氷柱(つらら)
それまでは酒に飲まれる事など無かったのだが、二年になろうというのに、どんなに売上を上げても私を本社に呼び戻す気配は全くと言って良いほど無かった。
そんな焦りも有ったのだろう。自分のペースを乱した私は一人でフラフラと帰った積りだったが、いつの間にか心配そうに付いて来た須藤恭子と朝までベッドを共にしてしまったのである。
須藤恭子は二十人程の営業所に五人いるOLの中で須藤恭子は一番若く、容姿も優れていた。
入社して日も浅かったせいか、私が本社から回されてきた意味が良く分からなかったのだろう。
もしかすると殆どが地元か近在の出身者で固められた営業所の中で私が違って見えたのかも知れない。
何れにしても、遠慮がちに話し掛ける他の者達と違って、須藤恭子は始めから私に気軽に話し掛けて来た。
ベッドに倒れこむ前に自分のしている事にははっきりと気付いていたが、自暴自棄気味になっていた事もあり、もはや止める事など出来なかったのだ。
のめり込んで行く中にも、開く事の無いホテルの窓にイルミネーションの低級な明りが映り込み、クリスマス・シーズンのせいか、どこからか微かに鈴の音が聞こえていたのを何故か鮮明に憶えている。
「いやぁ、安達さんに来て頂いてから着実に売上が伸びてますよ。本当に助かります」支店長が話し掛けているのに私は暫らく気付かなかった。
「貴方の仕事のやり方をノートにつけとりましてね、その内にマニュアルでも作って皆に勉強させようか等と思っておるのですわ」
「そうですか、お役に立てるのでしたら良かった。協力できる事があれば何でも言って下さい」私は心にも無い返事をして自分のパソコンの資料を熱心に覗き込む振りをした。