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新しい世界への輪廻

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 彼が見ていたのはオルゴールだった。蓋を開けてから曲を確認するように耳に当てていた。うっとりしているような目をしている時もあれば、何かを考えて思い詰めているようにも見えることがあった。どちらにしても、過去にあった何かを思い出しているように見えて仕方がなかったが、さっき別れの曲を聴いていた時の自分も過去の何かを思い出していたように思えた。その時意識がなかったのは、目を閉じて瞼に浮かんだ何かを想像しようとしたのだろうが、瞼の裏に何かが写ったという意識はなかった。音楽を聴いて、漠然と何かを思い出そうとするのは自然な行動だと思うが、その時に思い出せないということは、意識して記憶を封印しているからなのか、それとも、別れの曲に秘められた記憶が思い出したくないものだったのかのどちらかだろう。二つは似ているようにも感じるが、意識して記憶を封印しているとすれば、それは主体的な感情で、思い出したくないという思いは、受動的な感情になるのだろう。
――この人の瞼の裏には、何が写っているのだろう?
 想像力にはおのずと限界があるが、限界があるからこそ、いくらでも想像がつくような気がする。それは限界までがどれほどのものか想像がつかないからで、本当は無限のものなのかも知れないと思うことで、いくらでも想像ができるという錯覚を覚えるのかも知れない。

                  前世への思い

 氷室はオルゴールを置いて、目を開くと、ニッコリと微笑んで、その視線を私に浴びせてきた。そして、視線を感じた私もニッコリと微笑んで、視線を合わせることがこの場所で一番安息な気分になれるのだということを感じていた。
――私は何かに怯えているのかしら?
 怯えているというよりも気味の悪さをずっと感じていたように思う。
「先輩は、気に入った人形があったんですか?」
 と聞いてきたので、
「気に入った人形ではなく、気になった人形があったという方が正解なのかも知れないわね」
 と答えた。
「それは、過去にあったことの思い出に関わるようなことなんですか?」
 とあらためて聞かれると、
「それが分からないんですよ。何か記憶の奥に共鳴するようなものがあるような気もするし、それがいつのことなのか、その時の私がどんな心境だったのか、まったく思え出せないんです。そう思うと、過去にあったことではないようにも思えるんです。まさか未来に起こることを予知しているわけでもないでしょうにね」
 と言って、苦笑いを浮かべた。
 その表情を見た氷室は、その日一番の真剣な表情になり、私を見つめた。少しビックリした私は、
「どうしたの?」
 と、恐る恐る聞いてみた。
「あ、いえ、中田さんが突拍子もないことを口にするからですよ」
 と言って、半分顔が引きつっているようにも見えた。
「そんな大げさな」
 と私は言ったが、その時は確かにサラリと流してくれればいいことだったのに、表情を変えるほど相手を真剣に考えさせることだったなどと、想像もしていなかった。
 彼はそれでもすぐに表情を戻すと、
「未来のことが、分かるんですか?」
 冗談のつもりを彼は真剣に受け取っていたのだと改めて分かると、
「いえいえ、冗談ですよ。そんなことが分かるはずないじゃないですか」
「そうですね。確かに未来のことを分かる人がいるとしても、まさかこんなに身近にいるなんてありえませんよね」
 と言っていたが、まだ何かを考えているようだ。
「未来のことが分かるという小説やドラマを今まで結構見てきたつもりだったんですが、どうしても嘘くさいというイメージで見てきていますからね。あくまでも小説やドラマの世界としてですね」
「でも、ごく身近な未来であれば、予想することは可能ですよね。例えばその日の夕方のことなど、計画していたことを実行していれば、おのずと見えてきますからね」
「確かに、それは未来のことではありますが、『未来のことが分かる』というのとは若干違っているように思うんですよ。予測から予想するというのは分かるわけではなく、理論から解明するものですよね。分かるというのは、予想していなかったことを知っているということであり、予知のことなんじゃないかって思うんですよ」
 と私がいうと、
「まさしくその通りです。でも、そうなると、本当に予知できたとしても、それは完全に限定的なことだけであって、事実として起こることのただ一つのことでしかないような気がするんですよ」
「どういうことですか?」
「今言われた予想のように、順序立てて時系列に沿う形で想像するものですよね。でも予知の場合は、順序も時系列も関係ない。未来の一つの出来事を予知することになるのだから、想像できることではないんです。だから余計に予知能力は、一種の超能力のように思われるんでしょうね」
 と彼は言った。
「予知能力って、超能力ではないんですか?」
 私は漠然と超能力の一種だと思っていたので、ここは素直に驚いたが、その様子を見て彼は驚いたようだった。私の言葉がかなり意外に感じられたのであろう。
「超能力ではないですよ。予知できるのは一人ではないということです。誰であっても時期が来るからなのか、それとも何かの条件が揃うからなのか、予知ができる瞬間というのがあるようなんですよ」
「それは、誰もが持っているということですか?」
「持っているという言い方は語弊を感じますが、それは違いますね。タイミングが合えば確かに誰でも予知はできると思うのですが、中には予知できたことをただの夢の延長のように思うだけで、自分で気づかないままの人もいます。そんな人はすぐに予知したことを忘れてしまうので、結局、予知できたとしても、予知していないのと同じことになるわけです」
「なるほどですね。じゃあ、予知能力の予知という表現もおかしいわけですね?」
「それは違います。実は本当に未来のことが分かる予知能力を持っていると思われる人も存在していると思いますよ。いわゆる預言者のような人ですね。彼らは自分でも意識していて、それを能力だと思っていました。しかも、それを神から与えられたものとして、その力を使うことを義務のように感じているのでしょう。だから、預言者として君臨している。預言者には預言者たる意味があるわけです」
「予知能力を持っている人は、それほどいるんでしょうかね?」
「それは分かりませんね。時代時代で存在しているのかも知れませんし、そうなれば、表に出ないだけで、今の時代でも、世界のどこかに何人かいるのかも知れませんね。ただ、それが持って生まれたものなのか、それともある日突然身につくものなのか、それは疑問です」
 私は意外だった。
「えっ、ある日突然などということがあるんですか? まるで急に何かに覚醒したかのようですよね」
「覚醒……。そうですね、覚醒という言葉が一番ふさわしいのかも知れませんね」
 そう言って、また少し彼は考え込んでしまった。
「喫茶ルームに戻りましょうか?」
 そう言って私は助け船を出した。
「ええ、そうしましょう」
作品名:新しい世界への輪廻 作家名:森本晃次