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アテルマ国の真実

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「もし、この時点で、六角国が首長国宣言をしてしまうと、名実ともに全世界に『六角国の内乱』として認知されてしまい、我々の独立運動には、外部からの助けを得ることができなくなるだろう」
 と思っていた。
 何といっても、その当時の国連では、「首長国宣言」が認められていた。
 確かに、世界大戦が終わり、平和な時代になったが、そのあとすぐに起こったのは、首長国の支配、つまり植民地支配から逃れたいという独立運動やクーデターだった。その結果、多くの国の独立を許し、国連はすべて後追いでの事態収拾に振り回され、しかも、そのうちの一つが禍根を残してしまい、今でも地域紛争の火種として、いつ爆発するか分からない状態になっていた。
 そのため、その時の教訓を生かし、
「もし、今でも植民地が存在していて、首長国が国連で『首長国宣言』を行えば、国連は基本的に、それを認める」
 という条文が、国連憲章には追加されていたのだ。
 もちろん、六角国にも分かっていて、アテルマ国の方でも、クーデターを計画している時点で分かった。
 分かってしまうと、意見は二手に分かれた。意見の収集がつかなくなり、アテルマ国は、クーデターができなくなってしまった。これも六角国の陰謀の一環であり、自国の軍隊がないことと並んで、大きな問題だったのだ。
 そのおかげで、平和な国家として、表向きは推移していた。国連に加盟していない国で、ここまで平和が続く国も珍しかった。元々、国連に加盟しない国というのは、内乱が続いていたり、国家体制が国連の常任理事国と違っている国であるため、自分から国連に参加しない国が多かった。
 アテルマ国は、後者だった。表向きは独立国の体裁を示していても、どうしても、六角国の影響が強いので、社会主義国として、国連への加盟はできなかった。少し前に建国した三か国も、国連には加盟していなかったが、それはまだ発展途上というのが、その理由だった。
 そういう意味では、この地域は世界地図的には異様な地域だった。それぞれに主義主張、そして、建国の理由がまったく違う国がひしめいているのだ。もちろん、国家体制の違いもさることながら、宗教も違っている。四か国とも、主要宗教を持っていうのは共通しているが、それぞれ信じる宗教が違っているというのも面白い。
 アテルマ国の歴史は激動だった。
 建国が行われて、平和な国家として世界にデビューしたのだが、しばらくすると、六角国が首長国宣言を行った。元々軍隊を持っていなかったので、歩む道とすれば、どこかの大国の庇護を受けるか、永世中立国としての歩みを進めるかのどちらかしかなかったのだが、永世中立国といえど、軍隊は有している。
 カメリスですら、自衛隊というのが存在するのに、ここはそれすらない。専門家の間では、アテルマ国がどこかの属国であることは、周知の上だっただろう。それだけに六角国による首長国宣言は、十分予想できることであった。
 アテルマ国は、その後、独立宣言を行った。
 こちらに関しては、専門家にも想像がつかなかったようで、世界にセンセーショナルな話題と、いろいろな憶測を巻き起こした。
「いよいよ、六角国も植民地支配ができないほど、経済が破たんしているのではないだろうか?」
 というものや、
「いやいや、それ以上に、社会主義陣営の限界が見えてきたからではないか?」
 というもの。
 さらには、
「世界地図のバランスが崩れ、これからは安定のない世界の構図ができあがり、流動的な未来は、予測不可能だ」
 という意見すらあった。
 どちらにしても、六角国や社会主義の国にとっては、
「未来がない」
 と思われていた。そんな世界を冷静に見ていたのはアテルマ国の首脳で、
「この期を逃すことなく、今の間に自国の体制を確立させることあ」
 として、まずは国家体制の確立から、開始するのだった。
 今までのアテルマ国は、六角国の支配下の下にあったとはいえ、民族的には優秀な人材を今までも世に出してきた。国家を持たない民族だったが、彼らは世界各国の主要な人物として、活躍している。
 それは、かつてのユダヤ人のようであるが、アテルマ国を形成している民族は、元々ユダヤ系の民族が別れたものであったことは、あまり知られていない。
 ただ、さすがに六角国だけは知っていた。知っていて敢えて自分たちの国家のために利用しようと考えたのだ。
 利用するだけ利用して、利用価値がなくなると、独立させようという意見は、アテルマ国建国の前からあったのだ。
 アテルマ国建国の裏には、
「独立させることを前提に生まれた、六角国の属国」
 だったのだ。
 ここが、植民地支配とは違っているところで、運営、管理はアテルマ国にやらせて、利用できるところだけ属国として利用していた。その見返りが、
「他国からの侵略があった時は、六角国の軍隊を出動させ、アテルマ国を自国防衛として展開させる」
 というものであった。
 実際にアテルマ国への支配は、すでに終わっていた。まだ利用価値がある状態で支配を解いてしまう方が、執拗に支配に固執してしまうよりも、他の国に対しての印象はすこぶるいい。
 アテルマ国への支配を他の国も気づき始めていた。そのことに気づかずに支配を続けていると、国連から警戒されてしまい、下手をすれば、経済封鎖しかねられない。経済封鎖などされてしまうと、アテルマ国から得られる何倍もの物資が、六角国に入らなくなってしまう。それだけは避けなければならない。
 六角国の情報網は、先進国の秘密情報員よりも優秀だった。
 何しろ国家の存亡がかかっているのである。他の先進国とは真剣度が違う。世界の主流となっている国家体制をほとんどの先進国が歩んでいるのと違い、正対する国家体制を営んでいる先進国は、六角国を含め、数えるほどしかない。
 しかも、国家体制は秘密主義であった。同じ国家体制を営んでいる国であっても、主義主張を知られてしまっては、国家存亡の危機に陥る。どの国も一触即発の様相を呈しながら、慎重に国家運営を行っているのだ。
 アテルマ国の開国、そして独立は、六角国のシナリオ通りであったが、アテルマ国から手を引いた六角国は、何とその三年後には、アテルマ国との国交を断絶してしまった。
 これには世界各国が驚いた。同じ社会主義国家ですら、想像もしていなかったことで、
「何を考えているんだ」
 というのが、ほとんどの国の考えだった。
 さすがに、元々属国だったとは知らないだろうが、開国し、独立したら、国交を断絶するなど、何かのシナリオがなければ考えられない。
「他国を欺く」
 というだけでは説明のつかないことであった。
 ただ、当事国であるアテルマ国には分かっていたことだ。自分たちが見捨てられることが分かっていて、鎖国政策、開国、そして独立にこぎつけた。そういう意味では、アテルマ国は自国の独立を、どこよりも冷めた目で見ていたのだ。
 アテルマ国は、独立すると、親六角国派、反六角国派と、完全に分かれてしまった。
 当然のごとく内乱が起こり、それぞれの派閥だけではなく、親民主国家派、反民主国家派に分かれていた。
作品名:アテルマ国の真実 作家名:森本晃次