いで走りすぎていく。
――何かあったのかな?
 遊んでいた手を少し休め、走りすぎる後を目で追いかけていたが、所詮遊んでいる自分たちに関係あることではないと考え、すぐに遊びを再開した。
「何か近くらしいぞ」
 もしその時後から公園に来た友達がいなければ、誰も気にしなかっただろう。後から来たやつは後ろを振り返りながら皆にそう告げていた。
 そういえば消防車の走り去った方向を見ると煙が上がっているのが見える。しかもその勢いは次第に増していってるのが分かるくらいだ。最初は灰色っぽい煙だったが、次第に黒っぽい色に変わってきて、尋常でないことは見て取れた。
「おい、行ってみないか?」 
作品名:短編集16(過去作品) 作家名:森本晃次