氷柱(つらら)
電子レンジが空々しい声音で加熱が終わった事を知らせる。
酒を熱燗にする為に長めに回すので、半端に暖まった部屋でも弁当は蓋を取ると大袈裟な湯気を立てた。
弁当のおかずを肴に酒を飲む。
飯は大抵漬物だけで掻き込む事になる。
私は酒の入った熱い湯飲みを持ちながら会社での事を想い出していた。
「主任、この資料はどちらにお届けすれば宜しかったでしょうか」
若いOLの須藤恭子が私の目の前に資料を差し出した。
隣の席の支店長がチラリと私の方を見る。
社内の資格では私の方が上だったが、会社は支店長の座を用意はしてくれなかった。
「うん、これは農協の佐野樣に頼まれたものだ。殆どウチから買って頂くことで合意は出来ているんだけど、一応比較したという証拠が必要なのだそうでね」
「はい、わかりました」資料を引き取って振り返る瞬間、須藤恭子は燃えるような瞳を私に投げかけてきた。
私は内心ドキリとしながらも、何気ない風を装い、数秒を数えてから支店長の方へ視線を向けた。
支店長は私と目が合うと目に愛想笑いを浮かべて自分の目の前のパソコンに向った。
この如何にも鈍重そうな男は案外細かいところも有って、私と須藤恭子の事について何かを感付いているのかもしれない。
だが実際は何も有りはしないのだ。須藤恭子とはモノの弾みで一度だけ関係を持っただけなのである。
数週間前に行われた、左遷されて二度目の忘年会で私はしたたかに酔ってしまった。