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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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そんなことを言われると、些細なことで悩んでいた自分がひどく幼稚に思えてくる。そしてばからしくなる。自分が固執して守るものも、頭を悩ませて時間を費やすのも、過去じゃない。今目の前にいる、手の届く場所にいる者ではないか。

「おまえにはもう十分もらってる。感謝してるんだ、いつも」

嘘じゃないし気を遣っているわけじゃない。主将として足りない部分がたくさんあることを自覚している伊吹にとって、こうして話を聴いてくれる存在があることがもう救いだった。

「本当に?」
「本当だよ。練習試合も期待してるぞ!」
「いてっ」

そう言って背中を叩くと、ようやく瑞はホッとしたように笑うのだった。

「試合経験の少ない一年には絶対いい機会だしな」
「一之瀬が燃えてました。早気、少しずつ克服してるみたいだし、この試合で自信つくといいんですけど」

郁のことは、瑞も伊吹と同様に気にかけていた。精神的な理由でイップスになった彼女は、時間をかけてコツコツと、自分の弱さと向き合い続けている。その真摯さには、頭が下がる思いだった。絶対に結果を残してやりたいと、伊吹はそう願ってやまない。

「一之瀬、あいつ化粧してんです、最近。変な男により疲れたらどうすんだろ…」
「へえ。女子ってメイクで変わるっていうよな」

それはきっと、瑞のため。恋する女子がきれいになっていく心理を、瑞は理解していない。自身にその好意が向けられていることには気づかない癖に、男に恋して綺麗になる郁に対して焦っているのだ。自分勝手なやつだ、と微笑ましく思う。颯馬の言うように、幼稚な独占欲なのだろう。

「化粧してなくても可愛いよって、言ってやればいいのに」

伊吹が言うと、瑞は首を傾げた。

「え?」
「嬉しいと思うよ。きれいになったって言われるよりも」

意味わかんないよ、と言いながら長靴に履き替える瑞。