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永遠を繋ぐ

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 しかし、日向を見ていると、自分も冷静になれるような気がした。根拠はないが、もし興奮していたとしても、どこかのタイミングで急に冷めてしまう瞬間があるような気がする。それは日向や自分だけにではなく、他の人皆にである。しかし、それに気づくか気づかないかで、その人の運命は変わる。そんな風に感じた。
 藤崎は、話をしているうちに、まるで自分もリピートしていたような思いが湧き上がってくるのを感じた。それは忘れてしまった夢を思い出すかのようで、日向が自分の意識の中に入り込み、自分の記憶を藤崎の記憶に落とし込み、まるで最初から自分の記憶だったかのように藤崎に感じさせるすべのようなものを持っているように思えた。
 藤崎は、本当に自分が同じ毎日を繰り返す「リピート」を経験したような意識はあったが、それがいつのことだったのか、ハッキリとはしない。
――ひょっとすると、リピートをただの夢としてしか感じていなかったのかも知れない――
 もし、そうであれば、考えられることは二つ。
 リピートを本当に信じられないこととして意識しているからなのか、逆に日常茶飯事のこととして、まるで路傍の石のように目の前に見えているのに、慣れからなのか、意識するための感覚がマヒしていたのかのどちらかではないだろうか?
 そのどちらもまったく正反対に思えるが、突き詰めると、同じ発想から出ているのではないかと思えた。
――結局、リピートを意識していることには違いない。信憑性のないこととして否定したい気持ちが強いのか、その逆で、感覚をマヒさせてしまわないと、考え続けることで、迷走してしまう自分が恐ろしくなったからだろうか――
 藤崎が意識を「リピート」と名付けたわけではない。学生時代に何かの本を読んで、そこに書かれていた「リピート」という言葉に魅せられたからだった。
 魅せられたはずの小説を覚えていないわけではないが、小説家を目指すようになった藤崎にとって、小説のストーリーを考えている時、絶対に意識してしまうのが、この「リピート」という発想だった。
 藤崎がリピートを意識し始めたのは、小学生の頃の夢が原因だったが、その夢も、自分が同じ日を繰り返しているのではないかという普段の意識があったわけではない。
「ひょっとすると、テレビで見たことが頭の中で引っかかっていて、リピートという自分の元からあったかも知れない発想と合わせて考えていたのかも知れないな」
 と思っている。
 藤崎は子供の頃の記憶として、誰か大人の人からリピートに近い話を聞かされたような気がしていた。自分が考えるリピートとは少し違っていたと思う。もし一緒だったら、子供の頃の記憶が曖昧なこともないと思うからだ。
 自分の発想と、聞かされた発想にギャップがあったことで、記憶の奥にはしまいこまれたが、どうしても曖昧になってしまったのだろう。逆にもし同じような発想であったならば、最初に意識させられて、夢に見ることもなかっただろう。夢に見たのは自分の中で曖昧な記憶を意識しようとした結果だと思ったからだ。
 最初にリピートの話をしてくれた人は女の子で、普段からおかしなことを口にしていたので、同性からもあまり相手にされていなかったようだ。いつも一人でいるような女の子で、そのことが却って藤崎の目を引いたのだった。
 最初に声を掛けたのは藤崎だった。
 それまで、女の子に自分から声を掛けるなど考えたこともなかった。今から思えば声を掛けるまでの彼女を女の子として意識していなかったのかも知れない。藤崎は、女の子らしい素振りをしてくれる子でなければ、女の子として見ないようにしていた。もちろん無意識にではあるが、視線を逸らしていたのだ。
 だから、いつも一人で寂しそうにしている彼女を女の子として見ていなかったのかも知れない。だが、寂しそうな素振りが、どこか気になっていた。
「一声掛ければ、僕になびいてくれるかも知れない」
 という下心がなかったと言えばウソになるだろう。
 どのように声を掛けたのか覚えていない。しかし、その時の彼女の表情が、怯えに満ちていたのを覚えている。ずぶ濡れのノラ猫が迷い込んできた時のようなイメージだったが、相手が人間で、しかも女の子だと思うと、いとおしさが込み上がってきたのだった。
「私、どうやら年を取らないようなの」
 いきなりおかしなことを口にしていた。
「どういうことなんだい?」
「私は、毎日を繰り返しているのよ。今日が終われば、また今日が始まる。だから、あなたが明日の私に会ったとすれば、それは私であって私じゃないの」
 これが、彼女のリピートの発想であった。
 しかし、それが彼女が年を取らないということに対しての答えではなかった。
「じゃあ、今の僕が会っている君は、本当に今の君なの?」
 藤崎は、何をどう質問していいのか分からなかったのだが、思わずこの言葉が口から出ていたのだ。
「ええ、本当に今の私。でも、あなたをはじめ、他の人は皆、明日という扉を開いて向こうに行ってしまうの、でも、この世界にもあなたがいることに間違いない。でも、明日会うあなたと、本当に今のお話をしているかどうか、私にも分からないの」
「どういうことなんだい? 同じ日を繰り返しているのであれば、君にとっては、二十四時間前のことでしょう? それを分からないというのはどういうことなんだろうね?」
「私は確かに二十四時間前もあなたに出会った。そして二十四時間先にもあなたと出会うと思うんです。でも、同じ日であっても、今から先のことであることには違いない。私には、未来のことなので、分からないのよ」
「じゃあ、君は同じ日を繰り返しているということに、疑問を感じていると思っていいんだね?」
「そうね、確かに信じていないのかも知れないわね。でも、これが運命だとするなら、信じないわけにはいかないでしょう?」
 彼女はそう言って考えていた。
 彼女の話を聞いていると、同じ日を繰り返していても、今が現在だとすれば二十四時間前は過去で、二十四時間後は未来であることには変わりない。だから、先のことは分からないということなのだろう。
「同じ日を繰り返していて、昨日や明日という意識はあるのかい?」
「ええ、あるわ。ずっと繰り返しているだけのことで、気持ちは翌日になったと思っているの。でも、すぐに同じ日だと思い知らされて、最初はショックだったけど、今は慣れてきたわ」
 と言って、その顔は落胆に溢れていた。
「君にとっての昨日の僕はどんな僕だったんだろう?」やっぱり、僕はこうやって話しかけたのかい?」
「いえ、あなたが話しかけてきたのは今が最初だったの。二十四時間前にも、四十八時間前にもなかったことだわ。でも、同じ日を繰り返しているといっても、本当にまったく同じことを繰り返しているわけではないのよ。少しずつ微妙に違っていることも結構あって、今の私は何を信じていいのか分からなくなっているの」
 話を聞いているうちに、藤崎も彼女の話に信憑性を感じるようになっていた。これと似たような話を以前に聞いたことがあったからだ。
――いや、本当に以前だったのだろうか?
作品名:永遠を繋ぐ 作家名:森本晃次