春はまだ先 探偵奇談14
みっともなさも、弱さも、情けなさも
「集合!」
翌日。夕方の部活動で、交流戦の具体的な話が顧問から伝えられる。郁らは緊張しながらそれを聴いていた。
「試合は個人戦、団体戦。個人戦は時間の都合上選抜メンバーのみだが、団体戦は一年二年男女混合チームを全メンバーを含めて編成する。全体的なレベルアップを図ることと、試合経験の浅い一年生に体配や三人立ちの動作を覚えてもらうための目的もある。よって全員が、どこかの学校のチームと絶対に当たることになるぞ。今日から三人立ちのチーム練習を中心に行う。集中して詰めてくぞ」
「はい!」
一年生らが、顧問の檄に元気よく返事をする。気合が入っている。もちろん郁もだ。これまで頑張ってきたことを、この試合で出せるかどうか。郁には、公式戦以上の意味を持つ機会なのだ。絶対に成果を出したい。
「ではチーム編成と立ち順を発表します。Aチーム…」
主将の伊吹により、チーム編成が読み上げられていく。郁はドキドキしながら名前が呼ばれるのを待つ。誰と組んでも一生懸命にやるだけだ。しかし克服できていない早気が、チームメイトの足を引っ張らないかは、やはり心配だった。
「Fチーム。大前、一之瀬郁」
「ひゃいっ!」
呼ばれた。返事をする声が裏返ってしまった。
「中、神末伊吹。落ち、葉山香苗」
なんと主将のチームだ。各々、チームを組む部員のもとへと散っていく。郁は伊吹と葉山のもとへ向かい、よろしくお願いしますと頭を下げた。
「よろしくね。一之瀬、あんた早気まだ克服できてないんだっけ?」
「は、はい」
葉山は少しばかりきつい女子の先輩だ。伊吹とは違った厳しい面があるので、郁は不安でドキドキしてきた。
「先生も言ってたけど、経験値積むことが目的だから。あんまガチガチにならないようにね」
「は、はい…」
頑張りたい気持ちはあるのに。それなのに、不安のほうがまだ大きい。
(どうしよう、しっかりしなきゃ…)
焦りと、不安がないまぜになる。こんなとき、絶対にがむしゃらになってはいけないことは経験上知っている。郁は焦りを抑え込む。
(大丈夫、だってことはわかるのに。今までちゃんと稽古してきた。早気だって少しずつよくなってる)
それなのに、どうしても自信が持てない。
作品名:春はまだ先 探偵奇談14 作家名:ひなた眞白