春はまだ先 探偵奇談14
手のひらをそっと背中に当てる。ほんのりと温かい。厚いコートの上からもわかる、瑞のぬくもり。
「ん?なに?どうしたの」
「…ゴミついてた」
適当にごまかす。こんな触れ方しか出来ない。切ない。
「…大丈夫?」
「え?」
「さっき手ェ掴まれてたでしょうが」
見られていたのか。郁は突然恥ずかしくなって、俯く。
「だ…大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」
本当は、すごく嫌だったしショックだった。瑞の柔らかな触れ方を忘れてしまいそうで怖かったから。人の行きかう喧騒の中で、立ち止まったまま沈黙する。瑞と郁を残して、人々が流れていく。
「あーいう感じのじゃ、ないよね?」
瑞が深刻な顔をして尋ねてくる。
「な、なにが?」
「一之瀬の好きなやつ」
作品名:春はまだ先 探偵奇談14 作家名:ひなた眞白