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永遠を繋ぐ

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――予知できているかも知れない――
 と感じた時点で、それは夢の世界であることは確定している。
 予知できていると感じたのは、夢から覚めてからのことだろう。
――夢の中でのことは、忘れてしまっている――
 という意識があるから、夢の内容は記憶として残っている。似たようなことが現実で起これば、曖昧な夢の中での記憶がその時呼び起こされて、
――以前に感じたことがある――
 と感じるのだ。
 だから、その意識の曖昧さから、自分の中に予知能力が備わっているという意識を持つことで、意識と記憶の辻褄を合わせようとしていたに違いない。
 藤崎がSFやミステリーの発想を思い浮かべるのも、夢の記憶を引き出そうとして、
――辻褄合わせ――
 をしようとしているのかも知れない。
 自分の中で辻褄が合って、そして新たな発想として浮かんできたものであれば、それは夢の記憶だけではなく、現実の世界で実際にあったこととが相まって、一つの物語を形成していく。それが小説家として一番感無量に感じるところではないだろうか。
 藤崎は、小説を書きながら、
――ノンフィクションは嫌だ――
 と思うようになっていた。
 しかし、発想を重ねれば重ねるほど、一定の範囲から表に出てこないのは分かっていた。それを、
――発想の限界だ――
 と思っていたが、実はそうではない。自分の経験をフィクションとして新たな発想へと結び付けようとしていることで、
――超えることのない限界。つまりは、結界に似たもの――
 を感じていた。
 その時の藤崎は、日傘を差しているその女性に、懐かしさを感じながら、さらに予知が働いている予感があった。何の辻褄を合わせようとしていたのだろうか?
 その時に浮かんできた小説は、自分でも自信作だったが、あまり売れることはなかった。
「やはり、自分が先読みしすぎたのかな?」
 つまりは、時代にそぐわない小説で、未来になら受け入れられるものではないかと感じたのだ。
 今ならその小説が売れるとは最初から思っていない。逆に、今はもっと売れないかも知れない。SF小説や奇妙な内容の小説というのは、売れる時期があるのだと思っている。つまり、
――一定周期で、売れる時期がやってくる――
 という考えだった。
 藤崎の小説のテーマが「リピート」だったというのも皮肉だろうか?
 そして、藤崎が「リピート」の存在を感じるその理由として、
――辻褄合わせ――
 が微妙な影響を与えていると思っている。
 彼は小説でそのことを定義したつもりだったが、どれだけの人が定義をテーマとして受け取ってくれるだろう。
――俺は、自分の小説に酔っていたのかも知れないな――
 小説を書くことは、自分に自信を持たなければできないことだと思っている。それは小説の内容に自信を持つことでもあるし、書いている自分自身に自信を持つ必要がある。
 藤崎は、子供の頃から自信過剰なところがあった。そのくせ、一旦持つことのできた自信を失うと、その自信を取り戻すために、かなりの時間を要していた。
 その時、すぐに諦めてしまわなかったのは、自信を完全に失うまでに時間は掛かったが、一気に失う自信ではなかったので、一番ショックが少なかったのだ。
 時間が掛かった理由を、
「自信を失う時にも、リピートの発想があり、一度失いかけた自信を再度取り戻しながら、迷走を続けていたからだ」
 と感じていた。
 時間的には、かなりかかったが、その分、失った自信を取り戻すまでには、さほど時間は掛からなかった。自信を失うまでの時間の辻褄を、合わせていたのだろう。
 藤崎には、
「自分は他の人よりもかなり劣っている」
 という思いを絶えず持っていた。
「自分にできることなら、他の人は皆できるに違いない」
 という思いだった。
 それは自信を失いかけた時に、リピートしながら、少しずつでも自信を取り戻そうという無意識の意識に繋がっていた。
 そんな自分を、
――二重人格だ――
 と感じたことが何度もあった。
 藤崎が、最初にリピートの発想に繋がる小説を書いたのがその時だった。
 それ以降は、リピートという発想が頭の中にありながら、メインテーマとして描くことができなかった。
――やっぱり、今までの自分にとっての最高傑作は、最初にリピートについて書いたあの小説だったのではないか?
 と思えた。
 これからも、リピートの発想を元にして、新しい小説を書いていこうという意識はあるのだが、逆に、
――あの時の作品は自分にとっての最高傑作であり、今後どんなに新しい発想の「リピート」を書こうとも、あれ以上の傑作を書くことはできないだろう――
 と感じていた。
――最初に書いた小説に叶うものはない――
 どんなに新しい発想を組み込もうとも、一番の傑作は、最初に著した作品に違いない。どんなに新しい発想を持とうとも、すべては最初に書いた小説のバリエーションの一つでしかなく、二番煎じになってしまうと思うのだった。
 藤崎は、その時の小説が書けたのは、喫茶店でガラス越しに目が合った日傘を差した女性のおかげだと思っている。彼女に対して、言葉では言い表せないような感謝の気持ちでいっぱいだった。しかし、彼女に雰囲気が似ている女性はいるにはいるが、彼女を彷彿させるような強烈な個性を持った女性は現れないだろう。
 そう思っていたが、実際には意外と身近にいるもので、
――そういえば、彼女を見た時、どこかで見たことがあると思っていたんだ――
 と、感じた相手、それがスナック「コスモス」のママだった。
 だが、ママと知り合ったのは、ガラス越しに女性を見た時から、何年も経ってからのことだったのに、それほど遠い感じがしなかった。
 しかも、ママとは長い付き合いであるにも関わらず、知り合ってから間もないようにも思えた。それだけ新鮮さを失っていないということなのかも知れないが、考えてみれば、時間がそんなに経っていないと感じる思いも、新鮮さを失っていないという思いも、どちらも「リピート」と繋ぎ合わせて考えれば、理解できるようだった。
 そういう意味では、「リピート」というのは、何にでも当て嵌めて考えることのできるもののようにも思える。「リピート」を、頭の中での万能思考と考えるのは突飛な考えであろうか?
 藤崎は、その時の小説の内容を、すっかり忘れてしまっていたが、今でも何度も読み返すことが多い。
――俺の小説の原点は、ここにあるんだ――
 ずっとそう思ってきた。
 その小説の主人公は、リピートを繰り返していることを、すぐに直視することができなかった。
「悪い夢を見ているんだ」
 と感じていたが、実際には藤崎の作り上げた小説の中のリピートは、主人公だけではなかったのだ。
 毎日を同じように繰り返している人はたくさんいて、彼らも自分だけが同じ日を繰り返していると思っているので、何とも臆病な雰囲気を皆が醸し出しているため、誰もがまわりを探っているような異様な世界を作り上げていた。
 彼らは感情を剥き出しにできないかわりに、自分の考えを覆い隠そうとする。本当は誰かに聞いてほしいと思っていることも、人に言えずに、自分の中に籠る世界を形成していた。
作品名:永遠を繋ぐ 作家名:森本晃次