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アテルマ国の真実

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 小さな国で、専制君主を貫いていた国家だった。表向きは民主主義を唱えていたが、実際には絶対主義のような国で、まだ隣国のアテルマ国の方がマシだった。アテルマ国は、攻め込んだ国の軍隊を自国の軍として取り込み、すぐに事態を収拾することで、国連に併合を認めさせた。
 ここまでの電光石火の動きは、六角国にとっては寝耳に水の出来事だった。まさか、アテルマ国が、自分たちが裏で計画して作った四か国の一角を崩すことになるとは思ってもみなかった。
 しかし、アテルマ国が侵攻した国は、元々一番厄介な国であった。専制君主の国など作るつもりはなかったのに、建国の混乱に乗じて、結局専制君主を認めなければいけなくなってしまったことは、一番の計算外だった。
 この地域の地図は、これで一段落した。ただ、アテルマ国のこの併合が実はその後のこの地域の平和を脅かすことになるとは、その時、どこの国も分かっていなかった。
 アテルマ国が鎖国を行っていた時、この国の中心は、カメリス民族の末裔だった。
 喋っている言葉は、六角国語か英語がほとんどで、アジア民族ということもあり、六角国人も、カメリス人も見分けがつかなかった。黄色人種ということであるが、かつてのカメリス軍が占領していた時期は、この地域は完全に「カメリス」だったのだ。
 六角民族と、カメリス民族の大きな違いは、生まれた時のほとんどが「出べそ」だという六角民族に比べて、カメリス民族はそこまでおへそが目立っているわけではなかった。その代わり、ここで生まれたカメリス人の子供のお尻には痣があったのだ。成長していくにしたがって目立たなくなるが、カメリス国で生まれたカメリス民族には見られない痣が、この地域で生まれたカメリス民族の子供には見られるのだった。
 アテルマ国には、純粋なカメリス民族というのはいない。この国に移り住んだカメリス軍の男と、元々の先住民のオンナとの間に生まれた子供が、また結婚して、血が混じり合う。ここでは慣習として、他の民族と結婚することはなかった。最初から閉鎖的な民族としてこのあたりは異種異様な民族であった。
 アフリカの原住民の中には、他の血を混じり合わせない風習があるところもあるだろうが、世界的にも珍しく、他の血を混じり合わせない風習が残っている。
 もちろん、法律化などできるわけもなく、あくまでも慣習として残っていることだが、どうしてそんなことになったのか、知っている人はほとんどいなかった。
 この国の民衆が、血を混じらわせることを極端に嫌ったのには、理由がある。都市伝説のようなものであるが、カメリス民族の先祖がカメリスでは、天皇家を中心とする古事記やカメリス書紀に記されている民族だと信じられている。
 しかし、戦争によって、アジア各国に軍隊を駐留させたカメリス軍は、現地に昔から伝わる伝説を聞かされて、驚愕したこともあっただろう。いくら軍の上層部の命令とはいえ、アジアの民衆を苦しめることを、カメリス軍の兵士は悩んでいた。特にこの地域の軍隊は、土地の女性と契りを結び、子孫を残した。
「これは、昔からの定めであって、今軍人として子孫を残しているというのも、実に皮肉なことだ」
 と、思っていたに違いない。
 いずれ戦争が終わり、兵士は続々と帰国していく。中にはここを故郷として、帰国せずにとどまっている人も多かった。カメリスへは、戦士したと報告していたのであろう。
 それも戦争が終わったからできることだ。アテルマ国に駐留したカメリス人が、この国の人民には戦犯になるような悪いことは何もしていない。だから、彼らの処遇は、比較的緩やかだったのだ。
 この国に骨を埋めた兵隊の中には、アテルマ国に侵攻している六角国の野望に気づいていた人もいただろう。それでも、すでに年老いてしまった彼らに何かできるはずもない。すでに時代は彼らの子供たちに委ねられていたのだ。
 彼らは実に頭がよかった。六角国の思惑も分かっていた。分かっていて彼らを利用しようと考えた。六角国側から見れば順風満帆にアテルマ国を収めているように感じていたのだろうが、実は六角国の首脳から、ある程度踊らされていたのだった。
 確かに六角国の支配は完璧だった。だが、それもアテルマ国のごく一部の首脳の思惑通りだったのだ。しかし、まさか六角国が開国に応じ、撤退していくとは思わなかった。
 その頃には六角国も首脳の考えに気づいていて、撤退していく時に、反対勢力に力を貸すような体制を取っていた。そのことがその後の内乱を引き起こすことになったのだが、それでもアテルマ国の独立精神は強かった。
「元々のカメリス民族の血が、アテルマ国の団結を強固なものにしたのだ」
 と、この時代の伝説が作られたのだ。
 伝説は、さらに昔からあった。一部に人間にしか知られていないことだが、実はアテルマ国にカメリス人の血が混じるのは、大戦の時期の軍隊によるものが最初ではなかった。もっともっと昔の、およそ時代は二千年前に遡る。
 カメリスでいえば、大和時代とでもいえばいいのか、巨大な古墳が作られていた時代である。カメリス民族は、元々の原住民に対して、大陸からの渡来人とで、カメリス民族が形成されたのだが、それは、自国の民族しか考えていなかったから、想像もつかなかったことだった。
「渡来人がいれば、大陸に渡る人もいて当然だ」
 という考えが成り立つが、その発想が薄かったのは、当時のカメリス民族に、大陸に渡るだけの力量があったなど、信じられないという考えがあったからだ。どうしても大陸民族にはかなわない。渡来人によってのみ、カメリス民族の発展があったという考え方だった。
 だが、実際には大陸に渡り、国家を形成した民族がいた。それがアテルマ国の先祖だった。
 六角国はそのことを知っていた。昔のカメリス民族が侮れない力を持っていて、アテルマ国地域周辺で静かに暮らしていた。六角国は資源があるところに偶然アテルマ国の民族がすんでいたのだとは思わない。逆に資源があるところを見つけて、そこを根城に目立たないように生計を立てている民族がいることを知っていたのだ。いずれは自分たちが利用するつもりで、知らん顔をしていた。下手に動いて、他の国に察知されることを恐れたのだ。六角国にとって、国家の存亡、あるいは、国家の盛華にかかわることが起こった時のための、
「秘密兵器」
 として、密かに暖かい目で見つめていたのだった。
 アテルマの民族は、そんな六角国の思惑など知る由もなかった。目立たないように静かに生計を立てている民族としてふるまっていることで、世界で起こっている紛争などの各国の勝手な思惑に惑わされることなく乗り越えていけると信じていた。
 実際に、大戦が終わって半世紀、それまで他の国で起こってきた独立に伴う内乱に巻き込まれることなく、見て見ぬふりをしながら、うまく乗り越えてきた。六角国から介入された時も、なるべく波風を立てないことで平和な国を維持してきた。しかし、その六角国の支配が緩んでくると、まさか自分たちの中から内乱が起こるなど、想像もしていなかった。
「血が混ざったからかも知れない」
 そんな噂が巷を駆け巡った。
作品名:アテルマ国の真実 作家名:森本晃次