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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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明日に迫った交流戦を前に、部員たちの緊張感やモチベーションはこれまでにない高まりを見せていた。そんな中でも、いい意味でいつもと同じ雰囲気をまとっているのがこの副将だ。
昼休み、わざわざ二年に教室にまでやってきて、瑞は伊吹にDVDを手渡した。

「これ、先輩におすすめしたいやつ。斎藤先輩が、持って帰っていいよって貸してくれたんです」
「おお、ありがとう」

以前約束したことを覚えていてくれたようだ。

「ピアニストの映画だから、音楽もスゲェいいんです。擦り切れるくらいサントラ聴いた」

表情を和らげて嬉しそうに言うものだから、クラスの女子がざわめいている。「いつも愛想のない須丸くんが笑ってる!」と珍獣扱いである。

「一緒に観ようって言ったのに」
「…だめです。俺たぶん泣いちゃうから、みっともない」

おまえのみっともないとこなんてもう全部知ってるよ。それは口に出さないのが先輩の優しさだろう。聞けば、彼は好きな映画を観るには結構覚悟がいるのだという。感情移入が半端ないという意味なのかもしれない。

「じゃあまた部活で。失礼します」

甘い匂いを残して瑞が去る。

「おっまえすげえなあ、あの須丸を手懐けてんじゃん」
「猛獣使いじゃねえか」

クラスメイトが本気でそんなことを言うので吹き出してしまう。一度懐に入れた人間に対しては、あれが彼の素なのだ。