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新しい世界への輪廻

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 一も二もなく彼も賛成した。二人はゆっくりと喫茶ルームに戻ると、テーブルの上にあった飲みかけのコーヒーを口にした。コーヒーはすっかりと冷え切っていて、ここを離れてから、結構時間が経っていることを示していた。
「実は僕、何となくですが、前世の記憶のようなものがあるようなんです」
 と、またしても不思議なことを言いだした。
「えっ、前世ですか?」
「ええ、あれはきっと前世だと思うんです。思い出すと言ってもごく短い期間なので、夢を思い出したんじゃないかって思ったんですが、夢に見たことを思い出したのとでは、どこかが違っているんですよ」
「というと?」
「夢で見たものを思い出す時というのは、最初に思い出してから少しの間、だんだん思い出していって、あるピークから後はまた忘れていくんです。そのピークが何であったのかは、想像している間分かっているんですが、覚めてくると、そのピークを忘れていき、ピークがあったことすら、我に返ると忘れてしまっています」
「それが夢の世界のことですか?」
「ええ、そうです。でも前世のことを思い出そうとすると、一気に自分がその世界に入り込んでいるのが分かるんですが、それは一瞬のことで、気が付けば、すぐに忘れてしまっています。この時、前世のことを思い出したという意識はハッキリ残っていて、夢の世界のピークのことのように、忘れてしまうということはないんです。もっとも一瞬のことなので、覚えていないだけなのかも知れないんですけどね」
「そうなんですね。でも、前世のことを思い出している時は一瞬だと言っていましたけど、それって夢の世界と同じじゃないんですか?」
 と聞いた。
「同じというと?」
 彼は分かっていないようだ。
「夢というのは、どんなに長い夢であっても、目が覚める寸前の一瞬に見ると聞いたことがあります。だから、夢というのが時系列で覚えていなかったり、時間の感覚がないものだと思い込んでいたりするんじゃないでしょうか」
 氷室は、自分が感じていることをすべて夢だとは思っていない。そう思うと、自分も彼と同じ感覚になってもいいのではないかと思っていた。
 氷室は、夢というものがどういうものなのか、自分なりに理解しているようだった。その話を聞いて私も、
――同じようなことをいつも考えているような気がする――
 と感じた。
 自分の中では、そう思っているのは自分だけであって、他の人とは違うものだと思っていた。それは私の性格の一つで、
――人と同じでは嫌だ――
 という思いから来ていた。
 両親と一緒にいる時は特に感じていて、親と一緒に見られるのが嫌で、何よりもそれを自分で認めたくないという思いが強かった。
 何といっても、相手は親である。血の繋がりというものがある以上、いくら違うと言っても、誰が信じてくれるだろう。少しでも親と同じような素振りを見せれば、
「そら、やっぱり親子じゃないか」
 と言われ、ほんの少しだけ垣間見られた共通性を、すべて一緒だと思われるのは心外であった。
 そう思われることが、一番嫌だと言っても過言ではないだろう。それだからこそ、自分は親に限らず、他の人とは違うと感じていたい。これはまわりの人に対しても同じことだが、それ以上に、自分に信じ込ませたかった。いわゆる、
――自己暗示――
 というものである。
 私は自己暗示には掛かりやすいものだと思っている。自分は人と同じでは嫌だと思っていながら、気がつけば人の言っていることを信じてしまっていることがある。無意識のことなので、気がつくのが早ければ、すぐにあらためるのだが、遅い時には人から指摘されるという失態を演じてしまうこともある。
 しかし、遅かれ早かれ同じことだった。先に自分が気づいても、その恥ずかしさや自己責任への思いは、自分を苛める感覚に陥ってしまい、自己嫌悪が長引けば、躁鬱症になってしまうこともあった。
 知っている人もいるかも知れないが、私は中学時代から躁鬱症の気があった。誰にも言わずに一人で抱え込んでいたが、その思いを支えていたのは、
――自分は人とは違う――
 という思いだった。
 人と同じだと思うと、欝状態の時などに、抜けることのできない底なし沼に足を突っ込んでしまいそうになる。
――躁鬱症は、誰もが陥ってしまうものだ――
 という意識があるので、躁鬱症に入り込んだ時に誰もが苦しむ欝状態でも、自分だけが違うと思うとすれば、その時に、
――他の人ほど苦しまずに抜けることができる――
 と考えていた。
 冷静に考えると、この考えは「負の連鎖」に結びついてくるものなのかも知れない。自分の普通の状態からマイナス思考に入り込み、減算法で自分を正当化しているように感じるからだ。実際にはそうではないのかも知れないが、我に返った時、「負の連鎖」を思い出してしまう。
 ただ、考えてみれば、欝状態自体が「負の連鎖」ではないだろうか。そう思うと、いくら正当化しようとしても「負の連鎖」から逃れることができないのであれば、私は完全に「負の連鎖」の、思うつぼである。
 その時に思うのは、
――やっぱり、両親との血の繋がりからは逃れることができないんだわ――
 と感じることだった。
 そう思うと一つの言葉が頭をよぎる。
「因果応報とは、このことを言うんだわ」
 と自分に言い聞かせ、ため息をつきながら、自分には、逃れることができない輪廻の上に生きているということを思い知らされる結果になった。
 その思いは欝状態の時に感じさせられる。
 欝状態に入ると、
――考えれば考えるほど深みに嵌ってしまう――
 と、本当に底なし沼を想像させられるが、底なし沼を想像した時点で、もう自分は終わりなのだと思わされてしまった。
 そう思うと、うつ状態に入り込んだ時、たまに感じるのは、
――私の前世ってどんな人生だったんだろう?
 という思いだった。
 前世ということに関して、今までに何とか考えたことがあった。
 最初に考えたのは小学生の頃だった。あの時はテレビで見たアニメの中で出てきた前世という言葉、初めて聞いた言葉に疑問を感じていた。
 誰かに聞けばよかったのだろうが、まさか両親に聞くなどありえなかった。
 小学生なので、友達に聞いても、果たして納得のいく、そして何といっても正解を示してくれるかどうか分からない。それでも友達に聞くしかなく聞いてみたが、友達からもハッキリとした答えを得ることはできなかった。
 それよりも、
「どうして中田さんは、そんなおかしなことに疑問を持つの?」
 と、少し変わった子供のように見られてしまった。
 しかも、その友達が自分の母親に前世のことを聞いたものだから、話がややこしくなってきた。
 友達の母親も子供に聞かれて困惑していた。もし、今自分が近所の子供に聞かれたとして、何と答えていいのか分からない。自分自身が漠然としてしか感じていないことを、理解していない、しかも、理解できるのか分からない子供相手に説明しろと言われてもできるはずはないだろう。
 友達の母親は困惑してしまったことで、
「そんなの子供のあんたが知らなくてもいいの」
 と、けんもほろろだったようだ。
作品名:新しい世界への輪廻 作家名:森本晃次