小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集16(過去作品)

INDEX|20ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

――どっかで聞いたような話――
 と感じるのはなぜだろう。この間まで読んでいた本だと思えないのは、その話を聞いたのが遥か昔、そう子供の頃だったような気がするからだ。子供の頃に感じた思いと今感じるのでは、明らかに感じ方が違うだろう。だが、それも一長一短かも知れない。子供の頃より今の方が経験豊富なので、そこからいろいろ想像を膨らませることができるが、子供の頃の方が想像力に欠ける分、感受性が強かったような気がする。
 どちらがいいかなど分からないが、ただ記憶を紐解いていくうちに懐かしさがこみ上げてくるのだけは事実のようだ。
 本を読んでいて今までそんなことを感じたことはしばしばあったような気がする。そんな時どんな風に感じていたか思い出せないのは、その時々で同じではなかっただろうか?
 本を読むことが自分の世界を作ることだと思い始めたのは、それも原因だったのかも知れない。それまでは読んだ内容を忘れるようなこともなかったのに、忘れるようになったのは、きっと懐かしいという思いが邪魔するからなのかも知れない。
 時々読み返しながら顔を上げてみる。まわりを見るが、一様に皆さっきと変わらぬ表情で、店内の空気がゆっくりと流れているかのようだった。
 遠い記憶が思い出される。
 小学校の頃、初めて好きになった女の子、今から考えれば、今まで会った中で一番純情な女の子だった気がする。しかし大人びて見え、とても同級生とは思えないほどに感じられた。中学卒業するまで、あまり異性に興味を感じたことのなかった私も、小学校の頃に気になっていたその子が本当に好きだったと感じたのは、ずっと後になってからのことだった。
 私が異性に興味を持ち出したのは友達に比べれば遅かった。友達が「ガールフレンドが欲しい」と事あるごとに口にしているのを聞いて頷いてはいたが、それでは自分も、と言う気にはならなかったのだ。さぞかし冷たい目で彼らを見ていたのかも知れない。だからであろうか、私に相談してきたり、他の人には言えないと、気持ちを明かしてくれる友達が多かった。
 話を聞いてもピンと来なかった。女性に対してその気がないのだからそれも仕方のないことで、ただ相談事を聞いてあげるだけだった。意外と未成年の恋愛相談などそれくらいがいいのかも知れない。多感な年齢ということもあり、もし話を聞いていて、相談を受けた方もその気になって聞き入ってしまって、いつの間にか「恋のライバル」になっていたなどということもありうるからだ。どんなことにも好奇心旺盛なその時代、後から考えればそんな気持ちも頷ける。
「お前は話しやすいよ」
「聞いてくれるだけで気持ちが落ち着くんだ」
 というのが相談者の共通した意見のようだ。
 しかし、私はどうだろう?
 私にしてみれば、確かに相談を受けて、皆から信頼されているのが分かると、これほど嬉しいことはない。だが、その信頼が強ければ強いほど、
――裏切ってはいけない――
 という思いが次第に膨らんでいくのだ。
 そのことにより私の性格は作られていったのかも知れない。
「冷静沈着でクールな男」
 イメージとしては悪くない。ある意味憧れていたイメージだからだ。
 しかし、
――思ったより辛いものだ――
 と感じたのも事実で、内心は複雑だった。
 しかし所詮は作られた性格、自分の本当の性格が分かっていない中学生の頃というと、友達と本音で話したり、馬鹿が言える友達を作ったりして、何とか自分の性格を知ろうとする頃なのに、作られた性格に縛られて、それどころではなかった。期待を裏切るわけにはいかないからだ。
 果たしてそんな私の気持ちを分かってくれる人がまわりにいたであろうか? いなかったに違いない。もし、いたとしても、私の表の性格に惑わされて、その奥まで分からないに違いない。きっと話をすれば夜を徹してでも意見を戦わせるくらいの仲になっていたことだろう。
 それでは異性に対しての興味が出てくるのも遅いというものだ。
――誰かそばにいて欲しい――
 これが異性を意識し始めた最初だった。これだけは、ハッキリと覚えている。
 まわりから作られた性格で「寂しい」などと思うことは、禁止されているとまで思っていたくらいだ。なるべく自分を悟られまいという気持ちが働くのだろうが、それも無意識によるものだった。
 そして、
――私にとって、本当に好きな相手が現れたとすれば、それはきっと素敵な女性なのだろう――
 とまで思っていた。もちろん勝手な思い込みであったが、その女性が今の自分の呪縛を取り除いてくれるであろうことを密かに期待しているのかも知れない。
 私が高校に入学すると、ガールフレンドはできた。見るからに純情そうな女の子で、話をしても当たり障りのない受け答えがサラッとしていて嫌みがない。しかしそれだけに性格がつかみにくく、却って気を遣っていたのかも知れない。
 何回かデートを重ねた。最初に手を握るまでに何回デートを重ねたことだろう? 彼女の震える手を握った時に感じた暖かさ、今でも手の平に感触が残っている。汗が次第に滲んできて、お互いにぐっしょりと濡れていたに違いない。
 純情で奥手だけれど、考え方はしっかりしていた。将来のことも考えていたし、私のように漠然とした高校生活を送っているわけではなかった。彼女の影響をかなり受けたかも知れない。それは彼女に恥ずかしくないようにしたいという気持ちの表れであり、イコール恋だと思っていたのだ。
 本を読み出したのもその頃からだろうか? それまでは文章を読むのが鬱陶しく、いち早く結論が見れないと我慢できないタイプだった。国語のテストが苦手だったのもその現われであり、読解力のなさから国語の成績は最悪だった。
 しかしひとたび本を読み出すと不思議なもので病みつきになった。ミステリーのように読み込むうちに謎解きが行われるようなものを最初に読んだのが功を奏したのかも知れない。
――心に余裕があるからだ――
 と本を読めるようになったことへの自己分析ができたのは、それからしばらくしてからだった。自己分析ができるその頃には間違いなく自分でも心に余裕があることを自覚していたはずである。
 付き合っていた彼女とはそれほど長くは続かなかった。一言で言えば「性格の不一致」なのだろうが、盲目になりかけていた私にその判断は無理だった。元々徐々に人を好きになる方なので、実際に気持ちを比べてみると「すれ違い」が多いのかも知れない。一気に燃え上がってしまう女の子であれば、私との気持ちの昂ぶりという意味での接点は、あまりないだろう。
 しかし皮肉なことにその時の彼女がいたおかげで、私は自分の性格について知ることができたような気がする。常に物事を考えていて、何をする時でも自分と照らし合わせることができる「目」を持った女性であった。私もそうなりたいものだと思っていると、自然に彼女と同じ行動を取っていたような気がする。ある意味「似た者同士」だったのかも知れない。
――だからなのかな?
作品名:短編集16(過去作品) 作家名:森本晃次