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新しい世界への輪廻

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「まずですね。記憶喪失になったということを自分で意識してから、思い出そうとしても思い出せない状態になると、まず思い出そうという意識にはならないと思うんです。思い出したくない記憶だから思い出せないという思いを抱くんだと思うんですが、それを何も苦しんでまで思い出す必要はないですよね。それを思い出さなければいけないという雰囲気になるというのは、まわりの人が思い出させようとする、ある意味本人の意向を無視した勝手な行動ではないかと思うんです」
「確かにそうかも知れませんね。テレビドラマなどでは、まわりの人が親身になって記憶を失った人に対して、『無理しなくてもいいから、徐々に思い出していきましょうね』なんて言っているのを、親切からだって思って見ていましたけど、考えてみれば、本人の意思がハッキリしていないのをいいことに、思い出すことだけが正解のように思わせるような描き方が多いような気がします。確かにまわりの人は早く記憶を取り戻してくれた方が都合がいいですよね。知っている人が、まったく知らない人になってしまったことで、なまじ知っているだけに付き合わなければいけないという思いが、少なからずまわりの人にはあるのかも知れませんね」
「当然、そこには利害関係が結びついてきていますよね。肉親であっても、友達であっても、恋人であっても、感情以外のところでは利害関係があるわけですから、そう思うと、思い出させることがどれほど酷なことなのかということは、利害関係よりも優先順位からすれば下になるということなんでしょうね」
 それを聞いて私はふっとため息をついて、
「その通りなんでしょうね」
 と、やるせない気分になっていた。
「記憶喪失の人は、もし記憶が戻ったとしても、記憶を失ってからの記憶が消えるということはないような気がするんですよ」
「どうしてですか?」
「せっかく積み重ねた記憶を、わざわざ封印する必要性はないように思うからです」
「必要性の問題ですか?」
「言葉的にどう言っても、冷めた言い方になるのかも知れないですが、そもそも記憶喪失になる原因というのを考えてみるところからだと思うんですよ」
 と言われて、彼が論理立てて話をしてくれるのが分かった。
「原因というと、例えばどこかで頭を打ったり、精神的に思い出したくないものを見たり聞いたりしてしまって、精神的に追い詰められて、思い出したくない思いとして別の世界にその意識を追いやってしまうことなんでしょうね」
「その通りですね。自分の中で耐え難いと思えるような意識が自分で抑えきれなくなった時、意識を思い出したくない記憶として封印してしまうことを選んでしまうことがき多く喪失に繋がったりするんでしょう」
「ドラマなどで結構そういう話があったりしますよね。でも、それでもまわりは思い出させようとしている場面が多いですよね。ドラマの中ではなるべく記憶を失った人が苦しまないように演出しているようですが、実際にはそんなものではないのかも知れませんね」
「人によっては、気が狂ったように暴れたり、モノを投げたりすることもあるんじゃないでしょうか?」
「そんな場面もドラマや映画で見たりすることもありますが、それは、テーマの中にその人の記憶を取り戻させるという優先順位が高い時でしょうね。サスペンスなどで、記憶を取り戻すことが犯人逮捕のきっかけになったりする場合など、記憶が回復した場面を見せることなく、会話の中だけで収めてしまうこともあったりします。なるべく刺激的な場面を視聴者に与えないようにしようという配慮なんでしょうね」
「それはあるでしょうね。それにあまり刺激的なところを描くと、実際に記憶を失っている人からの反発もあるでしょうからね」
「でも、そこまでして思い出したくない記憶を持っていた人が、記憶を失って真っ白になってしまったとすれば、意識としては、まるで今生まれたかのような感覚なのかも知れませんね」
「条件反射や本能的なものは身体が覚えているので、精神的なことだけが、まるで赤ちゃんのような感じだっていうことでしょうか?」
 彼の質問にすぐには答えることができなかったが、少し間をおいて、考えながら話をした。
「赤ちゃんというのは少し違うかも知れません。本当にすべての記憶を失ったのだと私は思っていないんですよ」
「どういうことですか?」
「確かに自分の名前も分からなかったり、自分がどこにいたのかも分からなかったりはしているのかも知れないけど、たとえば、学校で勉強して身についた学力までなくなってしまっているわけではないですよね。自分に関わることがすべて意識から消えているようにまわりからは見えているんでしょうけど、実際には本当に思い出したくない記憶だけが封印されていて、本来であれば、その封印してしまった記憶の一部に、自分の意識をつかさどっていた部分が消えてしまったとすれば、まわりからはすべての記憶がなくなったように見えるんじゃないかって思うんです」
「ということは、あなたは意識というのは、中心をつかさどっている基幹部分があり、そして枝葉として放射状に意識が延びているとお考えなんですか?」
「ええ、その通りです。その向こうには記憶があり、その中に封印された記憶があると思っているんです」
「つまりは、誰もが封印される記憶の置き場を持っているということですか?」
「ええ、そして、皆が意識しているわけではないけども、誰もが一つや二つ、封印している記憶があると思っているんです。だから、人はすぐにいろいろなことを忘れていく。頭の中というのは大きく広がっているようで、すぐに限界が見える狭いスペースではないかと思っています」
 私がそこまでいうと、彼は少し話題を変えてきた。
 いや、話題が変わったというよりも、発展したと言ってもいいだろう。お互いに発想を膨らませていくことは願ったり叶ったりだと思えた。
「超能力というのは誰もが持っているというお話を聞いたことがありますか?」
「ええ、頭の中の一部しか使われていないけど、残りの大部分は、超能力と言われる力を発揮できるスペースだと言われていますよね」
「そう、今あなたが言ったような限界というのは、あくまでも頭の中すべてではなく、一般的な人が使える頭の中の中心部分だけだと言えるのではないでしょうか?」
「確かにそうかも知れません。でも、この限界というのは、私にとって、どうしても外せない発想になっているのも事実なんですよ」
 と私がいうと、彼はそのことに触れずに、
「少し話がそれてしまいましたね」
 と言って、敢えて話を逸らしたような気がした。私もこれ以上触れることはできないので黙っていると、彼がおもむろに話し始めた。
「もし、思い出したくない記憶が戻ってきたとしても、記憶を失った時とは環境も精神的な面でも大きく違っていますよね。だから、ショックは残るかも知れませんが、ゆっくりと療養すれば、すぐに元の生活に戻れます」
「でも、その時の元の生活って、どっちのですか?」
作品名:新しい世界への輪廻 作家名:森本晃次