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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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「いいぞ」

小さな伊吹の呟きとともに、彼が打ち起こしの動作に入る気配が伝わる。引き分けからの息遣い。何度も感じた、伊吹の離れのタイミング。弦音とともに、伊吹の矢が的を貫く音が重く響いた。続く葉山も中(あ)てたようだ。

(感覚忘れないように。でも焦っちゃだめ…)

丁寧に丁寧に。一箭有心。一つひとつの動作に心をこめる。気持ちをこめる。自分がこれまで頑張ったこと、支えてもらっているのだという優しい気持ちを、矢にこめる。

(…須丸くん)

瑞のことを考える。いつもそばで励ましてくれた彼への思いも、引き分けたその弓と矢にこめる。きっといまも、見守っていてくれている。自分でもどうしていいかわからなくなる恋心だけど、やっぱりこうして支えてもらっているのだ。どんな未来を迎えても、瑞を好きになってよかったと、郁はきっとそう思える。いまの郁があるのは、瑞の存在のおかげでもあるのだから。

五数えて矢を放つと同時に。ぱん!と小気味のいい音がして、郁は全身に鳥肌がたった。

(うあ、中ったあ…っ!)

生まれて初めて、試合で中った。それは想像していた以上に衝撃的で感動的だった。ぶるっと体中が震える。

すべての矢を射て射場を出たところで、葉山と伊吹が駆け寄ってきた。

「一之瀬よかったぞ。いつも通りできてた!」
「落ち着いてたね。会も五秒もてたじゃん。後ろから見てても安定してたよ」

結果は、郁が一中、伊吹と葉山は皆中だ。合計9中。勝ったのか負けたのか、それすら郁はみていないが、勝ち負けはもうどうだってよかった。

「ありがとうございます…!」

いろんな思いががこみあげてきて、郁は頭を下げたまま動けなくなる。

「頑張ったな」

伊吹はそう言って、ぽんと肩を叩いてくれた。