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偶然の裏返し

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 純也は、彼氏の方に最初興味を持っていたが、彼女の方も十分に興味深く感じられた。ただ、自分が付き合うとすれば、彼女のような女性は真っ平だと思っているのも事実で、それは彼女の中に、独占欲のようなものが見られたからだ。
 彼の方はそれでもいいと思っているのかも知れない。
 彼氏の方が自分の中に孤独を感じているように思えるのは、同じように孤独を感じている純也だから分かるのであるが、彼女がいるのに孤独を感じるというのはどういうことなのか、最初はよく分からなかった。
 しかし、この男が一人になって孤独を感じるようになった時、彼女のことを思い出すのかどうかを考えてみた。
――思い出すことはないような気がするな――
 孤独を感じている人間というのは、自分に孤独を感じているその時間は、他の人のことを自分の頭の中に入れることを拒むものだ。それが意識してのことなのか、無意識なのかはその人によって違うだろう。純也の場合は意識して他の人のことを考えないようにしていると自覚しているが、どうやらこの男性は無意識ではないかと思えたのだ。
 それは、彼が自分とは違う孤独を感じているからだった。
 その人の孤独というのは、他の人には分からないものだ。しかし、その人が孤独を感じているかどうかというのは、孤独を意識して感じている人間には分かるものだと思っている。だから、今、彼女と一緒にいて話をしていながらも、この男は孤独を感じていると純也は思った。だから、孤独を感じるのは、無意識なのだ。
 意識して孤独を感じているのだとすれば、孤独を感じる瞬間、自分は一人でいたいと思うはずである、孤独を定期的に感じるようになると、自分がいつ次に孤独を感じるようになるかというのは、分かってくるものではないかと思えた。無意識に孤独を感じる人であっても、前兆のようなものがあり、無意識に感じる孤独を、スムーズに受け入れようとするその心境に入り込むことができるのだろう。
 それにしても、孤独を感じながら、相手の話に合わせるかのように話をできるというのはすごいものだ。
――もし、俺だったら、話に馴染めないと、そのまま欝状態に陥ってしまうかも知れないな――
 と感じた。
 純也はいつの頃からか、定期的に躁鬱状態に陥るようになっていた。数回躁鬱状態を繰り返すと、いつの間にか、いわゆる忘れた頃に、普通の状態に戻っている。
――躁鬱状態に慣れてきたな――
 と感じることはなかったので、きっと慣れてきたその頃、普段の自分に戻っているのかも知れない。
 躁鬱症というのは、中学生になってから聞いたことがあった。実際にクラスの中で、躁鬱状態になっているクラスメイトもいたくらいだ。
――近寄りがたいというのは、こういうことを言うんだな――
 と感じた。
 躁鬱というのは、本当に定期的に入れ替わるものだった。特に躁状態から欝状態になる時というのは自分の中で「前兆」を感じる。
 例えば、
――誰かの話を聞いていても、上の空だ――
――集団行動していても、いつも自分だけが浮いているような気がする。担任の先生や親の顔を見るのも嫌だ――
――昼間は、雲ひとつない快晴であっても、空気が黄色掛かって見える。そのくせ夜になると、急に視力がよくなって、信号の色も鮮やかに見えてくる――
 などと言ったことを感じるようになると、欝状態に入り込んでくることを自覚できるようになるのだ。
 欝状態になると、何をやっても歯車が狂った状態なので、何もせずに黙ってじっとしているのが一番である。
「そのうちに躁状態がやってくる」
 ということが分かっているだけに、その言葉を心の中で呟きながら、関わっている時間をやり過ごす。
 しかし、欝状態であっても、後から思い返すと嫌な時間帯ではなかった。気持ちが穏やかだった時間という印象が頭の中に残っている。なぜなら、余計なことを考えず、何もしないというやり過ごした時間だったからだ。
 特に躁欝状態の時によく夢を見る。それは躁状態に移ってからのことで、夢に見るのはそれ以前の欝状態だった頃のことだ。
 別に何も余計なことを感じずにやり過ごしていると、当然のごとくやってくる躁状態、夢はその時のことを美化して思い出させようとする。
――欝状態というのも、無駄な時間ではなかったんだ――
 と夢の中で感じる。
 しかし、それは夢の中だけで感じることで、目が覚めてしまうと、やはり欝状態というのは嫌なものだとしか思えなかった。
「でも、孤独感を感じるには一番いい時期なのかも知れない」
 と感じたが、孤独も欝の一種だとはどうしても思えなかった。
――これが他の人だったらどうなんだろう?
 欝状態を他の人がどのように感じているかが問題なのだが、神経科に通ってでも治療しようと思っている人は、切実ではないのかも知れない。日常の生活に影響したり、友達関係や会社や学校での仕事や勉強に大きな影響を与えると、その先の未来が見えなくなるのだろう。
 つまりは、未来を見据えている人には欝状態は、黙って見過ごすことのできないものだと言える。そういう意味では、黙って見過ごすことを考えている純也は、未来を考えていないということだろう。
――そういえば、未来なんて考えたことはなかったな――
 思春期に訪れると言われるいわゆる「中二病」、過大な自分の未来を想像し、いろいろなものに憧れを持ったりする感覚なのだが、純也にはそんなものはなかった。死春季も気が付けば過ぎていたというくらいで、意識するとすれば、異性に対しての妄想だったり、声変わりしたという目に見えることだったりするくらいである。まったく夢や希望がないというわけではないが、下手に夢や希望を抱いてしまうと、必要以上に想像してしまい、絞り込むことができない。そのことを意識していることから、過度な妄想や憧れなどを持たないように、自分の中でセーブしているのだった。
――未来や憧れを持たないから、躁鬱症になったりするのかな?
 などと考えたこともあった。
 ただ、その中で、自分が孤独を嫌がっていないということが、他の人とは違っているということ、そして、自分が他の人と違った性格であるということが嫌いではなく、むしろ好きな性格だと思っていることで、躁鬱症に陥るのではないかとも感じていた。
 純也は、躁鬱症というのは、限られた人が罹るもので、どちらかというと、
――選ばれた人間が罹るのではないか?
 とさえ思えた。
 もし、選ばれた人間であるとすれば、それは悪い意味ではない。何かの成長に必要な時期として、躁鬱症を味わう時期があるのだとすれば、それは仕方のないことなのかも知れないだろう。
 純也は、そんな自分のことを考えながら、後ろのカップルを意識していた。彼氏の方は自分に似たところがあると思っていたが、どうやら、全然違っているようだった。
――この男には躁鬱症は似合わないよな――
 と感じた。
 むしろ、彼女の方が躁鬱症に罹りやすいのではないかと思うほどで、どっかヒステリックに感じられる彼女の言動には、計算された行動が含まれているようで、裏表が見え隠れしていた。
作品名:偶然の裏返し 作家名:森本晃次