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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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「手出せ」

伊吹に言われ、三人でカケのつけた手を重ねる。一番上に置かれた伊吹の手が、ぽんぽんと励ますように叩く。

「自分の呼吸とタイミングを大事にな。一之瀬、焦るなよ。俺と葉山がちゃんと合わせる」
「は、はい!」

力が沸いてくる。気持ちがぴんと引きしまる。同時に、心がふわっと軽くなる感覚。これが、主将の力。一番頼りになって、一番郁らの気持ちを知ってくれている。だから、このひとの言葉には力がある。勇気がわいてくる。

「いつも通り、自分の射をしよう。一箭有心(いっせんゆうしん)、気持ちを込めて」
「はい!」
「よし、行こう!」

弓と矢を手に、郁は深呼吸をする。冷たい空気が身体中のもやもやを浄化してくれるような感覚。

(大丈夫)

すべての選手が位置につく。

「行射をはじめて下さい」

合図。始まる。矢を番える手がカチカチ震える。だけど、大丈夫。後ろに頼れる先輩が二人もいるのだ。落ち着いて。郁は鼻からゆっくり息を吸う。

(大丈夫、今日までやってきたことをなぞればいいだけ。思い出そう)

指導されてきた一つひとつを意識しながら動く。引き分けのタイミングで深く息を吐き、頭の中でゆっくり数える。

(いち、に、さん、し、ご、離れ)

矢を放つ。

(…会が持てた!)

矢は安土に刺さり的は外れたけれど、郁の震えは、その瞬間に完全に止まった。出来る。自分の射が出来る!