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アテルマ国の真実

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 しかし、世界が平和になったわけではない。国家間の争いというよりも、団体による内乱やテロ行為が頻発する世の中になり、世界秩序が再び乱れ始めた。そんな歴史の間隙をぬって、いまさら傀儡国家なるものが存在するのだ。
 アテルマ国は、ある意味、試験的な国家として存在しているのかも知れない。国連や先進国は、アテルマ国の本当の姿を分かっているはずである。しかし、国際社会の中で、アテルマ国の本来の姿は「暗黙の了解」の中に埋もれてしまっている。
 アテルマ国に住んでいる民衆は、最初こそ、独立国家ではない自分たちの立場を考えていたが、どうにもならないと知ると、
「これが我々の運命なんだ」
 と考えるようになり、余計な波風を立てることなく、ひっそりと暮らしていく道を選んだ。
 支配される側というのは、えてしてそんなものである。なるべく、他の国の紛争に巻き込まれないように考えたり、自分たちがいかにして生き残るかだけしか考えないようになった。
 それは、
「閉鎖的」
 という言葉だけで言い表せるものではない。自分たちから見えるのは、六角国だけであり、その外にある国はまったく見えてこないのだ。
「六角国からは支配されているが、他の国から侵略されることはない。考えてみれば、六角国がこの国を守ってくれていると考えればいいじゃないか」
 という考えが生まれたのだ。
「こちらがいうことさえ聞いていれば、国家は安泰なんだ」
 口にしないまでも、国民の誰もが思っていることだった。
 ただ、そんな情勢がいつまでも続かないのが、世界情勢というものであり、またしても、世界秩序の崩れが、アテルマ国に襲い掛かってきたのだ。
「アテルマ国を、国連に加盟させる」
 六角国首脳の決定だった。
 実は、アテルマ国は建国から三十年した頃から、今ではありえない鎖国政策を行っていた。もちろん、それは六角国の傀儡であるがゆえなのだが、アテルマ国もそれを望んでいた。
 まわりの国は見えてこないことで、恐怖に駆られていた時、六角国から、
「鎖国政策を取る」
 という命令が下された時、アテルマ国の誰もが、
「これこそ、渡りに船だ」
 と思っていた。
 アテルマ国は、確かに六角国の属国であるが、民族は六角人ではなかった。
 元々、このあたりは、かつての戦争の影響からか、カメリス国の民衆がたくさん移住していて、今でもその子孫は、ほとんどがカメリス民族だったのだ。
 アテルマ国は、カメリス民族に本当であれば、恨みやトラウマがあるはずだったが、彼らの国家としての政策には変えられず、仕方なしに、アテルマ国を独立させ、属国としたのだ。属国にすることで、恨みやトラウマを解消できたわけではないが、少なくとも、六角国内での民衆に対しての説明はついた。
「カメリス民族を、今まで自分たちがされてきたことへの報復として、アテルマ国を独立させる」
 と国民に訴えた。
 さすがに植民地、封建支配などという言葉を使うことはなかった。だが、国民のほとんどは理解できたはずだ。アテルマ建国は、六角国にとっても、いろいろな意味で大きな功績だったのだ。
 鎖国政策を取っていたアテルマ国が、ある時急に鎖国政策をやめることになった。
 そこに、六角国の影響があったのは事実だが、それよりも、アテルマ国の国民意識が徐々に変わっていったことが大きかった。
 そこには六角国の権威が世界的に落ちていき、世界地図が塗り替えられかけたことが原因だった。
 ただ、六角国の権威が落ちかけたのは事実だったが、実際に落ちたわけではない。それでもアテルマ国はそのタイミングを持って、開国した。世界を見ることができたのだ。その時に、一緒に国連に加盟したのだが、その決定は、いまだアテルマ国に影響を持っていた六角国の首脳の指示だというのも、皮肉なことである。
 そんなアテルマ国だったが、国連に加盟することが決まると、完全に属国としての機能を失う。それまでの年貢のような朝貢はなくなったが、六角国からの保護もなくなった。
 アテルマ国内には、六角国の軍隊が駐留していた。
 かなり大規模な軍隊がひしめいていて、国土の一割近くは、軍隊で占められていた。
 なぜなら、アテルマ国には、自国の軍隊がなかった。完全に六角国の軍隊で守られていたのだ。
 理由は一つである。
 アテルマ国が軍隊を持てば、まずはクーデターが起こるかも知れないと考えたのだ。
 六角国からの支配を排除して、自国だけの権利を主張しようとする。
 六角国が鎮圧することはできただろう。しかし、そのおかげで、余計な時間と軍事費、さらには軍隊出動による人的被害を考えると、まったくの無駄である。なぜならアテルマ国は、六角国の属国だからである。
 それでも、国際的にアテルマ国が六角国の属国であることが分かっていれば、まだよかった。全世界にアテルマ国と六角国の絶対的な主従関係が認められていれば、クーデター鎮圧も、
「内乱鎮圧」
 ということで事なきを得るのだ。
 しかし、六角国によるアテルマ国の支配が認められていない以上、クーデターが起これば、他の国の介入を許してしまう。これが属国であることが分かってさえいれば、さすがに国連加盟国としては、
「内政干渉」
 に踏み切ることはできないからだ。
 それだけに六角国によるアテルマ国建国を、近隣国家とは分けて考えたのは、うまい作戦だった。秘密裏に事を運ぶ必要があったことで、他の国の建国が数か国一気に宣言したことで、大きなセンセーショナルを巻き起こし、その時点がクライマックスということで、クライマックスの騒ぎが収まれば、それ以上の騒ぎでもない限り、一気にトーンダウンしたことは否めない。
 アテルマ国の歴史の中で、長かった鎖国が終わり、開国したことは六角国にとって、計算ずくだった。ただ、思ったよりもアテルマ国内には、さほどの資源があったわけではない。取りつくしてしまえば、あとは属国としての機能がなくなるのだった。
 アテルマ国内には、独立を願う団体がいくつかあった。
 そのどの団体も、そこそこの大きさがあったが、団結しなければ、独立運動を起こすことはできない。
 それぞれの団体には、どうしても他の団体と共同で事を起こすということが許されないわだかまりがあった。実は、そのわだかまりも、六角国のスパイが陰で躍動することによって表に出ることもなく、彼らの間のいざこざになっていた。それぞれの団体の長としては、どうしてこんなにわだかまりがあるのか不思議だったが、まさか、裏で六角国が暗躍していたなど、想像もつかなかった。
 それだけ、六角国の力は侮れないということだった。アテルマ国の人民は、首長国である六角国を、心のどこかでなめていたのかも知れない。
 六角国の影を感じている人がいないわけではなかった。だが、何か作戦を立てることはおろか、他の人に話をすることすら躊躇っていた。
「もし、ここで事を起こせば、国内は一気に乱れる。しかし、軍事力のない我が国は、一気に鎮圧されるだろう」
 さらには、
作品名:アテルマ国の真実 作家名:森本晃次