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新しい世界への輪廻

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――勉強は自分だけがするものではなく、皆が同じ勉強をする。そして、試験でその青果が試される。それは皆平等な状態で試されるので、一番公平な手段と言っても過言ではないだろう――
 と、そんな風に考えていたが、実際には皆が同じで平等という時点で、私には自由というものがないと思わせた。
 つまりは、
――平等を取ると自由がなくなる。自由を取ると、平等ではなくなる――
 と思っていた。
 自由と平等を平行して謳っているのが今の世の中のように思っていたが、冷静に考えてみると、自由と平等を同じ土俵に上げてはいけないのではないかと思うようになっていった。
 この二つを同じ次元で考えると矛盾しているように思えてきた。そんな時からだっただろうか。私は気がつけばいつも同じことを考えるようになっていた。それは、別の次元の話であったり、別世界を思わせる発想であったりした。夢の世界の話もしかりであり、氷室の話を聞いていると、
――ひょっとして私が考えている中に、前世への思いも含まれていたのかも知れない――
 と感じるようになっていた。
 私は、時々我に返った時、何かを考えていたことに気づかされる。その時に考えていたことは、
――新しい世界――
 であった。
 それは違う次元の世界のようで、夢の世界にも思えたが違っていた。夢であれば、目が覚める時に次第に忘れていき、目が覚めた時に覚えている夢は、意外としばらくは覚えている。しかし、忘れてしまった夢を思い出すことはできず、
――夢を見た――
 という意識があるだけで、どんな夢なのか、まったく分からない。
 しかし、この新しい世界への発想は、我に返った時にハッキリと意識している。しかし、急に考えが変わってしまう自分に気づくと、考えていたことが煙のように消えてしまっていた。
 だが、思い出すことができないわけではない。何か頭の中のフラグにスイッチが入れば、すぐに思い出すことができる。そのフラグやスイッチはどこにあるのか自分でも分からない。ただ、フラグのスイッチという存在だけが頭の中に残っているのだ。
 私はそのことが頭によぎった。その時に急に氷室が口にしたのが、
「先輩も何か新しい世界を頭の中で作っているんじゃありませんか?」
 まさに見透かされているようで恐ろしくなり、声を発することがすぐにはできなかった。そんな私を見て、氷室はニッコリと笑ったが、その表情は初めて見るものではないと感じたことで、余計に氷室の顔を直視できなくなってしまっていた。
「実は僕も新しい世界を創造するのが、くせのようになっているんです。と言っても、いつもそれが夢であったり、幻の類であったりと、気がつけば自分の発想を否定していることが多いんですよね」
 氷室も同じだと思うと、次第に緊張がほぐれてきた。
「私は新しい世界への発想は、きっとあなたが考えているようなものとは違っているような気がするんです。きっとあなたは、それを前世の自分の記憶に重ね合わせているんじゃないかって思うんですよ。ひょっとすると、自分の発想をどこかで抑えるために、前世の記憶が残ってしまったのではないかとも思っているです。ちょっと飛躍しすぎかも知れませんが」
 と、彼の考えが自分とは違っていると私が感じていることを正直に話した。
「確かにそうかも知れません。発想なんていうものは、少しでも違えば、『違うもの』として考えられます。だから発想は無限であり、それは一人の発想でも無限なのだから、他の人も合わせると、さらに無限が広がってしまうんでしょうね」
「でも、その中には奇跡的にまったく同じ考えがないとは限りませんよね」
「そうかも知れません。ただ、それは同じ時代には存在しないことではないかと思うんです。時代が立体として積み重ねられると、無限はどうなってしまうんでしょうね。その中に同じ考えが存在しているとすると、それこそ、前世という発想に結びついてくるんじゃないでしょうか?」
「それがあなたの前世というものに対しての考え方なんですね?」
「そうですね。僕は過去に同じような発想をしたと感じたことが何度かあります。それを自分で納得させるには一番の発想は、前世という発想だったんです」
「なるほど、よく分かりました。私の場合は、そこまで感じたことはないんです。でも、時々、『前にどこかで感じたような』という発想になることはありましたが、それを私はデジャブとして片付けていました」
「ということは、デジャブを信じる人は、前世をデジャブと一緒くたにして考えるということなんでしょうか?」
「そうかも知れません。でも、デジャブと前世の発想が同じ人の中で存在することもありえることだと思うんですよ。それは最初にデジャブという発想を知るよりも前に、前世という発想を知ってしまった人なんだって思います。デジャブ現象を、前世の存在で自分を納得させようとするからなんでしょうね」
「でも、僕の前世の記憶があるというのは、デジャブとは別だと思っているんです。前世の記憶は自分で作ったものではなく、最初から存在していたものだと考えていると、どうしても堂々巡りを繰り返してしまっていました。でも、前世の記憶が自分の作ったものだと思うことで、何となく前世という世界が分かってきたような気がしてきました」
「前世なんだから、自分で作り出したという発想はおかしいんじゃないですか? 記憶というのは、自分が作ったものだとすると、ウソかも知れませんよね」
「ええ、だから僕はあなたの考え方を聞いてみたいと思うようになったんです」
「どうしてそこで私が出てくるの?」
 私には、彼の言っている意味がよく分からなかった。最初はもう少し分かっているつもりだったのに、次第に分からなくなってくる。これっておかしな気分になってきた証拠ではないだろうか。
「最近、僕の夢に一人の女性が出てくるようになったんです。その人は見たことのない人で、夢の中で何かの会話をしているようなんですが、どんな会話をしているのか覚えていないんですよ。今ここでしているような漠然とはしているんだけど、話をしているうちにお互いの相手が持っている疑問を知らず知らずに解消していくような感覚ですね。僕はそれを新鮮な気持ちで感じています。今感じているその新鮮な気持ちが、夢の中で残っている唯一の感覚だったんですよ」
「じゃあ、今日こうやって会ったというのは偶然ではないとおっしゃるんですか?」
「そうかも知れません。ハッキリと偶然ではないと僕の口からいうのは憚るんです。言葉にすると重さがなくなってくるのが分かりますからね」
「あなたの中の前世という発想と、私が考えている新しい世界というのはお話を聞いている限りでは違うもののように感じられるんですが」
「僕はそうは思いません」
「どうしてですか?」
「発想は確かに無限に存在しますが、巡り巡って、また同じところに帰ってくることがありますよね。それはどれだけの周期を描いているのかは分かりませんが、僕にはその二つが背中合わせでなければありえないことだと思っているんです」
「それは無限ループの終着点のような発想でいいんでしょうか?」
作品名:新しい世界への輪廻 作家名:森本晃次