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永遠を繋ぐ

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 その掟があるために、死んだ時は平凡なこの世を過ごしてきたのに、最終的には地獄へ落ちるという人もいる。要するに、あの世とこの世を結ぶ世界で一番の罪悪というのは、優柔不断な人物だということになるのだった。
 ただ、生まれ変わった後は、前世の記憶も、あの世とこの世の間の記憶もまったくない状態なのだ。もちろん、地獄に落ちてしまった人には生まれ変わる資格はない。生まれ変われるのは、平凡なこの世を生きてきて、そのまま平凡に生まれ変わることを選択することができる立場の人以上である。
 しかし、実際には、天国に行った人が生まれ変わることはない。
「せっかく天国に行けたのに、いまさらこの世で人生をやり直す気にはならないわ」
 天国というところは、実は天国に行った人のために用意された空間だったのだ。
 生き返ること以外なら、何でも叶ってしまう。
 ただし、悪いことを考えてしまうと、天国にはいられなくなるので、余計なことは考えない。
 天国に来た人というのは、この世でも聖人君子のようなふるまいで、収容所でも、まったく変わらない性格だった人、そして、普通の収容所から昇格してやってきた人の二パターンだけなのだが、そんな人は、いまさらこの世に生を受けようなどと思わないだろう。
 何しろ、この世でできなかったことをやるには最高の場所である。環境は整っているのだ。
 もっとも、この世で自分のやりたいことを目指しているという姿が美しいのであって、目標を達成できるかどうかは二の次だった。しかし。天国では、目標を達成するための障害は何もない。何といっても、その人のためにわざわざ作られた空間なのだから……。
 天国に来るような人は、そんな環境でも胡坐をかくことはない。この世と同じようなふるまいをするだろう。それも、天国を作った神様はすべてお見通しだった。
 しかし、天国に行った人の中には、
「この世に戻りたい」
 と思っている人が稀にいる。
 そんな人は、特例でこの世に生まれ変わることができるのだが、この場合は、過去の記憶を持ったまま生まれ変わることができるのだ。
 これも天国の神様がわざとしたことなのだが、当の本人にとって、それがいいことなのか悪いことなのか、人それぞれで違っているだろう。
「おっと、途中から自分の願望が入ってしまった」
 藤崎は映画を見ながら、気が付けば別の番組になっていたことに初めて気づいた。途中までまるで自分が映画に出演しているような気になって画面を見ていたが、そのうちに本当に妄想が膨れ上がり、いつの間にか、妄想が自分の中からはみ出してしまっていることに気が付いた。
「もし、そのまま気づかなければ、どうなってしまっただろう?」
 夢の世界と現実との間に挟まれて抜けられなくなってしまったかも知れない。ただ、その発想も、あの世とこの世を結んでいる収容所の発想からのものだった。その時の藤崎は何を考えたとしても、最後にはドラマの世界に入り込んでしまっていたように思えてならなかった。
「そうだ、いったんドラマの中に入り込んで、今、現実に引き戻されたのかも知れないな」
 と感じた。
 藤崎は、今までに何度か、
「俺は前世の記憶があるんだ」
 と言っていた人の話を聞いたことがあった。
 ちょうど、ドラマを見た後のことだったので、印書深かった。直後ではなかったように思うが、それだけドラマの印象が深く自分の頭に残っていたからなのかも知れない。
 いや、ドラマの印象が深く残っていたというよりも、その時の前世という言葉に、違和感を感じたからだった。
――前世というのは、ドラマでいうところの収容所のことなのか、それとも、本当に生きていた世界のことなのだろうか?
 という思いだった。収容所の発想はあくまでもドラマの中の発想であり、現実味を帯びているわけではない。そもそも前世の記憶があるという時点で、どこか胡散臭さも含まれていた。
 そんな中で、
「俺は、もう一度生まれ変われるって死んだ時から感じていたような気がする」
 と言っていた人がいた。
「それって、自分が死ぬというのを分かっていたということかい?」
「ハッキリとは言えないんだけど、確かにこのまま死んでしまうということが自分で分かっていた気がするんだ。でも、その時のシチュエーションがどうしても思い出せない。病気で死んだのか、天寿を全うしての死だったのか、それとも事故だったのか……」
 彼はそう言って、考え込んだ。
 その時藤崎は、もう一つ頭に浮かんでいた。しかし、それを敢えて口にすることはなかった。なぜなら、相手の表情を見ていると、そのことを分かっているかのように感じたからだ。
 その人は自分の両の掌を眺めながら、しみじみ何かを考えていた。
――彼にも分かっているのかも知れないな。もう一つの死ぬ方法、つまりは自殺だということを――
 藤崎は、子供の頃から教えられたこととして、
「自殺は自分を自分で殺すことになるので、殺人と同じ。人を殺せば、その人は地獄に落ちるものなのよ」
 というものだった。
 子供心に、
――もっともなことだ――
 と思い、信じて疑わなかった。
 しかし、前に見た映画の内容として、
――あの世とこの世の間に収容所があって、そこで再度裁かれる――
 という話だった。
 確かに、収容所も、自殺者の置かれているところに送られるに違いなく、自分を殺したということで、そのままであれば、地獄に行ってしまうだろう。しかし、そこで、
「もう一度生まれ変わりたい」
 という強力な意思を持つことができさえすれば、生まれ変わることができるのではないかと藤崎は感じた。
 生まれ変わるということは、人生をやり直すという発想ではなく、
「新しい人生を、他の身体を使って生きることだ」
 と言えるだろう。
 そういう意味では生まれ変わるという発想とでは矛盾が生じてくる。しかし、その間の記憶が抹消されてしまえば、もはや生まれ変わりではなく、新しい人生を生きていくということになるのであろう。
 それなのに、稀に過去の記憶を持ったまま生まれてくる人がいるという。そんな人は、何か見えない力に導かれて生まれてきたのかも知れない。それとも、何か使命を帯びているのであろうか。本人にもちろんそんな意識があるはずもなく、使命が何なのか、
「神のみぞ知る」
 と言ったところであろうか。
 藤崎も、前世の記憶が残っていると話していた人の顔をまじまじと眺めると、
――前にどこかで会ったことがあるような気がする――
 と感じた。
 すぐに気のせいだと思い直したが、納得がいかなかった。その時、藤崎は初めて、
「俺は、永遠の命を繋いでいる人がいるという話を信じられるんだ」
 というところに繋がってきた。
 自分の記憶のようで、どこか違う記憶が混じっているような思いは、実は今よりも子供の頃の方が強かった。
 子供の考えなので、あてになるはずもなく、
――そんなバカなことはないよな――
 と自分に言い聞かせてきたが、やはり納得できない自分がいて、いつも意識の奥の記憶の、さらにその奥の片隅に収納されていたようだ。
作品名:永遠を繋ぐ 作家名:森本晃次