氷柱(つらら)
マニュアルで仕事が出来るなら、とっくに誰かが作って配布しているさ、と私は心の中で呟いた。
コンビニの客ならそれでも受け入れるかも知れないが、同じモノを売っても客先毎に売り方は変える。
私はいつでもそうしてきたはずだ。
だが、いつの間にか客を幾つかのパターンに嵌め込んで、マニュアルどおりの仕事をしてきたのかも知れない。
それがあの二年前の失敗を生んだのではないだろうか。
家族への接し方もいつからか傲慢になっていたのかも知れない。
いつのまにか昼間と同じ思考の螺旋に落ちていた。
私は残った酒を煽るとそのまま熱いシャワーを浴びる。
その後はヒーターを止めて直ぐに布団に潜り込むのだ。
再び部屋が冷えて、布団から出ている顔などが痛いほどに冷たくなる前に眠ってしまえるだろう。
翌朝、出掛ける時に私は自分の部屋の窓を見上げる。
他の部屋に比べて私の部屋のつららだけが極端に短いのが判るのである。
私は最近気がついた。
どうやら暖かい家庭とつららには正比例の関係が有るようだ。
冷え切った部屋の軒には雪が解けた雫などは殆ど無く、従って長いつららも出来はしない。
申し訳程度にギザギザを見せるのみである。
そしてそれは今の私に相応しいものだと、駅に向って歩きながら私は考えるのだ。
おわり