アテルマ国の真実
それぞれの派閥に属する人は、まったく他の派閥を認めようとしない。親六角国派であれば、反民主国家派であることは明らかなのに、派閥として独立している以上、両方の派閥の考えを持つことは許されなかった。
それがアテルマ国の特徴だった。
「小国ゆえに、どこかの国家にすがらないと生きていくことはできない」
ということは分かっている。
当然、国民の中には不安を抱えている人もたくさんいる。何しろ国家を守る軍隊がないのだ。何かあれば、どこの国が守ってくれるというのだろう。
そういう意味で、国連への加盟は国民を安心させた。
「国家に軍隊がないので、しばらくは国連軍がアテルマ国を保護国として認定する。つまり、正当な理由のある攻撃ではない限り、アテルマ国への侵略は、国連軍への攻撃とみなす」
という認識だった。
だが、それもしばらくの間だけのことで、五年以内にアテルマ国は軍隊を持つことを約束させられた。軍隊ができて初めて独立国家として、他の国連加盟国と同等になれるのだ。それまでは、国連の保護国という立場だった。
それだけに、国連からの縛りは強かった。
内乱に対して、国連軍の介入は容赦がない。国家安定のためには、反乱軍に対しての殺戮もやむ負えないということになり、国連が介入してこなければ、完全に無法地帯になっていた地域である。
アテルマ国は、軍隊を持ってはいないが、テロ活動ができるほどの団体はいくつか存在していた。逆にテロ団体があるから、その分の武器弾薬が国家に回ってこないのだ。
アテルマ国は国家としての体裁は整っているが、六角国の支配から解放されて表にその表情を明らかにすると、テロ集団の集まりであり、とても、国家体制などというものは存在しなかった。
そういう意味では、国家に軍隊がなかったのも当然のことである。散々六角国が食い散らかしたその後に、残ったものは、
「つわものどもの夢のあと」
と言ったところであろうか。
アテルマ国は、誰か強力な指導者が現れなければ、本当の独立などありえないという様相を呈していたのだ。
アテルマ国の内乱は、しばらく続いた。首都は荒廃を極め、難民が隣国に溢れていた。
独立した時から分かっていたことなのかも知れないが、国連はあまり役には立たなかった。どうしても独立国に対しての介入は、
「内政干渉だ」
と言われかねないからだ。
特に、六角国から言われるのは耐えられない。元々は六角国が招いた内乱であることは誰の目から見ても明らかだった。言葉に出さないのは、アテルマ国の内乱だけでも大変なのに、六角国との緊張まで招いてしまっては、国連も身動きができなくなってしまうだろう。
しかも、アテルマ国の内乱に関して、いち早く中立を宣言したのは、他ならぬ六角国だった。しかも、
「難民が出ても、我が国は、一切引き受けない」
と言って、難民の流入を完全にシャットアウトしていた。国境には鉄条網を張り巡らせ、今まで以上に警備を強硬にし、アリの入る隙間すら与えない状況となっていた。
アテルマ国も、大っぴらに今まで自分たちが六角国の属国であったということは言えなかった。六角国から独立する時に、見返りとして、
「六角国の軍隊の一部をアテルマ国に派遣し。アテルマ国が軍隊を保有できるまで、面倒を見る」
という条件が盛り込まれていたのだ。
アテルマ国にとってみれば、ありがたいことだった。独立できて、しかも軍隊を持つことを六角国が保証してくれたのだ。これほどありがたいことはないということで、独立を二つ返事で引き受けた。
しかし。六角国はその先を読んでいた。
内乱が起こることは分かっていた。しかも、アテルマ国には軍隊がなく、個人での兵力があるだけだった。それだけに、アテルマ国は軍隊を欲するはずだ。そして、それが彼らの弱みとなり、属国ではなくなっても、自分たちの国に、災いが及ばないようにしなければいけない。
問題は、内乱によって引き起こされる、
「難民問題」
であった。
何とか彼ら難民を引き受けなくてもいいようにしなければならない。そのためには、軍隊を作るための援助を申し出ることで、難民を引き受けなくても、世界から避難を浴びないようにできる。この計画は、最初から計算された中にあったものだ。六角国というのは、何ともしたたかな国なんだろう。
しかし、元々が狭い国家なのだ。難民の数としても知れている。一時の不自由を何とか抱え込めば、難民問題は解決に向かうだろう。
それでも、ちょっとした難民であっても、引き受けなければいけない国にとっては大変な負担だ。特に大国である六角国が難民を引き受けないのであれば、ことの他、他国は大変なことになってしまう。
「アテルマ国に隣接する国の国力を削ぐことも、実は計算のうちだったのだ」
と、後になって他の国も気づくのだが、後の祭りだった。
アテルマ国は、内乱で大変であったが、難民を引き受けざる負えなくなった国に比べれば、国力の消耗は比較的軽微だった。他の小国は。国連や先進国に気を遣う結果、自分たちの力が消耗していっても、仕方がないことだと諦めていた。何が起こっても、武力衝突できるだけの国力は残っていない。難民を抱えてしまったことで、国としての他国に対する影響力は、まったくなくなってしまったのだ。
他の国は、アテルマ国の難民を受け入れることを国連から半ば強要された。難民問題を解決するためには仕方がなかったとはいえ、難民の行動は、受け入れてもらった国からすると、容認できるものではない。難民によるわがままな振舞いや、違う土地にいるという意識の欠如が、難民問題にさらなる火をつける結果になってしまった。
この状態は、国連の面目を丸潰しにしてしまった。
「我が国は、他民族によって、侵略されている」
と言いたい。
「国連が強要した結果がこんなことになってしまっている」
難民に雪崩れ込まれた地域では、それまでにはなかった犯罪が多発していた。
暴行、盗難、強姦……、まさに無法地帯だった。
そのせいもあってか、国連の権威は地に落ちていた。
「国連は、強要だけして、それぞれの国家には何もしてくれない」
しょせんは、国連といっても、強要はしても問題が起これば、何の力にもならないということが露見してしまったのだ。
国連が何もしてくれないことが分かると、アテルマ国の国民は、内乱をしても、結局な何も変わらないことに気づいた。内乱軍は次第に和解を行い、仮想敵国を表に求めた。
その相手が隣国だった。
軍隊を有しない国として見られていたが、内乱軍の武装は、他の国の軍隊に引けを取らないものだった。しかも、今まで争っていただけに行動は迅速だった。あっという間に攻め込むと、一気に首都を陥落させてしまった。そして、すぐに併合を宣言したのだ。
攻め込まれた方の国には、難民が多く入り込んでいた。難民が、内部から攻撃したことも陥落に一役買っていた。あっという間に占領されてしまったことで、国家は崩壊した。
しかし、国民にとって、崩壊は本当がありがたいことだった。