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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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「すんません、あたしら彼氏と待ち合わせてて」
「いいじゃん、カラオケくらいなら」

郁は、そんなやりとりをする美波と他校の男子生徒を見比べる。どうしよう。帰り道、駅前で買い物をしてバス停に戻る途中だった。「遊ばない?」と声を掛けてきたチャラそうな二人組。どうにもしつこくて、郁はハラハラしていた。

(ど、どうしよ…)

美波はこういうのに慣れているようだが、郁には恐怖でしかない。

「そっちの子はどう?行くよね?彼氏より俺らのが絶対面白いからさ!」

突然そう振られ、手首を掴まれた。その乱暴な振る舞いに、自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。

「いやッ!行かない!」

相手がひるんで手が離れる。瑞の顔が浮かぶ。こんなんじゃない。あの日、瑞が抱きしめてくれたことが蘇る。優しくてちょっと遠慮がちで、でもなんにも怖くなかった。温かくて、本当に愛おしく思った。やっぱり瑞は特別な男の子なんだ。こんなわけのわからないヤツに触られたくない。怒りで身体が震えるのがわかった。

「あんたらいい加減…」

美波が大きな声で怒鳴ろうとしたとき。

「俺、その面白くない彼氏だけど」

背後から聞き覚えのある声がして、振り返る。大きな瑞が立っていた。
どうして…?

「須丸くん…」
「なんか用?つーかどこの中学生?」

発せられる感情のない低音は抑えられた静かな声なのに、それはもうものすごい迫力だった。石ころでも見るような、無感動な表情の怖いことといったら。目で殺す、である。

「ひえ…」

さあーっと青ざめたチャラ男二人は、へらへらと笑ったかと思うとさっさと逃げ出していった。郁は膝から崩れしゃがみこんだ。怖かった。ほっと胸をなでおろしたところに、瑞の雷がバコーンと落ちる。