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短編集16(過去作品)

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 だが、本当にそうだろうか?
 鏡に写る自分しか見れないように、自分のことが一番分からないものではないだろうか? と思うことがある。
 時々、自分でも考えられないことをしてしまうこともあるくらいで、
――なぜこんなことをしているのだろう?
 と思い直すこともある。
 まったく意識がないのだが、きっと他のことを考えていて、自分の行動がわからなかったんだと思う……。思うことにしている。
 それでないと説明のつかないことが往々にしてあるもので、考え事の多い自分を再認識してしまっている。
 何かを考えているのだが、しばらくしてからやっと、自分が何かを考えていることに気付くものだ。以前の楽しかったことを思い出していることだったり、勝手にデートを創作してみたり、あるいは、算数の問題を解いているといった、まったく自分でも信じられないようなことを思い浮かべていることもあるくらいだ。
 絶えず考え事をしているという性格は、子供の頃から意識があった。
 他の人にはなく、自分だけの特殊なものだという考えがあったため、誰にも話さなかったが、最近、
――本当に自分だけなんだろうか?
 と疑問を持つこともある。
 考え事をしているとまわりが見えなくなる。これは私だけではないだろう。実際に、友達の間やドラマでよく見る光景でもある。
「おい、何、考え事してるんだよ」
 といわれて驚いて振り返る。そんな時のその人は、不思議と皆同じ表情をしている気がする。鏡を見ると、きっと私も同じような表情をしていることだろう。
 私の場合の考え事とは、小学生の頃は、算数が多かった。
 きちんと整理され、等間隔に並んだ数字をいろいろなパターンから考え、それを公式のように探し当てるのが楽しみだった。算数のように、答えが決まっているが、その解き方は自由な学問は私の性に合っているのかも知れない。
 しかし、それも中学に入り数学を勉強するようになって変わった。
 自分が今まで公式だと思って捜し求めてきたことはすべて数学の公式として確立されたものだったのだ。
 考えてみれば規則正しく並んでいるものだから、いくら解き方がいろいろあるとはいえ、その一番簡単で合理的な解き方は一つであり、それはすでにパイオニアがあってしかるべきである。しかも数学とは、公式に当てはめてすべてを解き明かす学問、そこに創造性はなかった。
 そう、数学は合理的な学問と言えるだろう。そして、私はその合理的な考え方があまり好きではない。どこかひねくれているのか、創造性がないと気に入らないのだ。
 これも私の「損な性格」なのかも知れない。中学に入り、急に勉強が嫌いになったのは、ついていけなくなったということよりも、算数が数学に変わったことが大きかったのかも知れない。
 また私は変なところに正義感がある。
 例えば、駅の喫煙所以外でタバコを吸っている人を見ると許せなくなり、一言言わないと気がすまないタイプだったりする。しかも駅員が見て見ぬふりをするのも許せない。普通にルールを守って喫煙している人まで偏見な目で見てしまう自分に気付いて、
――まずい――
 と思ってしまうのだ。
 携帯電話の使用についてもそうだ。実に不愉快だ。気がつけば睨みつけていたりすることもあるくらいである。
 時々気まずい雰囲気になったりするが、
――これが自分の性格なのだ――
 と思うことで、今ひとつ割り切れない自分の気持ちを落ち着かせようとしている。
 就職してしばらくは忙しいこともあってか、弥生と疎遠になってしまった。
 覚えること、対人関係など、いろいろあって、それどころではないのだ。就職というものがこれほど大変だとは、ある意味思わなかった。
 大学時代、就職について漠然とした不安を持っていた。それはかなり大きなものだったに違いないが、所詮想像だけのもの、実際に体験することとはかなり違う。
 それは感じる時間というものと似ているかも知れない。
 例えば、学校での午前九時から午後四時まで、びっしりと授業が詰まっていたとしよう。
その時に感じる時間と、休みの時に授業を受けている自分を省みる時に感じる時間とでは、ある意味時間に対する感覚が違っている。
 学校にいる時は、バタバタとしていて、気がつけば時間が過ぎている。しかし、漠然と過ごす時間というのは長く感じられ、果たして講義で使っている時間を想像するにあたって、実際に受けている時とでは、かなり違ってくるものなのだろうか?
――想像はあくまで想像でしかないのだ――
 きっとそう感じるからなのであろう。
 就職してから感じる時間は、まさしくあっという間だった。
 それはあくまで一日単位ということである。
――気がつけば、日が暮れていた――
 そんな気持ちを毎日のように味わっていれば、ある意味、疲れを感じることもない。
 しかし不思議なもので、最初の一ヶ月はかなり長く感じられた。というものの、まだ研修期間ということで、仕事があるわけでもないのだが、ただ覚えることが多い。
 今までとまったく違う世界、特に何も分からない新人という立場は、まわりの目を必要以上に気にしてしまう。
 そんな中、上司に優しい言葉など掛けられると感激してしまうもので、直属の課長からよく食事に誘われたりもしたものだ。
「水谷くんは、実に真面目な性格のようだね。あまり最初から張り詰めているとパンクしちゃうよ」
 有難い先輩のお言葉である。しかしそうは言われても、性格的に中途半端が苦手な私は、張り詰めていないと、たぶん、潰れているかも知れない。
 一時でも気を抜くと楽なのかも知れないが、そのまま、絵に戻らなかったら、ということをどうしても考えてしまう。やることがあれば一気にやってしまわなければ気がすまないのも私の性格である。
 中途半端が苦手な性格というのは、とかく損をしがちである。一生懸命にしていることが空回りしていても、普通ならすぐ気付くであろうことが気付かずに過ぎてしまう。そんな経験が今までに何度あったであろう。しかし、そう簡単に性格を変えられるものではない。
――確かに先輩の言うとおりなんだな――
 今さらながらに感じてしまう。
 そういえば大学時代、よく裕也とそんな話をしたものだ。
「お前の性格だときついよな」
「そうなんだけどね、こればっかりはなかなか治らないしね」
 そう言って苦笑いをしていた。
「君の性格だと、大したことないことまで大げさに考えてしまって、結構尾を引いてしまうんじゃないか?」
「そうなんだ。どうしても考え込んでしまって、一旦落ち込んだら立ち直るまでに時間が掛かってしまう」
 時間だけではない。精神的には時間以上のきつさを感じていることだろう。
「中途半端なところで妥協しないから、考えがどうしても袋小路に入ってしまうんだろうな」
「気がついたら、また同じことを考えていたりするからね。何とかしたいんだけど……」
「うまく付き合っていくしかないのかも知れないね」
 他人事とはいえ、私にはショックだった。何しろ、君の性格は直らないと烙印を押されたようなものである。
「だけど、そんな君の気持ちは何となく分かるんだ」
 裕也は続けた。
作品名:短編集16(過去作品) 作家名:森本晃次