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短編集14(過去作品)

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――物は流通するのだし、経済もうまくいくのだ――
 と自分勝手な理屈で納得している。しかし、私の考え方はまんざらでもないだろう。中には賛同してくれる人もいるくらいで、それぞれの個性だと言ってしまえばそれまでなのだ。
 そんないい加減なところのある私ではあるが、いつも同じ行動パターンを貫かないと気がすまないこともある。日課としていることをその日のうちにしないと我慢できず、言い知れぬイライラがストレスとなって溜まることもあるくらいだ。
 私の日課は周期的なものがあるようで、いつも一定しているわけではない。それが日記だったり、運動だったりとさまざまなのだが、ある程度落ち着いてくると日課も変わってくる。
「毎日続けることって、かなりのエネルギーが必要だよな」
「もちろんそうさ。何度挫折しかけたことか……」
 まさしくその通りでどれをとってもそうであるが、共通して言えることがあるのだ。
――すべての日課は、自分の世界を作り上げられなければ続かない――
 これが私の考えだった。ポリシーと言ってもいいかも知れない。
 日記にしても、スポーツにしても、人を相手にしてすることではない。スポーツと言っても団体競技というわけではなく、ジョギングやトレーニングジムといった一人でするスポーツが主なので、自分なりに計画を立ててやらなければならない使命感を自ら植え付けるとともに、ある意味自由にできる楽しみもある。それだけやりがいもあるというものである。
 しかし孤独さは、拭うことができない。自分ひとりの世界を作るということは、孤独との背中合わせでもある。
 孤独が嫌いというわけではない。しかし絶えずまわりに人がいて、その存在に安心感を持って生活している者にとって、自分だけの世界を作り上げるのは孤独を避けて通ることができず、そこにエネルギーが必要なのである。一旦入ってしまうと、そこは自分だけの世界、居心地はいいのだ。
――夢の世界に似ている――
 夢というものは、目が覚める前の一瞬に見ているということを考えれば、自分の世界を作ることに酷似しているような気がする。眠りが深ければ深いほど自分にエネルギーを蓄えることができ、それを夢という形で目が覚める前の一瞬見せるものだと考えられるのではないだろうか。
 一旦自分の世界を作り上げると、世界は私のすぐそばにあった。確かに入るためにはエネルギーを必要とするのは最初と変わらないが、自分の世界にいる自分がいつもこちらを見ていて、お互いに意識しているように思うのは気のせいだろうか。
 私の中に時々起こる誇大妄想、もう一人の自分の存在を考えているからかも知れないと感じることがある。自分の世界から現実の世界に戻ってくると、自分の世界で考えていたことは忘れている。しかし潜在意識として残っているとしたら、その思いが誇大妄想として存在するとしても不思議のないことであろう。
 自分の世界に入るためのエネルギーが、ストレスに変わっているのではないかと考える時がある。確かに必要なエネルギーだと思うのだが、たまに不完全燃焼を起こしているような気がするのだ。完全に燃えきってこそエネルギーは完全なものになるのだが、それが燃えきらずイライラすると体調を崩しかけたりと、自分でも気付かないところでストレスとなって残っているのだ。
 しかし、かといって日課をやめるわけにはいかない。それこそ、日課をしなければ後で得られる充実感などありえなくなり、すべてがストレスに変わるのだ。たとえ不完全燃焼の時があっても、最初に始めた時に得られた、やり終えた時に感じる充実感を味わったら最後、それなくしては毎日が考えられなくなる。不完全燃焼のストレスを感じないのは、それだけ後で得られる充実感の大きいことを示しているのだ。
 最近はその充実感も薄れてきた気がしていた。毎日日課として続けているのだから、自然と身につく充実感は無意識のものとなってきているのだろう。だが、その気持ちが自分を向上させることだと感じていることで納得しているのである。
――日課を、続けてもやめても溜まるストレスなら、した方がいいに決まっている――
 これが私の結論である。
 いつもストレスが表に現れる時は、身体に少し変調がある。
 胃が痛くなることしかり、風邪の症状として咳が出たり、肩が凝ったりといろいろあるが、それも、いつもどれか一つだけであった。いくつもの変調が起こるとすれば、今の状況では、日課をやめた時に起こるイライラがストレスになって残ってしまう時だと思っていたくらいである。
――今日の変調は何の前兆だろうか?
 少し不安になる。
 不安になってくると襲ってくるのは孤独感であり、私のまわりにいくら人がいても、どうしても薄っぺらいものとしてしか意識できなくなってしまう。
 しかし今私の前には順子がいる。少なくとも順子がいてくれることで孤独感に苛まれることはないと思っていた。もちろん、彼女を見ていて孤独を感じさせるような、そんな女性ではないことは分かっている。心の奥から湧き上がってくる言い知れぬ不安感がそのまま孤独に変わることなどあるのだろうか?
 私には不思議で仕方がなかった。
 いつもは大人の雰囲気の中にある「お嬢さま」っぽい性格が可愛らしく思えるのだが、一緒にいて今日は次第に鼻についてくるようだった。

 彼女との電話の時まではいい雰囲気だったのだ。
「付き合えば付き合うほど、相手が最悪になっていくの」
 といった彼女の言葉が、私の頭の中で引っかかっている。最初は、
――彼女にとっての最悪は、私の前の人で終わるのだ――
 と自負していた。
 明るい太陽が今日は心なしか黄ばんで見えた。黄砂が舞い降りたかのような錯覚があったくらいで、こんなことは久しかったのだが、初めてではない。
――あれはいつ頃のことだったのだろう――
 順子との待ち合わせに向かう途中、歩きながら感じたことだった。太陽は西の空に傾き始め、西日特有の明るさを正面に受けながら歩いていた。時たま下を見てはアスファルトに細長く浮かび上がった自分の影に振り向いたりしながらである。
 通勤帰りの人が増え始める夕方五時過ぎ、アスファルトの上には人の影がウヨウヨしている。
 アスファルトにもかかわらず、照らされた地面からは無数の砂塵が舞い上がって黄色く見えにくくなることはたまにあった。しかし黄砂のようにハッキリと地面が黄色掛かって見えることは珍しいのだ。そんな時は自分の心境に変化が訪れている時で、意識し始めた時には元に戻すにはすでに手遅れ状態だということを宣告させたも同然だった。
――まず最初に襲ってくるのは、孤独感だな――
 そこまでは自分でも分かっている。孤独感など感じるような状況では決してないはずの時に感じる孤独感ほど、どうしようもないものはない。原因があれば、まだ何とかしようと考えることもできるが、原因のないものに対しては甘んじて受け入れるしかないのだ。
――私の人生って一体何だったんだろう?
 漠然と考えることがある。
作品名:短編集14(過去作品) 作家名:森本晃次