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偶然の裏返し

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 その頃になると、ニュースやドキュメンタリー番組も見るようになり、実際に起こっている悲劇がスクリーンを通して、目の当たりにしている。
 今から二十年ほど前、戦争の歴史が変わったと言っていた時代があった。
 もちろん、その頃には子供だった純也は、
――そんなことを言われてもピンと来ない――
 と思っていたことだろう。
 ただ、テレビの解説者が言っていたこの言葉だけはハッキリと覚えていた。
「最近の戦争は、まるでテレビゲームでもしているかのように、お茶の間にいながら、テレビを通してリアルタイムに戦争を体験することができる。実に恐ろしいことですね」
 その言葉を聞いて、純也は意味は分からなかったが、
「実に恐ろしいことですね」
 と言われて、意味もなくゾッとしたのを覚えていた。
 その思いが頭の中にずっとあったからだろうか、自分の感覚がマヒしてくることを、大人になるにつれて、その都度感じるようになった。それだけ何かに対して敏感になってきたのだと思うのだが、何に対して敏感になってきたのか、感覚がマヒしてくるということと相対的なことだけに、想像もつかなかった。
 先輩が自殺をしたという話を聞いた時、子供の頃に一瞬自分が戻ったような気がした。
――一体、どんな気持ちで自殺なんかしたんだろう?
 中学生の頃、虐めを苦にして自殺をした人がいた。クラスは違っていて面識はなかったのだが、どうやら、飛び降り自殺だったようだ。
 学校に深夜忍び込んで、屋上からひと思いに飛び降りた。遺書のようなものはあったというが、生徒には公表されることはなかった。もちろん、学校では保護者説明会があり、父兄には説明があったようだが、学校側の説明は分かりにくいもので、ハッキリとせず、漠然とした内容を、紙に書かれたものを淡々と読んでいるだけだったという。
 マスコミへの発表もあったが、まさしくその通りで、学校側の責任者がマスコミを相手に説明している時、一度も顔を上げずに、淡々と文章を読んでいるだけだった。
 読み終わってから質疑応答があったが、それに対しても、
「学校側としては、把握しておりません」
 だったり、
「我々の範疇ではありません」
 と、まるで他人事のようだった。
 マスコミはさらに追求しようとしたが、学校側は一方的にインタビューを打ち切り、結局、曖昧なままの会見だった。その後週刊誌などでは、学校側の対応が悪かったのだと書き立てていた。
 中学生になっていた純也には、さすがに学校側の説明のひどさも、それによってマスコミが熱くなっているのも分かった。純也は、まわりが熱くなればなるほど冷静に感じられていて、情けなさから、自分が他人事に思えてくるのを感じていた。しかし、その反面、自殺した生徒の気持ちを考えるようになり、実際に自殺に使った屋上に赴いてみた。
「ここから飛び降りたんだ」
 下から見ているよりも、数倍恐ろしかった。身体は震えがとまらなくなり、呼吸が荒くなってくるのを感じていた。
 前から風が吹いてくると思うと、急に風向きが変わって、背中を風に押されたような気がして、思わず身体を丸くしてしまった。
「こんな恐ろしいところ、初めてだ」
 下を見ると、通路があり、その向こうには植え込みがあった。
「どうせ死ぬなら真下に落ちるのではなく、植え込みの上に落ちたいものだ」
 と思った。
 恐ろしくなってその場を離れたが、しばらく、目の前から屋上から真下を見た光景が離れなかった。
 ただ、自分の気持ちが冷静になってくるのが分かってきた。
――死にたくないなんて思っていたのかな?
 自殺を考えたことは今までにも何度かあったが、そのたびに諦めてきたのは、きっと他の人と理由は違うからではないだろうか。
 普通なら、
――やっぱり死にたくない――
 と思うからだと感じていたが、純也の場合は違う。
――死に切れなかったら、どうしよう――
 という思いからだった。
 自殺するとしても、方法はいくらでもあった。まず考えることは、
――どれが一番楽に死ねるだろう?
 という思いに違いない。
 こればかりは、誰であっても同じではないだろうか。死を覚悟すれば、痛い、苦しいという思いはしたくないと次に感じるのは、人として無理のないことではないか。自殺するにしても、死に方一つで、何が痛いか苦しいか、まずは、それを考えて、自殺の方法を考えるだろう。
 苦しみたくないという思いとしては、
――死ぬまでに、時間を掛けたくない――
 という思いだ。
 それであれば、服毒は辛い。苦しい時間が一番長く続くような気がする。服毒は嫌だった。もちろん、毒をどうやって手に入れるかというのも問題だが、まずは、服毒は外すことになるだろう。
 また、服毒と同じように、苦しみながら死ぬというのであれば、ガスを使うという方法である。しかし、これは睡眠薬をあらかじめ飲んでおけば、苦しむこともなく、楽に死ねるような気がした。しかし、これも、後述の理由から、考えから除外することになった……。
 後考えられるのは、電車に飛び込む、あるいは、高いところから飛び降りるという方法である。
 あっという間に死ねるであろうが、ここで一つ大きな問題があった。それは次に考えたことにもいえることだが、次に考えたことは、
――手首を切る――
 というやり方だった。
 これも、楽な気がした。しかし、これもガス自殺と同じような後述の理由から、除外することになった。
 もう一つ最後に考えたのは、首吊りだった。
 これは、苦しむという意味でも、後述の意味でも、ある意味、一番リスクの大きいものではないかと考えられた。
 自殺を考えた場合、苦しい、痛いのを避けたいと最初に考えるのだが、具体的に自殺の方法を列挙していけば、その中で共通した問題点が浮かび上がってくることに気がついた。これは誰もが気づくものではないと思うのだが、逆にこのことに気づく人というのは、それほど死にたいと本気で思うほど、切羽詰っていないのか、それとも、少しでも一縷の望みに掛けてみたいと考えているのかのどちらかではないだろうか。
 純也が考えたのは、死に切れなかった時のことだった。
 植物人間になってしまったり、永遠に回復しないであろう中で、機械によって生命を維持されているだけで、生きているのか死んでいるのか分からない中途半端な状態になるだろう。
 死のうと思ったのなら、他の人のことなど考えることもないのだろうが、実際に自殺の方法を考えたりしている中で、気がつけば、残された者のことをいつの間にか考えている自分に気づいてハッとしていた。
――そんなことを考えるくらいなら、自殺なんて考えない方がいいんだ――
 と思うことで、自殺を思いとどまったものだ。
 それでも、またしばらくすると、
――自殺をしよう――
 と頭が勝手に考える。
 しかし、結局は同じことを繰り返すだけで、死ぬことに対して考えてしまった自分を後悔することになるのだ。
 純也が自殺について考えている時、まわりのことが急に見えるようになっていることに気づいていた。
――あの人も自殺しようと考えている――
 その時、なぜか自殺しようとしている人が分かるようになっていた。
作品名:偶然の裏返し 作家名:森本晃次