短編集12(過去作品)
心の中で話しかけるが、美佐子は断固として視線を参道に向けたままだ。
参道の手前に差し掛かるといきなり私の方を振り返り、目を必死に合わせようとする。
「出雲大社って、縁結びの神様でもあるんだけど、アベックで行くと神様が嫉妬するんですって」
参道の直前で私を睨みつけるような視線を浴びせた美佐子はポツリと呟いた。まるで私を試しているかのように、聞こえるか聞こえないかのような声で……。
美佐子の今回の目的はこれだったんだ。ここまでは見てはいけないことを見てしまったという神話のようなものを思い出させる旅だった。しかし、美佐子は私が敢えて自分からオブラートに包み込もうとしていることを曝け出そうとするのが目的なのだ。
「まだ、あなたの中には奥さんがいるのよ」
目で訴えている。私が美佐子の気持ちを理解できるかどうか、一瞬の判断に美佐子は掛けたのかも知れない。
しばし呆然としてしまった私だったが、きっと美佐子の望んだことをするだろう。とにかく私のこれからは、美佐子なしには考えられない。美佐子も同じ考えを私に目で訴えている……。
雲の流れが速くなり、風が少し強くなってきた。まるで昨日起きた時の松江の朝のようである……。
( 完 )
作品名:短編集12(過去作品) 作家名:森本晃次