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永遠を繋ぐ

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 本当は逃げ出したいにも関わらず、内に籠ってしまうことで、余計に異様な世界を自分たちが形成しているということに気づかない。事実を直視しながらも、真実からは遠ざかっていたのだ。
 同じ日を繰り返しているという予感は、実は繰り返す前から予知としてあった。
 しかし、予知は夢の中にしか存在しないと思っていたため、すべてを夢だと思い込んだ。夢というものを思い込みとして判断してしまうと、主人公は夢の世界と現実の世界の境目が、いつの間にか分からなくなっていた。
 主人公は、自分が同じ日を繰り返しているという事実を受け入れるまでに、数回の同じ日を繰り返すことになった。その中の一人に、自分と同じように同じ日を繰り返している人を見つけたことで、やっと自分の置かれている立場を受け入れることができた。
 主人公は、別に不思議な力を信じていないわけでもなければ、現実主義者でもない。むしろ、不思議な力に興味を持っている方なのだが、まさか自分の身に降りかかってくることになろうとは、思ってもみなかった。
 確かに不思議な世界の存在は否定できないとは思っていたが、それを証明さえできれば満足だった。本人としても、不思議な世界の存在を認めてはいても、自分の頭の中だけで納得がいけばそれで満足だったのだ。
 下手にかかわって、自分が創造した世界に入り込むことは本意ではない。それなのに、不思議な世界に入り込んでしまった自分を、どのように感じればいいのだろう?
 まずは苦笑いせずにはいられなかった。
 その次に感じたのは、この世界がウソであるという感覚。そして、架空の世界として頭に描いたものは、夢だった。
 普段なら、悪い夢として片づけられるようなことでも、その時は簡単には片づけることができない。
「少しでも信じてはいけないだ」
 という思いを固く持たなければいけないと思った。
 そうでなければ、信じてはいけないことを、信じないわけにいかない立場に陥った自分を呪うしかないからだ。
 元々主人公は、何事も信じてしまいやすい。それを藤崎は、
――暗示にかかりやすい両極端な性格――
 の人間だと比喩していた。
 だが、現実世界では暗示にかかりやすい男だが、不思議な世界では、暗示にかかりやすいという自分の性格を知っているので、逆に、
「何事も安易に信じてはいけない」
 と思うようになっていた。藤崎が創造した世界では、
「現実世界と、不思議な世界とでは、まったく正反対の人間が存在している鏡のような世界だ」
 と言えるのではないだろうか。
 藤崎が小説の中で不思議な世界を創造できたのは、自分が創造する不思議な世界の住人になれる人を、実際に知っているからだった。要するにこの話の主人公にはモデルが存在するのだ。
 藤崎はフィクションを書いているつもりでも、必ずそこには自分の経験であったり、モデルになる人物が存在していたりする。きっかけは存在しているものであっても、描く世界は自分が新しく創造したものだ。藤崎がフィクションにこだわるのは、心のどこかに創造する世界の原点が、この世に存在していることに対して過剰な意識を持っているからだった。
 そして藤崎は小説を書く中で、
「木を隠すなら森の中」
 あるいは、
「一つのウソを隠す時は、九十九の本当のことの中に隠せばいい」
 というような発想をすることが多い。
 つまりは、目の前にいても、気配を消しながらその人のそばにいるという考え方で、不思議な世界を読者に納得させようという試みがあった。
 藤崎は、「路傍の石」と比較して考える。
 パッと見は、同じようなものに感じるが、まったく自然体の「路傍の石」に比べて、前者には明らかに作為が感じられる。だから、藤崎が前者のような登場人物を描く時には、必ず「路傍の石」に匹敵するような誰かを、比較対象として登場させている。
 前者には主人公を当て嵌め、「路傍の石」を彷彿させる相手を女性として登場させ、その人のイメージを、ガラス越しに目が合った彼女に置き換えてみた。
 すると見えてきたのは、主人公の雰囲気や性格が、自分自身に当て嵌められるのではないかという発想だった。主人公は最初から自分をイメージして描いたものではなく、比較対象として描かれた女性から見た男性という視線で描いていくのだった。
 小説の中で主人公は同じ日を繰り返していることを、なるべく誰にも悟られたくないと思っていた。
 もちろん、自分が同じ日を繰り返しているのだから、同じようにこの世界に存在している人の中には、同じようにリピートしている人がいてしかるべきだと思っていた。それでもなるべく悟られないようにしたのは、不思議な世界に迷い込んでしまった自分を、なるべくまわりに意識させないようにしないといけないと感じたからだ。
 そんな中、気配をなるべく消そうとしている女性がいることに藤崎は気が付いた。
 いつもであれば、「路傍の石」の術中に嵌ってしまい、消された気配に気づくことなくスルーしてしまっていたであろう。
 また「路傍の石」は、気配だけではなく、自分にかかわった時間を消してしまう効力があるようだ。
「何かに熱中していると、あっという間に時間が過ぎる」
 という発想に似たものがあったのだ。
「タイムマシンは、本人の意識することのない時間の経過を促すものだ」
 と聞いたことがある。
 時間を飛び越えているのに、本人にはまったくそんな意識はない。そんなに高度な意識を夢の中でどれほど意識できるかが、藤崎の創造する世界では重要だった。
「自分にないものを持っている人に対しては、敬意を表する」
 それがどんな内容であっても、敬意を表するところから始まる。
 藤崎の小説もそこから始まっていた。
 藤崎は、その女性に自分にない何かを見つけた。それが何であるか、すぐには分からなかったが、分かった時には、このお話は終わっていることになる。
 ただ、見つめれば見つめるほど、自分との共通点しか見つからない。
――俺は、彼女との共通点にばかり目が行っているのではないか?
 と感じた。
 本当は自分にないものを探しているにも関わらず、共通点を見つけようとする。
 それは、自分が気になっている相手は、自分にないものを見つけるよりも、先に共通点を見つけようとする。理由はその方が楽だからである。
 だが、彼女に対しても最初に共通点を見つけようとしていたのだが、理由は違っていた。
「その方が楽だからだ」
 などという理由で、自分が納得いくわけはない。
 その時に感じたのが、お互いに「孤独」だということだった。しかし、そのことが分かると、まるで堰を切ったかのようにまわりの人との共通点が分かってくる気がした。
「孤独」という一言ですべてをまかなえるとは言わないが、自分が孤独を感じることで、まわりが近寄ってくれるように感じたからだ。
 藤崎は小説を書きながら、
――自分も何かを繰り返しているのではないか?
 ふと、「リピート」という言葉が頭をよぎったが、それは小説の中の「リピート」と、本当に同じだっただろうか?

第三章 脱出
作品名:永遠を繋ぐ 作家名:森本晃次