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始まりの終わり

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 だからこそ、洋一には別れの原因が思いつかなかったのである。蹂躙している自分と、恋愛している自分を同じ次元で考えることができなかったからだ。
 しかし、それは冷静に考えれば、実に都合のいい考えである。だからこそ、洋一はいつも何かあった時、
「母親が悪いんだ」
 とすべてを自分の中に流れている母親の血のせいにして、逃げていたのだ。
 そのことを教えてくれたのが、
「あなたは分かっているはずよ」
 と言われたその言葉だった。
 その女性は、決して洋一のことが嫌いではなかったはずだ。ひょっとすると、
――できることなら、別れたくない――
 と思っていたのではないかと思う。
 もし、洋一が、
「俺に気づかなかったことがあるなら、理解するように努力するよ。だから、このまま付き合っていけないか?」
 と言っていたとすればどうだろう?
 他の女性には未練がましく、そんな言葉を口にした。しかし、
「今気づいていないんだから、これからも気づくはずはないわ」
 と言われるか、
「そんなあなたが信用できないの」
 と言われるかのどちらかで、どちらであっても、洋一にはそれ以上の言葉が出てこず、そのまま別れるしかない状況に陥っていた。
 しかし、彼女にだけは、その言葉を口にしなかった。
――このまま別れることになっても仕方がないか――
 という思いがあったわけではない。むしろ、
――別れたくないから、未練がましいことは言えない――
 と思ったのだ。
 そんな洋一の顔を見て、彼女が見せた表情は哀れみだった。
――この顔、どこかで見たことがある――
 一瞬、ドキッとしたが、すぐには思い出せなかった。しかし、彼女が目を切った瞬間、思い出すことができたのだが、
――これは、俺が凌辱している時の母親の表情ではないか?
 この顔を見て洋一は、自分の中にさらなるS性を抱き、さらに苛めたくなるのだった。つまり、洋一に対しての哀れみの表情なんかであるはずはないのだ。
――どうして、まったく正反対の感情を、同じ表情から思い浮かべてしまったんだ?
 確かに相手が違うのだから、正反対の感情を抱くこともありえることだった。だが、それだけで言い表せることであろうか?
 洋一にとって、母親と彼女とはまったく違う感覚だった。
――いや、彼女に対して抱いた思いをいまさらのように思い出すことができるぞ――
 と感じたのは、
――こんな女性が母親だったら、俺の人生も変わっていたかも知れないな――
 と思ったことだった。すぐに打ち消したが、どうしてそんな風に思ったのか、別れを言われて分かった気がした。
――彼女は、一番俺のことを分かってくれているんだ。だから、俺が本当は分かっているんじゃないかなんてことが言えるんだ――
 と思ったからだ。
 それも半分正解で、半分違っている。しかし、同じ半分でも、正解部分の印象が強すぎて、すべて正解だと思えるほどであった。
 母親には、すべてを分かっていてほしいというのが子供が母親に期待する最低限の思いのような気がした。しかし、最低限であるが、一番高いハードルでもある。なぜなら、親には親の人生があるからだ。
 自分の人生を犠牲にしても、子供を育てている親もたくさんいるが、それでも、子供のすべてを分かるなどということはありえないことではないだろうか。せめて、自分が親から受けてきた愛を子供に受け継ぐくらいのものであろう。
 しかし、親の愛情をまともに受けることなく育った子供もいる。そんな子供は、自分が受けるはずだった愛情を思い浮かべて子供に託す。それが理想の親子愛というものではないだろうか。
 それでも限界はある。正直、ここでいう理想の親子愛を貫いている人がどれだけいるというのだろう。洋一は少なくともそんな人がいるということすら信じられない気がしていた。
 洋一は、母親に対しての蹂躙に飽きを感じてからというもの、そんなことをしていた自分が嫌で嫌でたまらなくなっていた。自己嫌悪というよりも、飽きがもたらす思いであり、飽和状態に自分を持っていくと、耐えがたい気分になるのだということを、この時思い知らされた気がしていた。
 洋一のくせで、好きなものはとことんまで続けるというところがあった。
 好きな食べ物は嫌になるまで続けるし、ゲームも嫌になるまでずっと続けたりした。しかし、本当に飽きれば見るのも嫌になる。そんな自分が本当は嫌いだった。
――こんな風になったのも、母親のせいだ――
 と思っている。
 子供の頃、おやつは腹八分目くらいまで食べさせてくれればまだよかったのだが、半分にも満たないくらいしか与えてくれなかった。
「自分で買えるようになったら、腹いっぱい食べるぞ」
 という思いが強くなり、その思いも手伝ってか、好きなものは飽きるまで続けるようになった。
 逆恨みには違いないが、自分では無理もないことだと思っている。これに関しては、同意できる人も少なからずいるだろう。
 洋一は、一人っ子で育った。しかし、実際には妹がいたことを、ずっと知らずにいた。
 知ったのは、四十歳になってからのことで、母親を蹂躙していたあの頃、洋一は気づいていてもよかったはずだ。
 いや、ウスウスは気づいていたような気がする。息子に蹂躙されながら、懺悔していた母親を見ながら、さらにイライラを募らせていた洋一には、その時の懺悔の意味が分かっていなかったのだ。
 妹と言っても腹違いの妹で、父親が外で作った子供だった。
 父親が、どうして他で子供を作ったりしたのか、洋一には分からなかった。母親が洋一によって蹂躙されるようになったのは、ちょうどその子供の存在を知った頃のことで、蹂躙されながら、なぜ懺悔をしなければいけなかったのだろう。
 両親の仲が悪くなり始めたのはその頃が最初だったかも知れない。
――お父さんもお母さんも、何か隠している――
 そう感じるようになり、そのイライラの矛先も、母親に向けられた。まさか、すべての元凶が父親にあるなどとは思ってもいなかった頃のことだ。
 洋一は、妹を見たことがなかった。父親が必死になって隠そうとしているわけでもなく、急に父も母も、妹のことを話さなくなった。元々は、そのことが原因でよくケンカになっていたのに、急にその話題が出てこなくなると、洋一の中で、言い知れぬ不安感が溢れてくるのを感じた。
 妹の母親という人を垣間見たことがあったが、母にそっくりだった。顔の輪郭や表情など、ビックリするくらいに似ていた。どこか不安そうにしている姿が、父親の気を引いたのだろう。
 その人を見ると、さらに母に対しての苛立ちが増して行った。
――見なければよかった――
 とも感じたが、似ていると言っても、洋一にとって母親の方がよほど綺麗に感じた。それは自分に対して従順な母親の姿を見たからなのかも知れない。
 ただ、洋一が妹の母親を見たのと前後して、母親が少し変わったように思ったのは気のせいだろうか?
 洋一に蹂躙されながら、どこか自分の世界を持っているように思えた。最初は、そんな素振りは一切なかったのにである。
――一体、どうしたんだろう?
作品名:始まりの終わり 作家名:森本晃次