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短編集12(過去作品)

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「あ、それは気にしていたことがあります。夜だけなんですよね。でも、あれは角度によって違うんじゃないですか?」
「私もそう思っていたが、ここの明かりを見てから信号を見ると、どうも自分のその時の心境が反映しているような感じがするんだよ」
「私にはそれは感じませんね。気がつかないだけかも知れませんが」
 確かに信号の明かりは気にしたことがある。もちろん、いつも気にしているわけではないが、特に真っ青に見える時など、
――いつもと違う――
 と感じたものだ。だが、それがどうしてかなどということを考えたこともなく、いつも漠然と見て、感じているだけなのだ。
 私はいつもそんなところがある。不思議に思ったことでも、あまり問題意識を持つこともなく通り過ごしてしまう。
――まるで私の人生そのものなのかも知れない――
 きっと私に限ったことではないのだろうが、それが学生時代の自分だったら、ひょっとしたら気になっていたかも知れない。
「年を取るたびに、まわりのことを気にしなくなるんですよね。いろいろなことを考え経験して成長してきたのが、飽和状態になって感じることに麻痺している場合もあるでしょうし、打算的な考えが働いて、余計な神経をすり減らすことを敢えてしないようにしようという発想が生まれるのかも知れませんね」
 ロクさんは美味しそうにタバコを吹かし、遠くを見つめながら話している。まるで、暗くて見えないが、遠くにあるはずの水平線を見つめるようにして目を細めていた。ひょっとしてロクさんにだけは見えるのかも知れないという気がしてくるのも、無理のないことだった。
 ロクさんを見ていると、まるで将来の自分を見ているような気分になるのだが、その気持ちはずっと変わらないでいる。きっと私にもそのうち水平線がハッキリと見えてくるだろうと感じているからである。
 そういえば私には最近悩みがある。それは油絵を描いていて自分の作品というものが分からなくなっていることだ。毎回作風が違っているような気がして仕方がない。確かに同じ人間の作品でも寸分違わない作品を作ることは不可能なので、若干の違いは当然なのだが、それにしても違いすぎるような気がする。きっと精神的に落ち着いておらず、どれが自分の作風なのかを試行錯誤する時期なのかも知れない。
――週末になると少し情緒不安定になる――
 そう感じるのは色に対して特別な感情を持つ時である。
 油絵を描いていて、実際に色を使い始めると普段であれば、カンバス全体の色彩を考えている。
――全体から細部を見渡す――
 それが色彩に関する私の画法なのだが、時々一色が気になってしまう時がある。赤だったり青だったり、その時々で違うのだ。
 元々原色が好きな私は青が好きだった。海の色であり、空の色である。しかし最近は本当に青い海など見たことはない。昔は綺麗に澄んでいて、海も青かったのだろう。今は逆に曇天の薄気味悪い雲が立ち込めている時に感じる「水平線」が見えないくらいで、実に気持ち悪さを感じるのである。
 私は昔から海は苦手であった。潮風に当たるとすぐに熱を出してしまう体質で、特に夏などの生暖かい風に潮風が含まれていると、肌がベタベタして気分的に参ってしまうのである。きっと綺麗な海だったらそんなこともないのだろうと思うこともあった。小さい頃は病弱だった。扁桃腺が肥大で、よく高熱を出したものだが、それでも手術することなく成長したのは、針治療などを施したおかげで中学くらいからそれほど高熱で寝込むことはなくなったからだ。それでも年に数回は発熱し、学校を休むことがあった。精神的な気の緩みがあったのではないかと、最近になって考える。
 集中していれば熱を出すことはない。いつも正月明けや、試験の後などが多く、気を抜いていないようでも気の緩みが襲ってくるものなのかも知れない。自分の気持ちに正直なのだろう。
 だが、哀しいことに自分の気持ちに正直だと思ってみても、その正直な気持ちというのが自分で分からない。後になって気付くこともあるが、ほとんどにおいて気付くことはない。特に週末になるとその傾向は強く、仕事が忙しく、曜日の感覚がない時など徐実に現われる。
「お前週末になると付き合い悪いな」
 社会人一年目はさすがに同僚とよく遊びに出かけていた。最初の研修期間中などは、それほど過密なスケジュールでもなかったので、結構一緒に出かけたりしたが、その研修期間中も後半に入ると金曜日に一週間のまとめで試験などがあり、それが終わると放心状態に陥っていた。そのための気の緩みがあったのか、よく発熱を起こしていた。
「いや、悪いな。最近週末になると体調が悪くてね」
 嘘ではないが、何となく気が引ける。だが、成績はいいので、自分としてはそれほど悪気もない。仕方がないことだと思うからだ。
 しかし、気が緩むことですぐに体調を壊すと自覚し始めた頃からであろうか。それがいつだったのかハッキリと覚えていないのだが、赤という色が好きになってきた。
 暗くなりがちな青という色を敬遠したのかも知れない。それとも、好きなプロ野球チームのカラーが赤だったという、そんな単純な理由だったのかも知れない。色を好きになる理由なんて、意外とそんなものなのかも知れない。

「お前は犬型人間か? それともネコ型人間か?」
 学生時代に友達に聞かれたことがある。
「いきなりなんだい」
 苦笑していたが、その間に考えようとしていたのだ。
 その友達は田舎から出てきていて、アパート暮らしをしている。大学の近くのアパートを借りればいいのだが、
「あまり近いと溜まり場にされるからな」
 確かにその通りだ。実際に大学の近くに住んでいる友達は溜まり場にされて困っているというではないか。いや、自分の部屋が溜まり場にならなくとも、隣室が溜まり場になってしまえば、所詮学生アパート、薄い壁一枚隔てた隣の部屋から深夜の笑い声など聞こえてくるものなら、鬱陶しくて仕方がない。それなら自分の部屋が溜まり場になる方がまだマシかも知れないと思うほどだ。
 友達はある意味変わっていた。「天邪鬼」とでもいうべきか。他の人が考えることの逆をいつも考えていて、少しでも逆が理屈に適うと感じれば、即座に行動に移す方である。しかしそれでもたいていの場合、彼の理屈が合っていることが多いので、「オオカミ少年」扱いされることはない。
 私はそんな彼に好意を持っていた。自分にないものを持っている人間に対しては、ある意味尊敬の念を持っている私にとって、彼は尊敬に値する人でもあった。しかも将来のことや、人生について語り合うのが好きな私にとって、彼はよく付き合ってくれる。アパートなので、気軽に泊まりにいけるし、夜通し話をしても尽きることがない。だから彼から
「お前は犬型人間か? それともネコ型人間か?」
 と唐突に聞かれても、ビックリはしないし、笑いながら考えることもできるのだ。
「じゃあ、君は?」
 考えがまとまらない時の常套手段であるが、話を相手に聞き返す。逆に質問することで、相手の意図を確認することもできるのだ。
「俺はきっとネコ型の気がする」
「どうしてだい?」
「ネコ型と、犬型の違いが分かるかい?」
作品名:短編集12(過去作品) 作家名:森本晃次