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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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宮川のたとえは極端だが、その通りなのだ。その日、どんな精神状態でいるか。それが行動に大きな影響を及ぼしてくる。弓道に限った話ではない。あらゆるスポーツ、仕事、人間付き合い。そういったものに、自分の精神的な状態というのはダイレクトに結果として現れてくるのだ。

「宮川先輩は…そういうとき、どんなふうに心を落ち着けていますか?」

こういった精神論的なことを、宮川と論じた記憶というのは殆どない。宮川が現役だった頃は、伊吹にはそんなことを尋ねる勇気などなかったし、未熟な自分ごときがそのような教えを乞うことさえ、礼を失するのだと感じていた。
宮川は、考えることもなくすぐさま返事を寄越す。

「俺は、動揺したり、気持ちが弱いことを否定しなくていいと思ってるんだ」
「……」
「人間なら、そんな感情を持ってて当然だ。だから神末が、私情で動揺してたっていいと思う。大事なのは、動揺してる自分も、弱い自分も全部ひっくるめて受け止めることだよ。認めることだ。それが強さってことだと思う。ごく当たり前に持っている感情を抑えようとするほうが、不健全だから」

自分は弱い。自分は情けない。だが、それでいい。認めることは難しい。簡単に思えて、ありのままを受け入れるというのは難解なことなのだ。

そんなことを思っていると、肩を叩かれた。

「頑張れよ」

立ち上がった宮川が去っていく。言わんとしていることを、おまえなら理解しただろうと、そう背中が言っていた。

「ありがとうございます」

立ち上がり、その背中に頭を下げる。先輩からのエールと助言を、しっかりと自分の中に刻み込む。





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