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短編集14(過去作品)

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 心と身体の不一致に悩んだこともあったが、よくよく考えると、私の誇大妄想がもたらしたことだと分かってきた。しかしそれでも最初はどうしていいのかが分からなかった。女性を見かけてもわざと視線を逸らそうとしている自分がいる反面、ミニスカートにブーツといった妖艶な恰好を敢えて男の面前に晒している女性に釘付けになる私の視線。まんまと彼女たちの策略に引っかかってしまったかのようで自分に対しての苛立ちを覚えるのだが、そんな彼女たちの顔だけは確認したくて仕方がない。
「むふふ」
 そう言って含み笑いを浮かべるように私を見ている。いつものことなのだ。
――被害妄想だろうか?
 何度となくそう思ったが、明らかに彼女たちは私を意識している。中には露骨に舌なめずりを見せる女性もあり、無意識に生唾を飲み込んでいる私が実に情けない。
 そんな時は理性に抑えが利かない。
 妄想を始めると留まるところを知らず、一瞬の視線の合致だけで、そこから壮大な誇大妄想へと発展していく。
 こんな時に思い出さなくてもいいのに、悪友からのありとあらゆる性への情報が頭の中でフル回転を始める。身体がムズムズしてきて反応を起こすのが頭の中で理解できるのだが、身体の反応に頭が理解できることなど今までになかったことだ。嬉しくもあった、それだけに私の妄想は頭が承認したことで、どんどんエスカレートしていくのが自分でも分かる。
 夢を見ているのかも知れない。
 一瞬のうちにいろいろな情景が思い浮かび、そのたび身体の反応が伴ってくる。脳裏に残った女性の表情や姿態がすべて私を悦ばせるものに見えて仕方がないのだ。長いストーリーを見ているにもかかわらず、実際は一瞬にして見ているという「夢」に似ているではないか。
 そんな自分に嫌悪感を持っていた私は、同時に友達をなるべく避けるようにしていた。そんな自分を見られたくないという思いと、友達も私と同じかも知れないと思うことで、そんな人たちを見たくなかったからである。きっと今の自分なら、そんな淫らなことを目の前で考えられたら、一瞬にして気持ちを理解し、次から次へと行動が頭の中に浮かんでくるであろうことが怖かったに違いない。
 ジメジメした、まるで梅雨のような時期がどれくらい続いただろうか。ゆっくり考えてみると数ヶ月ほどのことだったような気がする。かなり長く続いたような気がしたのは、今までの自分の人生の中でもかなり特殊な時期だったことを認識しているからだった。
 しかし私をそんな梅雨の時期から「気分爽快」の時期に導いてくれたのは、本当に好きになれる女性が現れたからであろう。
 彼女に対しては、なぜか女性の淫らな部分を想像できない雰囲気があった。他の女性と比べてどこが違うのかと聞かれても、ハッキリとどこが、という言葉にして表されるところがあるわけではない。少なくとも、淫らなイメージを持とうとしても、それ以上に清楚さを強く私にイメージさせることで、淫らさなど、どこかへ行ってしまったかのようだった。
 しかし結果から言うと、片想いに終わってしまった。私に話しかける勇気がなかったのは仕方がないこととして、自分と一緒に歩いたり、会話をしているイメージが湧いてこなかったのが一番の原因かも知れない。それでも彼女が私に与えた「女性の美しさ」というイメージは、その後もずっと崩れることはなかったのである。実際にはさらに膨らんでいったという方が正解かも知れない。
――一緒にいて会話がない――
 これほどデートしていて辛いことはない。いくら私が好きになった人でも、そのイメージが湧いてこないのではどうしようもなく、それ以降、好きになる人を、
――会話が弾むイメージのある人――
 として認識しようと無意識に感じていたのかも知れない。
 会話がないことに責任がないとは言い難い。私自身、会話が詰まってしまったらそこから持ち直す術を知らない。女性と普通に話をすることさえ緊張してままならない私に詰まってしまった会話を持ち直すことなど、所詮無理だった。
 それからであろうか。私は女性との会話に緊張することなく、しかも気を遣っているとさえ思わずに、さりげなく話すにはどうしたらいいかを考えるようになったのは……。
 しかし、それにしても初めての恋は、そうやって終りを告げたのだ。あの時も前兆のようなものがあったことを記憶している。お腹が痛かったことだけは覚えているが、もう一つがなんだったか、なぜか記憶にはないのだ。
 お腹が痛くなる時というのは自分でも分かるものなのだが、その思いが頭をよぎると、彼女との淡い思い出がよみがえる。よみがえるというよりも条件反射的に憂鬱な気分になるのだ。
 彼女と別れてからの私は本を読むことを日課にしていた。話題作りがその本来の目的なのだが、本を読むことによって、自分の世界が確立されることへの喜びを初めて知ったからである。
――まわりに誰かがいてくれて、その人に見てもらっていないと生きられない――
 と思っていた。友達をなるべくたくさん作るようにしたのもそのためだったし、それによって得られることは、実質的にも気持ち的にも大きなものだと思っていたからだ。
 中学生の頃までは、友達を選ぶようなことはしなかった。どんな友達であれ、一緒にいれば楽しいもので、ただ会話しているだけでよかったのだ。しかし、高校生になってくると、友達の考えていることがおぼろげながら見えてきて、友達が自分の方を向いてくれていないことが分かると、自らの態度に変化が起こってきていることに気づくのだ。
「おまえ、最近冷たいな」
 そう言われて初めて自分の態度が露骨だったことに気づくのだが、心の中で、
――それはお互い様じゃないか――
 と意地を張っているのだ。そうなるとガラスの関係にヒビが入るのは時間の問題。お互いに話をしなくなり、遠ざかっていく。
――まぁ、しょうがないか――
 と、思ってしまって自分を納得させたことが本当に得策なのか、自分でも分からなかった。
 自己嫌悪に陥ることがあることに気が付いたのは、その時が初めてだったのかも知れない。今まで自己嫌悪に陥ったこともあるが、それは後から考えて分かったことで、陥る瞬間に自分で感じたことはなかったのだ。
 自分の気持ちに余裕を持つことが大切だと思ったのもその時で、自分をしっかり分かっていないと、余裕も持てないのだ。
――人に頼ってはいけない――
 と感じた。自分の態度を変える気はなかったが、考え方だけは変えたかったのだ。
 私はどちらかというと律儀な方ではない。ズボラな性格だと思っているし、いい加減なところがある。例えば、お金の使い道にしてもそうだ。コツコツとその時に計算しながら使っているのだが、メモに残して家計簿のようなものをつけたことはない。一度レシートだけでも残しておこうと考えたことがあったが、結局溜めるだけ溜めて、ゴミとなってっ捨てるだけだったのだ。
「お前はキッチリしているように見えていい加減だからな」
 友達から言われると、
「要するにケチなだけだよ」
 そう言って苦笑するが、まさしくその通りである。
 それでもいいと私は考えていた。人それぞれ物の価値に違いがあるのだ。違いがあるからこそ
作品名:短編集14(過去作品) 作家名:森本晃次